ダンジョン・深層(上)
自分でも判別の出来ない程の階層へ来てしまった。
初心者を二人連れた、装備不足のダクセンに出来る事は可能な限りの戦闘を避けることと、なるべく長く救助を待つことだった。
転移後なるべくゆっくりと辺りを把握した後でパーティは移動を始めた。
「ネーク、魔除けの加護はヴァンリと君の二人だけでいい」
ダクセンはなるべく冷静に伝えた。
本当であれば二人を置いて逃げ出したい程の恐怖に襲われていが、騎士団時代の団長の言葉が押し留めていた。
「どうしてですか?」
「このレベルになると全員で気配を消すと逆にバレる可能性が高まる。
それなら前衛である俺が注意を引いている間にヴァンリの魔法で強襲を掛けて戦闘を離脱したい。
そして言わずもがなネークの加護がこのパーティの生命線だ」
改めて役割の確認をする。出来ることを最大限する。そう努力する。
それは意外と難しいのだ。
「あの・・・。私達はどこへ向かっているんですか?」
後ろの二人の不安感が伝わってくるようだった。
きっと何か言葉を交わしていないと悪いことばかり考えてしまうのだろう。
そしてそれは自分も同じだった。
「不干渉地帯だ。ダンジョンの階層が一定を越えると発生する。
不干渉地帯というのは、モンスター同士の縄張りの隙間だと考えれば良い。上の階と違ってそれぞれの個体が縄張りを持つような所では、争いを避ける為にどのモンスターの縄張りではない場所というのがあるんだ」
「でもそれってどうやって見つけるんですか?」
「方法は色々あるが、比較的に簡単なのはモンスターの痕跡を探すことかな」
ダクセンは自分が辿っていた目印を指差した。
ヴァンリが光源にしていた魔力の弾を足元に移動させた。
薄い砂が撒いたようなダンジョンの床には小さく無数の足跡があった。
「サイレントパセランの足跡だ。こいつらは魔力の濃い所でしか生きていけないが強くない。魔法を反射する体毛で覆われてはいるが物理攻撃にはめっぽう弱いし、魔法を使うモンスターは少ないからヒエラルキーはかなり下だ。
だからこいつらは、危険を避けるのが上手い。この足跡を辿っている間は運が悪くなければモンスターとのエンカウントは避けれるだろう。そしてこいつらの群れがある場所が不干渉地帯ということだ」
確か、ダンジョンの深層へ行っていた別部隊の奴が酒場で自慢話の合間に語っていた内容の受け売りだった。
なるべく二人に安心感を持たせる事が出来る様に心掛けて話をした。
大丈夫だ、あいつの行っていた通りだ。このまま行けばとりあえずは安心だ。
そうやって自分に言い聞かせながら神経を研ぎ澄ませていく。
足場はゴツゴツした大きめの石が風化してそこそこ平らになっていて悪くない。
砂ほこりっぽい空間。今は夜なのか、荒涼とした世界には強めの風が吹いている。
時間を掛ければこの小さな足跡は消えて無くなってしまうかもしれない。
日が出れば拓けた視界で大型モンスターに見つかるかもしれない。
または、この階層には昼というものそのものがないのかもしれない。
全ての可能性がある。それがダンジョンの深層だ。
後方でダクセンを呼び止める声が聞こえた。
「これって冒険者ですか?」
ネークの足元には人の形をした朽ちかけの物体が落ちていた。
「どうだろうな・・・。こんな深層で行き倒れる様な奴がいるとも思えないんだが・・・」
少し戻ってダクセンも横たわるぼろ切れの主人を確かめた。
それは既に白骨化した死体のようだった。抜き身のまま放り出された片手剣も朽ちかけている。
「出来るならお祈りだけでもしてあげたいのですが、いいでしょうか?」
ネークの横で恐々と様子を伺うヴァンリはふと辺りを見渡した。
「誰かに見られている・・・かも?何これ視線とも違うし・・・。
ちょっとネーク!そんな死体はいいから貴方も確認してよ!」
「待て、大きな声を上げるなって。一体どうしたって言うんだ・・・」
行き倒れの装備品などを漁っていたダクセンは頭上のやり取りに顔を上げた。
「ヴァンリが視線がどうのって・・・。僕は別に感じないんだけどな」
魔法使いのみが感じる気配・・・?
高等魔法の一つである広域魔力探知を使えるのか?
「ヴァンリ。魔力探知ってしたことあるか?」
「そんなの使ったことはないわ。でも何か今までとは違う・・・」
その返答にダクセンは目を閉じると改めて気配を探った。
この二人は自分の仲間だ。互いに命を預けあっている。
この場に置いて一番まずいのは一方的な敵の先制攻撃を許すことだ。
ダクセンは片膝を付いた体勢のまま両手を耳に翳し闇の中で耳を澄ます。
風切り音!
「3時の方向より投擲!!!」
強襲に対して訓練によって体に染み付いた反応で仲間に敵の存在を知らせる。
瞬間足元の行き倒れに数本の矢が突き刺さった。
「二人は俺の後ろに距離を取れ!ヴァンリ!矢の対応任せられるか!?」
バタバタと陣形を整える後方の二人に対して、矢の飛んで来た方向に集中する。
「タイミングに合わせて風魔法を出すわ!!」
「それで防げるといいんだが・・・。」
矢は行き倒れを目印に飛んで来たように見えた。
魔除けの加護の掛かっている二人を認識していたかどうかで戦況は大きく変わるだろう。
こちらに飛んでくる分にはいいが、後衛を集中放火されるとまずい。
「ぎゃぎゃぎゃぎゃ」
突如目の前で行き倒れから骨を擦り合わせたような音がした。
うぞうぞと散り散りになっていた骨が意思を持って元あった形に戻っていく。
「クソったれ、元々こいつは餌だったって訳か。こいつら不死の骨だ」
ボロボロの片手剣を構えたスケルトンは顎の骨を器用に擦り合わせて笑っているようだった。




