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第47話 ラングのサプライズ


 この日の授業はすべて終わった。

 あらためて教員たちに礼を言いにいった。


 さて、これから寮に帰る。

 ルアンナが許可してくれたので、似非パーティー仲間もいっしょだ。

 宿代が浮くのはとても助かる。ただし寮に何日間いられるのかは不明。

 もしヤツらが帰ってきたら、ただちに寮から出なくてはならない。


 寮に到着。


 皆、綺麗な中庭や立派なコテージに目を丸くしている。

 ルアンナが中庭に出てきてくれた。


「皆さん、いらっしゃい」

「ありがとう、ルアンナ」


 オレが頭をさげると、ルアンナは目をすがめるのだった。


「ねえねえ、仲間って全員女の子じゃない。もぉー、隅に置けないわね!」

「別にそんなんじゃない。それを言うんならソードマスターだって、周りがすべて男子だったから同じことじゃん」

「同じじゃないわよ。スクールの指示でメンバーを組んだんだから」


 チャオプがオレの袖を引いている。

 引くんじゃない、袖が伸びるだろ。


 ルアンナはチャオプの前にしゃがみ込んだ。


「どうしたのかな?」


 小さな子供をなだめるような眼差しだ。

 チャオプの年齢を知ったらビックリすることだろう。


「師匠って、スクールに通ってたときから女癖悪かったのか?」

「そ、それはどうかしら」


 どうかしら、じゃない! 

 誤解されるだろ。


「ちゃんと否定してくれよ」

「はいはい、否定否定」


 それ否定のつもりかよ。

 何故かルアンナが笑っている。


「な、なんだよ。ルアンナ」

「ラングってなんの師匠になったの?」


 ルアンナはそれで笑っていたのか。

 その呼び名は勝手にコイツが言っているだけだ。


「さあな。オレにもわからん」

「とにかく二人はきっと仲良しさんなのね」


 それはどうだかな。


 ふと、ルアンナの顔から笑みが消えた。

 それは彼女がムアンと向き合ったときだった。

 なんだかボーッとしている。


 オレは彼女に声をかけてみた。


「ルアンナ?」


 彼女の背中がぴくりと動く。

 我に返ったようだ。


「ご、ごめんなさい。話はラングからいろいろ聞いていたけど、想像してたよりもずっと似てたから……」


 チャオプが彼女の顔を見据える。


「わたしも思ってた。ムアンによく似てるぞ」


 そうだろ? 似てるだろ?

 誰だってそう思うよな。


 ここでオレは皆に、ルアンナとムアンが姉妹だと勘違いしていたことを打ち明けた。そしてそれをサプライズとするため、黙ってきたことも正直に話した。しかしルアンナには入院中の妹が一人いるだけだったのだ。


 結局、彼女たちへのサプライズ(、、、、、)は失敗したという話だ。

 サプライズなんて初めから計画しなければ良かった。ああ、カッコ悪い。

 やはり仲間たちからは笑われてしまった。


 ルアンナがムアンに言う。


「さっき『想像してたよりもずっと似てた』と言ったのはね、『あなたがわたしによく似てる』という意味ではないわ。『わたしの妹によく似てる』ってことなの」


「姉妹だからそうなるわね。どちらもわたしに似ているのでしょうね」とムアン。


「それが、似てるなんてものじゃないの。あなたと妹はそっくりそのまま! まさに瓜二つ。ホクロの位置までもいっしょなのよ。ホント、あなたを見てビックリしちゃった。だけど別人。いま妹はちゃんと病院にいるから」



 ルアンナの視線はムアンからオレに流れた。

 じっと顔をのぞき込んでくる。


「な……なんだよ、ルアンナ」


「ラングは昔っからサプライズが好きだったわね。とても友達思いな子だった。仲間の喜ぶ顔が見たかったのよね。だけど……。うふふ」


「なに笑ってるんだよ」

「聞きたい?」


 嫌な予感がした。ここは拒否すべきだ。


「いいや、聞きたくない」

「わたしは聞きたいぞ!」


 チャオプが手をあげた。

 コイツはいつも余計なことを。


「では皆に話すわね。ラングが苦労して用意したサプライズって、ほとんどが空回りに終わっちゃうの。要領が悪いのかしらね。でもそのときの顔がもう可愛くて可愛くて。やらかすたびに胸がキュンキュンしてたわ。ギュッてしたくなるの」


「ギ、ギュッて……」チャオプがプイッと口を尖らせる。


「あー、わかるぅー」今度はムアンだった。


 何がわかるというのだ?

 ルアンナがムアンに顔を寄せる。


「でしょ?」


「うん。しょんぼりしたときの顔とか、困ったときの顔とか。ラングはピンポイントでツボを突いてくるのよね。あんな表情が見られるのなら……ワザとからかったりイジメちゃいたくなるの。その感情を抑えるのがまた大変」


 絶対やめてくれよな、ムアン。


「そう、そう! そうよね」


 そうじゃねえよ、ルアンナ。もういいから。


 なんか二人は息ぴったりだ。

 いっしょに跳びあがってはしゃいでいる。

 跳ぶときの胸の揺れ具合もいっしょだった。


 おいおい、お前ら姉妹かよ。



 ヘンな盛りあがりも、ようやく収まった。

 だがイリガはここに来てから、ずっと話に加わらなかった。

 ルアンナはそれが気になったようだ。


 イリガの背後に歩いていき、両手を彼女の肩に乗せる。

 唇を彼女の耳の傍に持っていった。小声でささやく。


 何を話しているのだろう? 声は聞こえなかった。

 一瞬、イリガがこっちを見た。

 なんだ? ちょっと気になる……。



 ルアンナは彼女から離れ、オレに笑みを向けた。


「そうそう、いま思いだしたわ。わたしからラングにサプライズがあるの」

「サプライズ……?」


 きょうからトラウマになりそうな言葉だ。


「それってなんだ?」

「コテージの中に用意しておいたから。それじゃわたしは仕事に戻るわね」


 ルアンナはそう言い残し、オレたちのもとから去っていった。


「そんじゃ皆。来てくれ。泊めさせてもらう場所はあそこだ」


 オレがかつて使用していたコテージへと歩いていく。

 その途中、さっき気になったことをイリガに尋ねてみた。


「ルアンナに何を言われたんだ?」

「別に」

「いいじゃん。教えてくれよ」

「信じてみれば、とだけ」

「なんだそりゃ。宗教かよ」

「たぶんあなたのこと」

「オレのこと?」


 わけがわからない。

 さて、コテージの前に立つ。


 このコテージはいまやオレのものではなくなった。あのパーティーの新メンバーの部屋だ。しかしまだ入居する気配がまったくないため、その間使用させてもらうことになっただけなのだ。


「さあ、入ってくれ」


 コテージのドアを開けた。

 皆がコテージに入っていく。最後にオレも入った。


 中はきちんと掃除されていた。驚いたことに、オレの荷物はずっと残されたままだった。未だに捨てられていなかったとは! ルアンナには礼を言いたい。


 ところで彼女のサプライズってなんだろう……。

 ちょっとワクワクする。そして壁を見て驚愕した。



 えーーーーーーーーっ!




 そこには大きなポスターが張られてあった。

 ポスターのタイトルは『美しすぎる女剣士』。


 やめてくれー、こんなの飾らないでくれー。


 これがルアンナからオレへのサプライズかよ?

 ぜんぜん嬉しくない。二度と見たくない顔なのだ。


 確かにルアンナは事情を知らない。オレがまだ話していないからだ。

 だけどサプライズがオレ以上にスベってるじゃん!





    ◇





 寮に泊まらせてもらっているうえに、寮のメシまで食べさせてもらうのは心苦しい。しかも仲間はたくさんいる。だから外食することになった。


 いっしょに歩く仲間たちを見て、あらためて思った――。

 ルアンナの言うとおりだ。全員女子。周囲は女子だらけ。

 シェム、ムアン、チャオプ、イリガ。男子はオレ一人。


 これは冷やかされても仕方がないか。

 本命はもちろんシェムだけどな。


 もしここにタハーンがいてくれたら、印象は多少変わっていたに違いない。

 いまごろ彼はどうしているだろう。誘拐組織の壊滅はうまくいきそうだろうか。

 本当に短い付き合いだったなあ……。


 ソンクラムではパーティー仲間の入れ替えは滅多にない。

 しかし国外では頻繁に入れ替えが行なわれている。

 そのうえパーティーの結成も解散も驚くほど簡単だ。


 この似非パーティー仲間たちとは、いつまでいっしょにいられるのだろう?


 いまのオレたちの繋がりはとても脆いものだ。正式パーティーではないから尚更だろう。そう考えると寂しいものがある。


 皆はどう思っているかは知らないが、できることならこの似非パーティーを正式なものにしたい。そのためには冒険者スクールをやめなければならない。大きな覚悟が必要となる。




 ビュン




 考えごとをしているところに、突然、風を切る音がした。

 なんだろう? 何かが通り過ぎていったようだ。


 またもやビュンという音が聞こえた。


 日が沈んでいるので辺りは暗い。だが、いまのはかろうじて見えた。

 矢だ。矢が飛んできたのだ。危ないなあ。いったい誰が?



 夜道を歩く人々が騒ぎ始めた。

 ある者が道の前方を指差す。



「ガイコツだぁー」



 その者は大声をあげた。彼の指差す方に視線を送ってみる。

 オレは目を疑った。


 スケルトン兵の集団が歩いている。

 さっき矢を放ったのはアイツらだろう。


 集団は二十体ないし三十体ってところか。

 夜間のため、いっそう不気味に見える。


 スケルトン兵がそれぞれ弓を構えた。

 すべてオレたちの方に向いている。


 やめてくれ。何故オレたちを狙うんだ?


 チャオプが半龍化を始める。だが敵の攻撃に間に合いそうもない。

 だったらオレの方が早い。オレががやるしかない――。


 伝家の宝刀『雨ネズミ』をその場に降らせた。

 ヤツらの弓も引かれた。互いにほぼ同時打ちか。



 降り注ぐ矢の雨――。



 皆、身を伏せた。


 矢はオレのすぐ近くにも飛んできた。

 幸いなことに、体に当たることはなかった。


 スケルトン兵のようすを確認。

 ヤツらは雨ネズミで全滅したようだ。


 皆は無事だろうか?

 背後を見回してみる。



 ムアン!!!!



 横向きに倒れているムアンがいた。

 胸には矢が刺さっている。


 まさか……心臓を射抜かれたか?

 胸の辺りが真っ赤に染まっている。

 どう見ても助かりそうにない。



「ムアン、ムアン、ムアン!」



 オレは叫ぶことしかできなかった。


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