第48話 教頭からの呼び出し
スケルトン兵の矢が降り注ぎ、最悪なことにムアンの胸部が射貫かれた。
ほぼ同時に放った必殺技『雨ネズミ』により、スケルトン兵は全滅。
「ムアン、ムアン、ムアン!」
オレは慌てて彼女に駆け寄った。
チャオプとイリガも心配そうに寄ってくる。
「しっかりしてくれ、ムアンっ」
「ムアーーーーーン!!」
「ムアン……」
叫んだところでどうにもならない。
大量に溢れてくるムアンの血。
ムアン、ムアン、ムアン!
「誰か、回復薬を持ってないか?」
チャオプもイリガも首を横に振る。
誰も持っていないのは、わかっていたことだった。
仮に回復薬があったとしても、これでは……。
「痛い、痛い、痛い!」
ムアンが騒ぐ。んっ? ちょっと奇妙に思った。
いいや、ちょっとなんてものじゃない。てか、痛いどころの話かよ。
胸部を射貫かれたはずだぞ。出血だってこんなに酷いじゃないか。
しかも彼女は自分の手で、胸部から矢を引き抜くのだった。
「痛ぁーーーーーーい」
真っ赤に染まった矢尻。
こんなときに『痛い』じゃないぞ。
どうしてそんなに元気なんだ?
普通ならば即死なのに。
ただ彼女の呼吸は荒い。苦しそうだ。
肩を大きく動かしながら、ハァーハァー言っている。
大丈夫か?
さらに彼女は自分の力で立ちあがった。
衣服は血まみれだ。服の胸元を摘まみ、その中を自分で覗く。
「まあ、傷が塞がってる?」
彼女は確かにそう口にした。
回復薬もないのに、そんなのありえない。
胸を射貫かれたんじゃなかったのかよ。
あそこって心臓のはずだろ。
どうなってるんだ?
ムアンが帽子を被り直す。
終いには歩きだした。
「とりあえず寮に戻りましょっ。あー、やだな。服が血でべっとり……」
オレもチャオプもイリガも、ぽかんとなった。
だいたい、あのスケルトン兵はなんなのだろう。
多くの冒険者が住んでいるソンクラムに、魔物が出ること自体が珍しい。
しかも狙われていたのはオレたちだけのような気もする。
もうワケがわからない。
とにかく急ぎ足で寮に戻った。
◇
翌朝、目が覚めると、ムアンはすでに起きていた。
何事もなかったかのように髪を梳かしている。あの大出血はなんだったのだ。
夕べのことを尋ねてみたが、本人でさえ理解できていないとのこと。
それはそうと、ルアンナがオレたちのために、朝食を用意していてくれた。
皆で感謝しながらいただいた。
朝食後、オレは冒険者スクールに行った。
当然ながら、きょうは誰の同行もなく一人だ。
オレについては除籍ということになっているらしいが、学年主任によれば除籍は取り消しになる見込みとのことだ。その学年主任からは授業に出てくるように言われていた。
先のことはまだわかならい。だが自主退学することも考えている。もちろんまだ決まったわけではない。でもそういうことになったら、あの似非パーティーを正式なものにしよう。手続きとか面倒臭そうだが、なんとかなるだろう。
逆に、もし退学しないのならば、似非パーティーの仲間とは別れることになる。その場合、スクールにおけるオレのパーティーはどうなるのだろう? まさか元のパーティーにふたたび入ることになるのか。いいや、それだけはありえない。あそこにはすでに新メンバーがいるではないか。
それにプリースト、ソードマスター、アーチャーの三人が退学になるのは間違いない。将来を期待されたエリートだとしても、人の道に外れたことをやったのだ。したがってオレにはパーティーを組む仲間がいないことになる。仮に、例の新メンバーとたった二人きりだったら、それはもうパーティーとは言えなくなる。ではその新メンバーといっしょに、別のパーティーに押し込まれるのか? たとえば学年を跨ぐとかして……。
それも嫌だな。
この日の最初の授業は『魔物生態科』だった。
世の中には魔物が多いため、覚えることはたくさんある。
おかげで頭がパンクしてしまうそうだ。
授業の途中だったが、教室に学年主任がやってきた。
オレを呼びに来たと言っている。教頭から話があるとか。
きのう教頭はスクールにいなかった。きょうは来ているってことか。
学年主任とともに教頭室に入っていく。
教頭が座っていた。まったく愛想はない。
苦虫を噛みつぶしたような顔は、普段どおりの教頭だった。
「そこにかけなさい」
言われたとおり教頭の正面に座った。
学年主任もオレの隣に座る。
「キミが生きていて、本当に良かった」
本当にそう思っているのか?
だったら嬉しそうな顔しろよ。
一応、頭をさげる。
「ご心配をおかけしました」
「さて、キミは当スクールにおいて除籍になったことを聞いているね」
「はい。聞いて驚きました」
「多くの先生から除籍は取り消しにすべきだと意見があった」
「はい」
まあ、当然だ。オレは何も悪いことをしてないのだ。
プリーストたちが除籍になるのは自然の流れだけどな。
「しかし除籍の取り消しは不可能だ」
そんな馬鹿な!
学年主任が立ちあがる。
「おかしくありませんか?」
「これは規則だからね。いまさら取り消しは利かない」
「彼はなんの落ち度もないのですよ。規則を変えればいい話です」
「些細なことで規則は変えられない」
「彼の人生に関わることです。些細なものですか!」
これほど激昂する学年主任を見たのは初めてだった。
それだけでじゅうぶんありがたかった。
「先生、もういいです。退学でも構いません。オレ自信がついたんです。冒険者として一人でやっていけます。それに実は、新しいパーティー仲間の候補だっていますし」
「だけど……」
ここで教頭が大笑いする。
「自信がついただと? 初級魔導しか使えないのに? 結局のところ特殊スキルを得られずして十五になってしまった。特待生としては初めてじゃないかな」
ふうん。特殊スキル以上のワザについて知らないようだな。
きのうオレが第二闘技場でやったことを、まだ誰からも聞いていなかったのか。
それはどうでもいい。
除籍を取り消さない理由については、だいたい察しはついている。それはオレが特待生だからだろう。特殊スキルも取得できないような落ちこぼれに、カネはかけられないのだ。
「特殊スキルのことは、ほっといてください。だけどオレの元パーティー仲間の悪事についてはどうなんですか。どんな処置がくだされるのですか」
教頭が難しい顔をする。
学年主任は椅子に座り直した。
「彼らからきちんと聞くまでは、まだなんとも言えない。しかしあり得ない話だ」
何があり得ないだよ。
オレの退学の方がよっぽどあり得ないことだぞ。
ここでドアのノックがあった。
「失礼します」
入ってきたのは学年副主任だった。
教頭が彼に視線を合わせる。
「ご苦労。どうだったね?」
「ここで申しあげてもよろしいでしょうか」
「むろんだ。さあ、話してくれ」
学年副主任の話は、ある調査報告だった。プリーストたちがオレを裏切り、奴隷として売り飛ばしたことについてだ。彼は教頭にこう話すのだった。
「鳩型の魔導手簡で三人と連絡が取れました。彼らは皆、否定しています。また、ラング君が生きていることで彼らは大喜びのようすでした」
何が大喜びだよ! アイツらは加害者だぞ!
「そうか、そうか。やっぱりね」
おいおい、アイツらの主張をそのまま信じるだけかよ。
どうしてきちんと真相を探ろうとしないんだよ。
「キミねえ。いくら落ちこぼれたからって、嘘は良くないことだな。皆、キミの話を否定しているそうじゃないか。優秀な生徒たちへの僻みや妬みほど醜いものはないんだ」
オレは嘘なんか吐いてないぞ!
僻みや妬みなんてあるわけない!
腸が煮えくり返ってきた。
もう話すことはない。
こんなスクールなんかにいたくない。
オレは立ちあがり、学年主任だけに頭をさげた。
いままでありがとうございました。
約十年間世話になった冒険者スクールをあとにした。




