第46話 チームラングと土人形
チャオプが土人形三十体を希望すると、他の生徒たちから笑いが起きた。
担当教員もやれやれといった顔をする。
「一度に三十体なんて、わたしの魔導では制御できないよ、お嬢ちゃん」
チャオプは外見が幼いため、子供の戯言だと思われたのだろう。担当教員が『三十体が相手なんて無茶だ』とは言わずに、『制御できないから』と言ったのは、幼い子供に対する優しい配慮だと思われる。
オレがチャオプに代わって担当教員に尋ねる。
「先生、MAXで何体までなら制御可能ですか」
「やるのなら七、八体くらいまでにしておきなさい」
「ならば八体でお願いします」
「ほっ、本気か?」
担当教員の前でチャオプの頭に手を置いた。
「コイツ、マジやりますよ。一人でじゅうぶんです。なあ、チャオプ?」
「もちろん」
担当教員が困ったような顔になる。
「そんなことは言わずに、協力してとりかかりなさい。では八体出そう」
魔法陣から土人形が八体出てきた。
嬉しそうなチャオプの顔に変化が生じる。
さーっと表情がなくなり、髪も肌も真っ白になっていく。
半龍半人のチャオプ登場だ。
彼女の口が開く。フッと息を吐いた。
スノーブレスだ。
一瞬のうちに勝負がついた。
担当教員も他の生徒たちも、目の前のことが信じられないようだ。
皆の表情は固まり、ただ茫然としている。
オレも驚いたことが一つある。
「あれらの土人形、溶けてないか?」
半龍半人のチャオプはこう答えた。
「これはいままでのスノーブレスとは別物。超酸息。レベルがあがったので、より強力な息を吐くことができた」
「てかさ、協力してとりかかれって言われたんだ。一人でやるなよ」
「申し訳ない」
静まりかえっていた第二闘技場内が次第にガヤガヤしてきた。
ある生徒が叫ぶ。
「いまの見たかよ。あっと言う間だったぞ。もしかすると『彼ら』より強いんじゃないのか」
その生徒の言う『彼ら』とは、プリーストたちのことだろう。
オレは手を伸ばし、ふたたびチャオプの頭に乗せようとした。しかし実際、乗せたのは頭ではなく肩の上だった。半龍化した彼女を子供っぽく扱うのは、どうかと思ったからだ。そして担当教員に言う。
「彼女が三十体と言った意味がわかったと思います」
「いやあ、確かにビックリした。素晴らしい仲間だね」
「まあ、オレだってあのくらい……」
ここで他の生徒から「嘘つけぇー」の声。
嘘なものか。いまのオレはここに通っていた頃とは違う。
ユニコーンだってファイアリザードだって倒してきたんだ。
「やってみるかい?」
「はい、八体でお願いします」
「ではやってみなさい」
先ほどと同様、魔法陣から八体の土人形が出てきた。
抱えていたシェムをムアンに預かってもらう。
ここでは素っ裸にはなれないので、『スーパーハツカネズミ』は不可能。『風ネズミ』がベストだ。『雨ネズミ』ならば手っ取り早く土人形を片付けられるだろうが、範囲をきっちり絞り込ませることに自信がない。一部のネズミが生徒の近くに降ってしまう可能性もあるのだ。もし生徒に当たったら即死は免れない。
八体の土人形に対し、風ネズミを一体ずつ発射していく。
その分、時間はかかった。しかしすべての土人形を粉砕。
大歓声に包まれる。
「師匠、わたしより時間かかったな」
すでにチャオプは元に戻っていた。
半龍半人ときの記憶は完璧にあるようだし、変化も驚くほど素早くなった。
龍化のワザを使いこなしてきている証拠だろう。
「うるせ。雨ネズミだったら瞬時に終わってたんだ」
オレたちのやりとりに担当教員が笑みを浮かべる。
「ハハハ。二人とも素晴らしかったよ。あとの二人はどうなのかな」
あとの二人とはムアンとイリガのことだ。
「わたしは冒険者ではありません」とムアン。
「わたしも遠慮する」とイリガ。
オレはイリガの背中をポンと叩いた。
「せっかく冒険者スクールに来たんだ。いい機会じゃないか。もし一人じゃ無理って言うんなら手を貸すぜ」
「別に……。一人でじゅうぶん」
「OK。じゃ見せてくれ」
そう言ってから、担当教員に向く。
「あと一人お願いします」
担当教員がイリガに笑顔を向ける。
「何体やれるかな?」
「五体くらいは……」
「わかった。五体だね」
魔法陣から五体の土人形が現われる。
イリガがつぶやく。
「白煙剣」
手の先から一直線に煙が立った。凄まじいスピードで駆けていく。
白い煙に包まれた剣の切れ味に、生徒たちは誰もが目を見張るのだった。
瞬く間に終わってしまった。それぞれ一撃ずつで屠ってきたのだ。
たぶんオレやチャオプと同様、八体は軽くいけたことだろう。
「なんたることだ」と目を丸くする担当教員。
彼の話によれば、これまでに一人で土人形を倒せた者は、この学年に三人しかいなかったそうだ。もちろんオレの元パーティー仲間のことだ。プロデビュー後、一度だけスクールに戻ってきて、土人形に挑戦したらしい。
そのとき倒した土人形はプリーストが六体、ソードマスターも六体、アーチャーが一体だったという。てことはオレたちの完勝だ。
◇
授業が終わるとクラスメイトたちが集まってきた。死んだはずのオレが生きていたことと、オレたちの戦いっぷりのことで、大騒ぎだった。
元パーティー仲間のことを皆に話した。
しかし彼らの表情は半信半疑といったところだ。
いいや、『信』より『疑』の成分の方が多めのようだ。
ヤツらは悪党でありながら、それなりに人望が厚いのだ。
次の教室へ向かう。
途中、廊下にポスターが張られていた。
見たことのあるポスターだった。
タイトルは『美しすぎる女剣士』。
ムシャクシャしてくる。
イリガの足が止まった。じっとポスターを見ている。
「それ、イリガも知ってるポスターだったか」
「初めて見た。けど……」
イリガが口ごもる。
「けど、どうした?」
「先日、対戦した。あれはわたしが勝っていた試合だった」
「嘘だ!」と他の生徒からの声。
「嘘ではない」イリガの口元にギュッと力が入る。
「だって彼女は連戦連勝してるんだぞ」
「あれには不正行為があった」
「証拠はあるのかよ!」
その生徒は感情的になっている。
きっとクラスメイトがインチキだと言われたため、腹を立てたのだ。
だがオレはその生徒に言いたい。
あの連中ならばインチキする。躊躇もなく不正を働くヤツらだ!
イリガに言う。
「もちろんオレは信じるぜ」
彼女は小さく首肯した。




