第13話 解毒のために
集落に立ち寄ることになった。
「オレたちより前にも冒険者が来て、集落を守ろうと戦ってたんですよね。その人たちはどうされました?」
ちゃんと無事なのだろうか。
集落民のゴツい男が表情を曇らせる。
「幸いにも死者は出ませんでした。しかし皆、多くの集落民とともに、瘴気というのでしょうか……魔物の毒息にやられました。大ケガを負った人々も少なくありません」
なんてことだ。
「医者はいるんですか? 回復魔導の使える僧侶や神官は?」
「このような集落に回復魔導の使える者などおりません。医者も薬がないからお手上げなのです」
ううううう……、ううううう……、ううううう……
うめき声が聞こえた。
「隣の部屋で寝てる冒険者さんです。毒息……瘴気を浴びて苦しんでいるのです」
冒険者たちのようすを見にいってみた。
ずらりとベッドが並んでいる。
その中に知っている顔があった。
なんという偶然だろうか。
「あなたは、あのときの……」
ラオラオ町の居酒屋で会った爽やかイケメンだ。
連れの美女二人も別々のベッドにいた。
爽やかイケメンがオレを見て驚愕する。
「あっ、キミは! そうか、キミだったか」
「また会いましたね。お体は大丈夫ですか?」
彼は苦笑いを浮かべながら起きあがった。
「俺の場合、瘴気はほとんど浴びなかった。だけど左足はこのとおりザックリ持っていかれたよ……」
彼の手がひらりと毛布を剥ぐ。露わになった彼の左足部分。
あっ! オレは直視できなかった。
「……そんなことより、ポイズンベアを倒した冒険者というのが、キミのことだったとはね。驚いたよ。あっという間だったそうじゃないか! 夕べは悪かったね。キミの実力を格下だと思い込んでいた。ところがこのザマを見てくれ。俺がポイズンベアにやられ、逆にキミに助けてもらった」
「とんでもありません。きのうあなたが言ったことは正しいと思います。実のところ、ポイズンベアを倒したのが自分の力だとは、まだ思えないのです。どうして勝てたのか、いまだに理解できていないんです。だからオレは戦力と見られなくて当然です。お荷物になるだろうと思われて当然だったのです」
「まだ自分の力を自由に扱えないのか。なおさら将来が楽しみだ。もしかするとキミならば、闇の王も倒せるんじゃないのかな」
闇の魔王……。オレの故郷を奪ったヤツだ。冒険者スクールで厳しい特訓にも頑張れたのは、闇の王に復讐するという目標があったからだ。
「実はオレの目標こそ『闇の王を倒すこと』なんです」
ムアンが服の裾を引く。
「ケガ人にはあまり喋らせない方がいいわ。顔色も少し悪そうだし、体力を消耗させてしまうから」
「そうだね、ムアン」
適当なところで会話を切りあげ、冒険者たちが寝ている部屋を出た。
体を起こした爽やかイケメン以外の冒険者たちは、皆苦しそうだった。
彼が連れていた美女Aと美女Bもいたが、両者とも目を開けなかった。
「ポイズンベアの毒性瘴気かぁ。解毒剤ってないのかな」
独りごちると、ムアンが首を左右させる。
「大都市の大きな病院でなければ入手できないって聞いたわ」
「あのう……」ゴツい男だ。
「どうしました?」
「ポイズンベアの瘴気に効く解毒剤が、手に入らないわけではありません」
「えっ、それは?」
「近くに生息するファイアリザードの肝から『万能の解毒剤』が作れます」
「ファイアリザード? なんで早く教えてくれないんです」
もう一人のゴツい男が、しばらく間を置いてから口を開いた。
「灼熱の炎に包まれた凶暴なトカゲです。あまりに危険なため、狩るには重装の軍隊が必要とされているのです。こればかりは冒険者さんと言えど、無謀すぎます」
そうか。だったらオレじゃ無理そうだ。
「師匠……」
「なんだ、チャオプ」
いつもの元気がない。
「わたしの愛龍が……」
「あのグリーンイグアナのことだな」
「うん、ポイズンベアを前にして逃げてった」
「グリーンイグアナだしな。あたりまえだ」
「愛龍が欲しい」
またイグアナを買えば?
――で済む話ではないのだろう。
「本気か?」
「ファイアリザードが欲しい」
やはりそう来たか。
グリーンイグアナの次がファイアリザードねえ。
ドラゴンの代わりとしては、グンと格上げになるのだろう。
「手懐ける自信はあるのか?」
「わからない。見たこともないから」
いや、待て。
問題が出てくる。
「オレたちが欲しているのは肝だぞ。ファイアリザードを殺す必要がある」
「大丈夫。二匹捕まえて一匹を殺す。もう一匹はわたしのもの」
「おいおい、それって酷い話だな。そいつの仲間を殺しておいて、残った方には自分に懐けってさ」
チャオプが肩を落とす。
「うん、そうだな。師匠の言うとおりだ。諦める。だけど……懐かせるのは別として、龍騎士の能力があれば、龍モドキを前にして何かできるかもしれない」
「龍騎士の能力で龍の仲間を殺すってか。それもある種、外道じゃないか」
「ヒトの命を救うためだぞ、師匠。瘴気に苦しんでいる人々を助けたい。もしわたしにできるのならやってやりたい。それができるとしたら、たぶん、わたしだけなんだ。やるのはわたしの使命だ」
純真を絵に描いたような目つきだった。
毒性瘴気に苦しんでいる人々を、さっき見てきたばかりだ。
爽やかイケメンの連れ二人も苦しんでいた。
オレも何かやってやりたい。
「そんじゃ、いっちょ二人でやってみるか」
「師匠、話がわかるじゃないか」
「ちょっとちょっと、酷くない?」と、ムアン。
「「どうして」」と、オレとチャオプの声がハモる。
「パーティーは三人で組んだのでしょ」
そんなムアンにオレが答える。
「ファイヤリザードはポイズンベア以上に危険なヤツかもしれないんだ。この安全な場所でオレのシェムを預かっててほしい」
「はあ? 何言ってるの。シェムは必ず連れていくべきよ」
ムアンは呆れ顔だ。
チャオプも首肯している。
「どういうことだ」
オレは首をかしげた。
「まだわからないの? ポイズンベアを倒せたのは、シェムのおかげじゃないの。無敵のハツカネズミになったラングを上手に追ってたわ。ラングを剣や槍に喩えるとしたら、シェムはそれを振るう剣術士や槍術士。本人にはわからないものかしらね」
オレを上手に追って――そういうことだったのか。
やはり巨大猫はシェムで確定でいいんだな。
もしかしてネズミになるのもシェムが関係する?
ならば、ちょっと試してみようか。
シェムを呼ぶと寄ってきた。
彼女に顔を近づける。
「いまここでオレをネズミ化してみてくれないか?」
ミャーと鳴くシェム。
結局、何も起こらなかった。
◇
集落の人々に、ファイヤリザードの居場所を聞いた。
大きな洞窟に生息しているらしい。ここから割と近いようだ。
洞窟に向かって出発する。シェムも連れていくことになった。
ムアンには残っていてもらいたかったが、彼女はそれを断固として拒否。
結局、三人&シェムのメンバーとなった。
洞窟までは集落の人が荷馬車を出してくれた。
ゆっくりと進む馬車だったので、揺れ具合が心地いい。
三人とも荷台で居眠りしてしまった。




