第14話 地下世界
◇
「きょうはずいぶんと活躍できましたね」
ハッとした。またケモ耳の少女が現われたのだ。
サファイヤブルーの美しい瞳がこっちを見ている。
「ところでアンタ、名前は?」
「知らないはずがありません」
「知らないから訊いたんだ」
「怒りますよ?」
「えっ……ごめん」
オレが少女の名前を知ってるって?
でも思い出せない。オレと知り合いだったのか。
「怒っているというのは嘘です。だけど自分でちゃんと思いだしてください」
彼女がそういったところで目が覚めた。
◇
荷馬車が停まった。
居眠りしていた皆が目を覚ます。
どうやら到着したらしい。
岩山の洞窟があった。巨大な横穴だ。
この中にファイヤリザードが棲んでいるのか。
ここで大事なことに気づいた。
いまから洞窟へ入ろうというのに、誰も松明を持ってきていなかったのだ。
荷馬車の御者に打ち明ける。
「すみません。松明を借りてくるのを忘れました。いったん集落まで引き返してもらえませんか」
「松明は不要かと思います。洞窟の入口付近は暗いですが、少し入っていくと岩壁が光っているそうです。よく知りませんが、魔光石という成分が含まれているらしいのです」
「えっ、魔光石が? それはいい。ではこのまま松明ナシで入ってみます」
魔光石の実物が見られるなんてラッキーだ。
しかしムアンは魔光石のことを知らなかったらしい。
「ラング、魔光石ってなんなの?」
「魔力を帯びていて暗闇で光る鉱物だよ。冒険者スクールで習ったんだ」
「さすがは学生さん。ラングは物知りなのね!」
「そ、そうかな」
物知りなんて言われたのは初めてだ。
授業をちゃんと聞いていた甲斐があった。
御者と馬車をここに残し、洞窟に足を踏み入れる。
それにしても大きな穴だ。仮に巨人だったとしてもラクに入れそうだ。
汗が噴きだす。ああ、なんて暑さだろう。じわっとくる湿気が不快だった。
穴は奥へと進むほど広くなっていく。
ツルっ
「わー、痛ぁーい」
尻餅をついたチャオプに手を差しだす。
起きあがるのを手伝ってやった。
「大丈夫か。岩床は湿ってるから滑りやすいんだ」
「あ……ありがとう。気をつける。だけどこの先は真っ暗だな」
チャオプの言うとおりだ。
洞窟入り口からの光は入ってこなくなった。
これ以上先は何も見えない。
光る岩壁はまだ先なのか……。
しょうがない。
てのひらを上に向け、意識を集中する。
小型で赤い火の玉が生じた。
熱いのを我慢して、それをゆっくり押し払う。
「師匠、いつぞやの火球魔導だな」
「大助かりよ! さすがはラングね。明るくなったわ」
火球はふわふわと飛んでいく。
一応、オレは魔導士だ。初歩魔導ならば多少使える。
しかし火球はすぐに消えてしまった。
「なーんだ。前回のウォーミングアップのときと、まったく同じじゃないか。師匠は魔導士としてまだまだ半人前だな」
「うっせ」
それでも火球が消えた位置までは歩くことができた。
だが次の火球を作るまでに、結構な休憩が必要となる。
そんな調子で少しずつ進んでいくと、前方に微かな明かりが見えた。
もしかしてアレは!
滑りやすいので、ゆっくり歩いていく。
明かりは気のせいでも幻でもなかった。
岩壁の光……。魔光石の話は本当だったのだ。
「魔光石って不思議ね」とムアン。
チャオプが服の裾を引っ張る。
「師匠、壁を削って持ち帰ったら、高く売れるんじゃないのか?」
「授業で習ったことだが、それは無理だ。魔光石をその場から離すと、含まれている特殊な魔力が失われるため、まったく光らなくなる。だから売り物にならない」
「がっかりだな」
「だけどチャオプ、食うと美味いらしいぞ?」
「ええっ! 食えるのか」
岩壁のやや突起した部分にかじりつこうとするチャオプ。
「あーーーーん。なんて騙されるもんか。いくらなんでも食いついたりしないぞ」
「ちぇっ、チャオプだったら食いつくと思ったんだが」
「いたっ。硬ぁーい」
ムアンだった。
「師匠……。とりあえずムアンに謝った方がいい」
「すみません」
進むにつれて明るさが増してきた。巨大に思えた穴はさらに広くなっていった。天井もすこぶる高い。仮にセコイアスギなどの喬木が生えていたとしても、上まで届かないかもしれない。ここは洞窟の中というより、地下世界と言った方が良さそうな気がしてきた。
「ねえ、ラング。川のせせらぎが聞こえない?」
言われてみれば確かに聞こえる。
洞窟内に川があるのか。
「本当だ。ムアンの言うとおりだ。行ってみようか」
すぐに川は見つかった。
川面が岩壁の光をきらきらと反射している。
川に沿って進んでいくと地底湖に出た。
「「きれぇー」」
ムアンとチャオプが湖水に手を入れようとする。
「待った」二人を止めた。
「どうしたの?」とムアン。
「魔光石が眩しいほどの強い光を発しているということは、ここ一帯が魔力に包まれている証拠だ。冒険者スクールで習ったことだけど、こういう洞窟の川や湖には魔物が棲んでいる可能性が高い」
ムアンにギュッと手を握られた。
「危ないところだった。ラングがいてくれて頼もしいわ!」
「師匠、水中ドラゴンみたいのがいるかもしれないのか」
「それはどうかわからないが、じゅうぶん注意しなくちゃならない」
「水中ドラゴンがいればなあ。わたしが特殊スキルで乗ってやるのに」
嘘吐け。泣きながら逃げだすくせに。
そのとき湖面が盛りあがった。
何かが顔を出す。かなり大きい。
オレたちはすぐに湖から離れた。
奇妙な物体が湖岸にあがってくる。
巨大エビだ。
ゾウアザラシほどの大きさがあるかもしれない。
左右のハサミもゾッとするほど特大だ。
ヤツはオレたちに気づいてやってきた。
ワザワザ岸にまであがってきたということは肉食なのだ。
オレたちを食う気満々ではないか。
「しっ、師匠……」
「龍騎士だろ。しっかりしろ。泣くんじゃない!」
てか、オレだって泣きたい。
するとここでシェムが「ミャー」と鳴いた。
もしや?




