蒼い記憶(絶望)
長い長い期末テストも終わり……私の中学生活にもそろそろ終止符が打たれるか?(打たれません)
投稿遅くなって申し訳ありません。これも全部テストが悪いので私を怒らないで下さい。
次回はしっかりといつも通りのペースで投稿できればと思います。
総合評価が25ptを超えました!いつも読んでいただきありがとうございます!他の読んでいる方もブクマや評価、感想やレビューなどをよろしくお願いします!
首を吊っていた。
他のみんながどうなのかなんて僕は知らない。
でも、僕はみんなに聞きたい。
僕達の「意識」と言う概念がしっかりと脳にできた時。つまり、1番最初の思い出、記憶は何だろうか?
……。
僕は、
父さんの死体だった。
今言った通り、心と体の整理がしっかりとでき自分の概念を確立できたその時。
簡潔に言ったら、物心つき始めた頃の1番最初の記憶。脳裏から離れない強烈な思い出。
僕の目の前には、首を吊って死んだ父さんがいた。
擬音で言えば、「ぷらぷら」だろうか?
いや、そんな可愛い音じゃないな……
じゃあ、「ギシギシ」……とか?
……分かってる。そう言う問題じゃない。
もう、ギシギシでいいや。ギシギシと何かの唸る音と共に光の無い瞳が僕を見下ろしていた。
ーーどうしてこうなった?
ーー何が原因なんだ?
今の僕にはまだそんなことわからなかった。
分かるのは、父さんがもう戻ってこないこと。
何が起こったか。そんなことを今考える必要は無い。ただ、事実を受け止めて、何も考えず、理解だけして、この場から離れようとーー
ボトッ。
ーーして失敗する。肉の落ちる鈍い音が部屋に響く。
何かが唸る音が消える。代わりに訪れたのは無音だった。
何が落ちたのか、理解する必要は全く無いだろう。寧ろ、理解はしない方がいい。
ただ、どうなったのか気になるのも人間の性で、恐る恐る僕はその景色を目に流し込んだ。
そして、見て絶望する。
父さんが僕を……光の無い瞳で……赤い涙を流しながら……僕を……僕を睨んで……
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「ッ!!!!」
ベッドから跳ね起きる。
突然の覚醒と、運動により脳が痛みを訴える。
その痛みを抑えようと、もしくは嫌なものを忘れようと深く呼吸しようとして……失敗して喘いでしまう。
寝間着はビショビショで……ああ、布団洗わなくちゃな……
まだ息が荒いけれど、何度も咳き込んだお陰で徐々に冷静になってきた。
……脳にこびりついて離れない記憶。それだけは、どれだけ冷静になろうと僕の中から消えようとしてくれなかった。
3歳の頃だ。まだ3歳の頃。僕は朝起きて父さんを起こしに行こうとしてたんだ。
父さんが自分の部屋からなかなか出てこなかったから、母さんが心配して……行って……
僕は父さんの死体と遭遇したのだ。
6歳。今の僕の年齢だ。3年経った今でも、あの時の記憶は鮮明に思い出される。
濃厚な血の臭い。この世の中を蔑むような目。
あの日を境にして、僕も変わってしまったように感じる……特に精神面で。
普通の小学一年生が考えている事を僕は知らない。普通の感情を僕は知らない。けれど、僕はかなり、大人びた思考を持っているって自負している。
リリリリリリリリリリリリリ!!!!!!!!
ビクッと体を強張らせてしまう。
まあ、すぐにふぅ…と息をつくのだが。
僕を起こす予定だったそれを片手で止めながら布団の近くにあるカーテンを開ける。
「っ……」
現在6時。季節は秋。
この季節のこの時間になると、窓からちょうど日が差し込んでくるのだ。
眩しい故に思考をリフレッシュすることができるし……多少は記憶を忘れることができる。
一度伸びをして、朝ご飯を作ろうと部屋から出る。
目の前にはもう1つ部屋があり、まだ中には人がいるようだった。
母さんだ。
あの事件に遭遇した直後の母さんはとてもやつれていて……その姿を見るだけでも辛かったけれど、最近の母さんは多少会話ができる程度に戻っていた。
時が記憶を風化させてくれるとは言うけれど……まだまだあの記憶を忘れる事は難しい。
母さんがいる部屋のドアノブに手をかける。
秋が来ているからなのか…ヒンヤリとしたドアノブは僕をその部屋に入れさせないようにする門番のようだった。
結局僕はその部屋に入れず、キッチンに向かう。
ガスコンロをつけ、簡易的な料理を作り始める。
簡易的。と言うだけあって朝ご飯はパン、スクランブルエッグ、ポタージュの三品のみだ。
「…………」
黙々と朝ご飯を作り始めて二十分。
ガチャリ。
突然部屋のドアが開いた音が聞こえて、少し身構える……が、家には僕と母さんしかいないので、必然的に母さんが起きてきたのだろう。
「おはよう。母さん」
母さんも記憶を見たのかもしれない……そう思って極力優しい声で挨拶をしたけれど、母さんは何の返事も寄越さなかった。
少し寂しい気持ちになるけれど、これがいつもの毎日だから……と僕を騙して何とか耐える。
あの日以降の母さんはずっとこうだ。何かに絶望したような顔で僕のことを見るのだ。
ーーあなたは私を裏切るの?
ーーどうせ、あの人の血を引いているあなたも……
大丈夫だよ。母さん。僕は絶対に母さんの元を離れたりなんかしないから。
僕が、母さんを守らなくちゃ。
僕が、父さんの代わりにならなくちゃ。
「もう少しでできるから待っててね。母さん」
努めて明るい声を出しながらそう言う…………その時、僕と母さんの視線が交わった。
「ッ!?」
母さんの瞳には何の感情もなかった。
……日本人特有の黒い瞳の中にあったのは、昏い光だけだった。
気を抜いたら自分がその光の中に吸い込まれてしまうのではないのか?そう錯覚させてしまうほどの迫力が、恐怖が、絶望が、その瞳には凝縮されていた。
あまりにも、あんまりすぎるその瞳に、僕は気づかぬ間に歯軋りしていた。
僕は母さんが好きだ。
僕は父さんが好きだ。
僕はこの家族が大切なんだ。
後一歩間違えたら、崩壊してしまう、奈落に落ちてしまう、そんな綱渡りの上に僕はいる。
父さんは既にいない。母さんの支柱だった、存在はいないのだ。彼は絶望を家族に送りつけて1人あの世ヘ逝ったのだ。
ーー僕が母さんの支柱にならなくちゃ。
出来上がったご飯を母さんの元に笑顔で置きながら……
僕はそう決意した。
「じゃあ、行ってくるね」
7時20分。学校からここまでの距離を考えて、この時間に出るのがベストである。
母さんのことは放って置けないが、それでも学校生活を怠る真似はしない。
僕が真面目に学校へ向かうのも、一重に母さんの為である。
良い成績のまま中学を卒業できれば、レベルの高い高校から推薦を貰える可能性があり、自分の将来の幅を広げ、母さんに楽をさせることができるかもしれない。
何より、父さんがいない僕達は金に余裕がない。少しでも節約できるなら、そうした方がいいだろう。
玄関を開けて少し古ぼけた社宅の空気を吸う。
「行ってきます」
その一言は独り言のつもりだったけど……
「行ってらっしゃい」
ドキッとして後ろを振り返る。
母さんが立っていた。
母さんが僕を見送ってくれた。
嬉しくて、目尻に涙が溜まる。
哀しそうな笑顔を顔に貼り付けている母さんに僕はもう一度……
「行ってきます!」
……これからだ。
今までが散々だっただけで、きっと今から僕たちの人生は楽しくなる。
僕はそう疑わなかった。
対象者「滝沢 悠太郎」の記憶の半分を◯◯完了。
残りの半分の◯◯も続行する。




