第16話 捨てられた土地
この作品は完結まで7日間で1日5〜6話投稿します。
4日目(7/23) は5話投稿で1話目です。
ベルクシュタイン伯爵家の屋敷を出てから、三日目の午後。
レオンハルトを乗せた古い馬車は、ローゼンフェルト領東部へ続く山道を進んでいた。
整備された街道を外れてから、車輪の揺れは急に激しくなっている。
雨で削られた路面には深い溝がいくつも走り、ところどころで大きな石が露出していた。馬車がくぼみを越えるたびに、積み込んだ木箱と錬金道具が乾いた音を立てる。
「ずいぶん荒れていますね」
レオンハルトは窓の外を見ながら呟いた。
「前はもう少しましだったらしいです」
向かい側に座るオットーが答える。
「鉱山が動いていた頃は、鉱石を運ぶ荷車が毎日通っていましたからな。道が崩れれば直す者もいた。廃鉱になってからは、誰も金を出さなくなったんでしょう」
オットーの家族が乗る荷車は、少し離れて馬車の後ろを走っている。
ここまでの旅で、何度か車輪が泥へ取られた。
そのたびにレオンハルトも馬車を降り、オットーたちと一緒に押した。
伯爵家で暮らしていた頃なら、そんなことをする必要はなかった。
道を整える者も、馬車を押す者も、荷物を運ぶ者もいた。
だが今は、自分たちで動かなければ何も進まない。
レオンハルトは窓枠へ手を置いた。
山の斜面には背の低い木々が生え、その隙間から灰色の岩肌が覗いている。
森そのものは豊かだった。
しかし畑にできそうな平地は少なく、斜面の土も薄い。
村が貧しいという話は聞いていたが、現地へ近づくほど、その理由が見えてきた。
「若様」
御者台から、雇われ御者の声が飛んできた。
「前に村が見えます」
レオンハルトは身を乗り出した。
木々の切れ間から、小さな集落が姿を現す。
山の中腹を切り開いて作られた村だった。
石造りと木造の家が、細い道の両側へ不規則に並んでいる。
屋根の板が剥がれた家。
壁のひびを布で覆っている家。
傾いた柵。
片輪を失ったまま放置された荷車。
村の奥には、山へ口を開ける黒い坑道が見えた。
かつては鉱石を運び出していたはずの木製軌道が、途中で折れて土へ埋もれている。
坑道の横には、大きな廃石置き場があった。
灰色や黒褐色の石が、山のように積み上がっている。
レオンハルトの視線は自然とそこへ吸い寄せられた。
遠目に見ただけでも分かる。
石の内部に、ごく薄い魔力の光が残っている。
一つ一つは弱い。
だが量が多い。
あれほど大量に集まっているなら、決して無視できない。
すぐにでも近くで確かめたかった。
しかし、レオンハルトは逸る気持ちを抑えた。
まず見るべきは石ではない。
ここで暮らしている人々だ。
村の入口へ馬車が近づくと、家々の陰から住民たちが顔を出した。
誰も歓迎の声を上げなかった。
大人たちは険しい目を向け、子供たちは母親の背後へ隠れる。
ベルクシュタイン家の紋章は外されていたが、貴族の家から来た者だという話は、すでに伝わっているのだろう。
村の中央にある広場で、馬車が止まった。
そこには数人の男女が待っていた。
先頭に立っているのは、淡い金色の髪を背中でまとめた少女だった。
年齢はレオンハルトと同じか、少し上に見える。
濃紺の簡素なドレスの上から、灰色の外套を羽織っていた。
華美な装飾はない。
腰には帳面と鍵束が下げられている。
その隣には、白髪の老人と、作業着姿の男が二人立っていた。
レオンハルトが馬車を降りると、少女は一歩前へ出た。
「レオンハルト・フォン・ベルクシュタイン様ですね」
礼儀正しい声だった。
だが、その眼差しには明確な警戒がある。
「はい」
「私はアーデルハイト・フォン・ローゼンフェルト。この廃鉱山と周辺村の現地管理を任されています」
「以前、伯爵家でお会いしましたね」
「覚えておられましたか」
「もちろんです」
借金返済の交渉へ訪れたとき、アーデルハイトは十五歳の令嬢とは思えないほど細かく帳簿を確認していた。
父ゲルハルトの高圧的な要求にも屈せず、少しでも領民へ不利な条件を減らそうとしていた。
レオンハルトが、廃鉱石を処分しないよう忠告した相手でもある。
アーデルハイトも当時の会話を覚えているようだった。
だが、再会を喜ぶ様子はない。
「長旅、お疲れさまでございました」
アーデルハイトは形式的に一礼した。
続いて、隣に立つ老人を示す。
「こちらは村長のエーベルハルトです」
「エーベルハルト・マイヤーと申します」
老人は頭を下げたが、その表情は硬かった。
「前の管理人は、年に二度ほど帳簿を受け取りに来るだけでした。坑道も井戸も、ろくに見ずに帰っていきました」
歓迎の言葉ではなかった。
「若い貴族様が今度は何を取りに来たのかと、皆が心配しております」
レオンハルトは老人へ向き直った。
「何かを取り上げるために来たつもりはありません」
「前の方も、最初は似たようなことを申しておりました」
「でしたら、言葉ではなく行動で判断してください」
エーベルハルトは何も答えず、レオンハルトを見つめた。
アーデルハイトが、腰から折り畳まれた書面を取り出す。
「先に、権限について確認します」
書面を開きながら、レオンハルトへ告げた。
「この土地はローゼンフェルト子爵領です。ベルクシュタイン伯爵家が債務の担保として持つのは、廃鉱山の採掘権と、周辺村から生じる収益の管理権だけです」
「承知しています」
「村人をベルクシュタイン家の所有物のように扱う権利はありません。住居や農地を勝手に取り上げることも、債務返済を理由に食料を徴収することも認めません」
説明というより、釘を刺す言葉だった。
そこには、これまで村が受けてきた扱いへの怒りが滲んでいる。
「私も、そのようなことをするつもりはありません」
「通達には、レオンハルト様がこの廃鉱山と村の再建を担当する現地管理人として派遣されたとあります」
「そのとおりです」
「鉱山崩落事故の責任を取らされ、廃嫡されたとも」
広場に集まった村人たちが、小さくざわめいた。
レオンハルトは顔を背けなかった。
「それも事実です」
「ですが、事故を起こしたことは否定なさるのですね」
「はい」
「今、それを証明する手段はありますか」
「ありません」
レオンハルトは正直に答えた。
「クラウスという騎士や、生き残った鉱夫たちが証言しました。しかし、正式な記録から外されました」
「では、私たちは何を信じればよいのですか」
「すぐに信じる必要はありません」
レオンハルトは静かに言った。
「私が同じ立場でも警戒します。伯爵家で問題を起こしたとされる者を、説明もなく送り込まれたのですから」
アーデルハイトの眉がわずかに動く。
「反論なさらないのですね」
「警戒されることには反論できません。ただし、私が事故を起こしたという点だけは認めません」
「そこは譲らないと」
「譲れることではありません」
二人はしばらく視線を合わせた。
先に帳面へ目を落としたのは、アーデルハイトだった。
「では、私から求める条件は三つです」
彼女は指を一つ立てる。
「村人へ、危険な採掘を強要しないこと」
二つ目の指を立てる。
「債務返済を理由として、食料や生活必需品を奪わないこと」
最後に三つ目。
「鉱山を再開する場合は、事前に安全を確認し、私と村長へ調査内容を開示すること」
「すべて受け入れます」
「ずいぶん早いのですね」
「私からも必要だと考えていた条件です」
アーデルハイトが顔を上げる。
「伯爵家の鉱山では、採掘量を増やすために危険な区画まで掘らせていたと聞いております」
「私も止めようとしました」
「ですが、崩落した」
「はい」
レオンハルトは否定しなかった。
事故の原因ではない。
だが、止められなかったことまでなかったことにはできない。
「もっと早く鉱夫たちを避難させるべきでした」
「それは違います」
後ろに立っていたオットーが口を開いた。
村人たちの視線が集まる。
「レオンハルト様は何度も採掘を止めようとした。俺たちにも危険な場所を教えてくれた。あの日も、自分の命を削って俺たちを助けたんです」
「あなたは?」
「オットー・ヴェーバー。ベルクシュタイン家の鉱山で四十年以上働いてきた鉱夫です」
「事故の現場にいたのですね」
「いました」
「レオンハルト様の結晶が、崩落の原因ではないと?」
「違います」
オットーは迷わず答えた。
「山を崩したのは、あの方じゃない。あの方が作った結晶は、俺たちが逃げるまで岩盤を支えていました」
広場に沈黙が落ちた。
アーデルハイトは、オットーの顔をじっと見る。
作業で荒れた手。
古い傷の残る腕。
長年、鉱山で働いてきた者だということは一目で分かる。
「その証言を、今後も変えるつもりはありませんか」
「何度聞かれても同じことを答えます」
「ベルクシュタイン家から圧力を受ける可能性があります」
「だから家族ごと、ここへ来ました」
アーデルハイトは、後ろに止まった荷車へ視線を向けた。
オットーの妻たちが、不安そうにこちらを見ている。
しばらくして、アーデルハイトは帳面を閉じた。
「分かりました」
声から、わずかに険しさが薄れていた。
「証言は記録しておきます。レオンハルト様については、これから実際の行動を見て判断します」
「それで構いません」
レオンハルトが答える。
エーベルハルト村長も、まだ表情は硬いままだったが、最初ほど露骨な敵意は見せなかった。
「では、村をご案内します」
◇
村の人口は百八十七人。
かつて鉱山が動いていた頃は、五百人近くが暮らしていたという。
採掘が止まると、職を失った者の多くが別の町へ移った。
残ったのは、移住する金を持たない者。
年老いた鉱夫。
農地を離れられない家族。
病人や幼い子供を抱えた者たちだった。
「こちらが共同井戸です」
アーデルハイトが立ち止まる。
広場から少し離れた場所に、石積みの井戸があった。
井戸の周囲には、空の桶を持った女性たちが並んでいる。
水を汲み上げた女性が桶の中を見て、顔を曇らせた。
レオンハルトも覗き込む。
水はわずかに白く濁っていた。
底には黒っぽい細かな沈殿物が見える。
「いつから、この状態に?」
「鉱山が閉じる少し前からです」
今度はエーベルハルトが答えた。
「初めは雨のあとだけでした。ですが、少しずつ濁りが消えなくなりました」
「この水を飲んでいるのですか」
「他に使える水源がありません」
アーデルハイトの声に悔しさが滲む。
「煮沸し、布で濾してから使わせています。それでも腹を壊す者や、皮膚へ赤い斑点が出る者がいます」
「子供と年寄りに多いです」
村長が付け加えた。
「医者を呼ぶ金もありません」
レオンハルトは指先へ水を一滴つけた。
《結晶創造》を通して内部を見る。
水の中には細かな鉱物粒子だけでなく、黒紫色に濁った魔力が混じっていた。
すぐに命を奪うほど濃くはない。
だが、毒性を持つ魔力であることは分かる。
この水を長期間飲み続ければ、身体へ影響が出る可能性は高い。
症状との関連を確定するには、さらに調べる必要がある。
「鉱山から流れ込んでいる可能性があります」
「やはりそう思われますか」
「断定はできません。井戸の深さや地下水の流れ、沈殿物の成分を調べる必要があります。ただ、このまま飲み続けるのは避けたほうがよいでしょう」
「新しい井戸を掘る資金はありません」
「別の方法がないか調べます」
アーデルハイトは、すぐには答えなかった。
「簡単におっしゃるのですね」
「簡単だとは思っていません」
レオンハルトは、水滴の残る指先を見つめた。
母を救った吸毒結晶。
あれを改良すれば、水に含まれる毒性魔力を吸収できるかもしれない。
ただし、魔力だけを抜けば安全になるとは限らない。
鉱物粒子も除かなければならない。
必要な結晶量も、交換時期も、処理できる水量も分からない。
試すべきことは多かった。
「今すぐ解決できるとは言えません」
レオンハルトは顔を上げた。
「ですが、原因を調べずに放置するつもりもありません」
アーデルハイトは、横顔だけで彼を見た。
次に案内されたのは、鉱夫たちが使っていた共同宿舎だった。
窓枠は腐り、壁の隙間から風が入っている。
屋根には穴が開き、床の一部は雨水で変色していた。
「ここを、オットーさんたちの仮住まいに使っていただく予定でした」
「予定でした?」
「この状態ですので、今夜から住めるとは申し上げにくくなりました」
エーベルハルトが宿舎を見上げ、苦々しく言う。
「修理しようにも、板も釘も足りません。鉱山が閉じたあと、使えるものはほとんど売りました」
「管理屋敷はないのですか」
「あります」
アーデルハイトは村の奥を指した。
丘の上に、古い二階建ての屋敷が見える。
石造りではあるが、窓のいくつかは板で塞がれていた。
「ただし、長く使われておらず、内部は荒れています。最低限の清掃はしましたが、雨漏りもあります」
「寝る場所があるなら十分です」
「伯爵家のご令息が、ずいぶん控えめなのですね」
「昨日までは、伯爵家の嫡男でした」
「今もベルクシュタインの名をお持ちです」
「名前が屋根を直してくれるわけではありません」
思わず口にすると、後ろでオットーが小さく笑った。
エーベルハルトも、わずかに口元を動かす。
アーデルハイトは一瞬だけ目を丸くし、その後ほんの少し口元を緩めた。
「最後に、廃鉱山をご案内します」
◇
村の奥へ進むにつれ、地面には細かな石が増えていった。
坑道の入口は、太い木材と錆びた鉄具で封鎖されている。
その周囲には、立入禁止を示す赤い布が結ばれていた。
「坑道内では、数年前から小規模な落盤が続いています」
アーデルハイトが説明する。
「魔石が採れなくなったことで補修費も出ず、現在は完全に立ち入りを禁じています」
「中へ入った者は?」
「村人にはいません。ただ、流れ者や鉱石を探す者が無断で入ったことはあります」
「戻ってきましたか」
「一人は戻りました。もう一人は行方不明です」
「戻った者は、何か話していましたか」
エーベルハルトが答えた。
「奥から地鳴りのような音が聞こえたそうです。壁が光ったとも申しておりましたが、恐怖で混乱していたのでしょう」
レオンハルトは坑道の奥へ意識を向けた。
今の距離では、内部構造までは分からない。
しかし、深部からかすかな魔力の揺らぎを感じる。
廃鉱石に残る魔力とは違う。
もっと古く、重く、ゆっくりと脈打つような力だった。
「今日は入りません」
レオンハルトが言うと、アーデルハイトが意外そうな顔をした。
「すぐ調べるとおっしゃるかと思いました」
「準備もなしに危険な坑道へ入れば、以前と同じことを繰り返します」
「以前と同じことを?」
「危険を軽視し、採掘を優先した結果、大勢が死にかけました」
レオンハルトは、封鎖された坑道を見つめる。
「まず入口周辺を調べます。支柱の腐食、地面の沈み、地下水の流れ。それから、内部へ入る人数と退路を決めます」
「鉱石を見たいとは思わないのですか」
「思います」
レオンハルトは正直に答えた。
「今すぐ入りたいくらいです」
オットーが小さくため息をつく。
「でしょうな」
「ですが、人の命より優先するつもりはありません」
アーデルハイトは何も言わなかった。
ただ、レオンハルトを見る目から、先ほどまでの強い警戒がわずかに薄れていた。
坑道の横には、巨大な廃石置き場がある。
長い年月をかけて掘り出された低純度鉱石が、斜面のように積み上がっていた。
「こちらが、以前お話しした廃石です」
アーデルハイトが言う。
「魔石としては純度が低すぎる。金属鉱石としても、精錬費用のほうが高くなる。運び出す価値もないと判断されています」
レオンハルトは廃石の山へ近づいた。
足元から、拳ほどの石を拾い上げる。
表面は黒褐色で、白い筋と緑色の斑点が混じっている。
一見すれば、どこにでもある質の悪い鉱石だった。
だが《結晶創造》を使うと、石の内部が幾重もの層となって見え始める。
鉄分。
珪石。
粘土質の不純物。
わずかな銅。
そして、細い糸のように広がる魔力。
純度は低い。
だが、魔力そのものが失われているわけではない。
不純物の隙間へ散らばり、結晶としてまとまっていないだけだった。
レオンハルトは別の石も拾った。
こちらには青白い魔力。
隣の石には淡い赤色。
それぞれ性質が違う。
廃石置き場全体へ視線を向ける。
《結晶創造》の視界の中で、無数の石に残る魔力が小さな点となって浮かび上がった。
一つ一つは弱い。
しかし、山全体では膨大な量になる。
「レオンハルト様?」
オットーの声も遠く感じる。
鉱物の構造を考え始めると、周囲が見えなくなる。
散らばった魔力だけを集めるには。
不純物を分離しながら、必要な性質を残すには。
一つの高純度魔石へまとめるのか。
それとも、用途ごとに小さな結晶へ分けるのか。
光。
熱。
浄化。
冷気。
軍事用の大出力魔石には向かない。
だが生活用なら、必ず使える。
「レオンハルト様」
今度は近くで呼ばれた。
肩を叩かれ、レオンハルトは我に返った。
オットーが呆れた顔をしている。
「また石の中へ入り込んでおられましたな」
「すみません」
「食事も寝る場所も、まだ決まっておりませんぞ」
「そうでした」
アーデルハイトは、そんな二人のやり取りを黙って見ていた。
「何か分かったのですか」
「はい」
レオンハルトは石を両手で持ち直した。
「この鉱石には魔力が残っています」
「それは以前も聞きました。ですが、あまりにも薄く、取り出す費用に見合わないと」
「従来の方法では、そうでしょう」
「あなたの方法なら違うと?」
「可能性はあります」
レオンハルトは、安易に断言しなかった。
「ただし、量産できるかは試さなければ分かりません。石ごとの魔力量も性質もばらついています」
「それでも使えると?」
「少なくとも、調べる価値はあります」
アーデルハイトが腕を組む。
「これで何を作るつもりですか」
「まずは光です」
「光?」
「村の夜道は暗かった。家の中でも、油を節約するために灯りを使えない家庭があるはずです」
「あります」
「火を使わず、長時間光る結晶を作れるか試します」
「軍事用魔石ではなく、照明を?」
「はい」
「それで借金を返せるほどの利益が出るとお考えですか」
「今は分かりません」
アーデルハイトの眉が寄る。
「分からないのですか」
「原料の量、加工時間、結晶一つあたりの耐用期間、外装費用、販売価格。確かめるべきことが多すぎます」
「では、成功するとは言えないのですね」
「言えません」
レオンハルトは手の中の廃石を見つめた。
「ですが、失敗したときに何が悪かったのかを調べれば、次の方法を試せます」
「それでも駄目だったら?」
「別の用途を探します」
「それも失敗したら?」
「また調べます」
アーデルハイトは、しばらくレオンハルトの顔を見つめた。
「諦めるという選択肢はないのですか」
「価値がないと決めるのは、すべて調べてからでも遅くありません」
レオンハルトは廃石置き場を見上げた。
誰にも詳しく調べられることなく、役に立たないと決められた石の山。
魔力が残っていても、従来の方法で使えなければ捨てられる。
そこにどれほど別の可能性があっても、誰も見ようとしなかった。
「価値がないのではありません」
レオンハルトは、石をアーデルハイトへ差し出した。
「今まで使い方を知らなかっただけです」
アーデルハイトは差し出された石を見つめた。
すぐには受け取らなかった。
やがて、両手で静かに受け取る。
「それを証明できますか」
「証明します」
レオンハルトは答えた。
廃石置き場の向こうでは、夕日が山の端へ沈み始めていた。
赤い光が、灰色の石の表面を照らしている。
その現実の光とは別に、《結晶創造》が捉えた淡い魔力の粒が、石の内部へ無数に浮かんでいた。
今、その光を見ているのはレオンハルトだけだった。
アーデルハイトも。
村長も。
村人たちも。
まだ、ただの石くずとしか思っていない。
だが、いつかこの土地に暮らす者たちが、その石から生まれた灯りを見る日が来る。
レオンハルトは、手の中に残った鉱石の粉を見つめながら、静かにそう確信していた。
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