第七章・第一節 老兵、帰郷す
ロンドンでの栄光と、茶会の余韻を残したまま、JZ-65一行はついに日本へ帰還します。
異国での戦いは終わりを告げましたが、老兵の歩みはまだ止まりません。
帰る場所があるからこそ、また歩きだせる。
そんな「帰郷」の時間を、本節では描いています。
成田空港に、白い機体の影がゆっくりと滑り込んでいく。
夕暮れの空は朱に染まり、まるで遠征の終わりを祝福するかのようだった。
老兵・浦見重蔵は、機内の窓からそれを見つめていた。
「帰ってきおったな。ようやく」
隣で美羽が伸びをする。
「長時間フライト、つかれたぁ……背中ゆがんだ……」
「翔くん、降りたらストレッチよろしく」
「りょーかい。美羽さんは筋肉を大切にしないタイプだね」
最後尾から、TACTが盆栽ケースを慎重に抱えて歩いてきた。
「盆栽、無事です」
「よく守った。おぬしには勲章ものじゃ」
「いや、ぼく、帰路の九割これ抱えてましたからね?」
タラップを降りた瞬間、湿った空気と、馴染んだ土の匂いが頬に触れた。
重蔵の肩が、ほんのわずか、ふっと緩んだ。
「日本は、やっぱり、落ち着くのぉ」
しかし、空港の到着ロビーは静かではなかった。
「じいじだ!」
「帰ってきた!」
「ロイヤルチャリティでのあのヘッドショット、震えた!」
ファンとカメラの嵐。
横断幕に書かれた文字は、実に直球である。
【WELCOME HOME JZ-65】
【老兵、世界を震わせる】
【紅茶王子(?)帰国】
「誰が紅茶王子じゃ」
「いや、じいじ、昨日、女王陛下の紅茶飲んだでしょ」
「それで王子は無理があるじゃろう」
「けど、ネットでタグ伸びてましたよ。#紅茶王子65」
「やめんか」
報道陣のマイクが突きつけられる。
「重蔵さん、今回のロンドン遠征の感想を!」
「女王陛下との謁見はいかがでしたか!」
「日本の若者に伝えたいことは!」
重蔵は、深く息を吸った。
騒がしさの中でも、その声は静かに通る。
「わしはの。人は年をとっても、まだ立てるということを伝えたい。
何を始めるにも、遅すぎることなどない。
もし心がまだ前を向いておるのなら、いつだって戦える」
カメラのシャッターが光の粒になって降り注ぐ。
だが、次の言葉は、もっと小さく、もっと温かかった。
「それにの。帰る場所があるというのは、幸せなことじゃ」
美羽と翔が少しだけ照れたように肩を寄せる。
TACTは腕に抱えた盆栽をそっと持ち上げた。
「さあ、帰りましょう」
「うむ。わしらの、いつもの場所へ」
空港を抜けると、夜風がやさしく頬を撫でた。
ロンドンの霧でもなく、ロサンゼルスの乾いた風でもない。
懐かしい、日本の風だった。
車が走り出す。滑るように高速へ入る。
車窓に広がる街の明かりは、まるで迎える灯火のように揺れていた。
「じいじ、帰ってきたね」
「うむ。だが旅はまだ続くぞ」
「また戦うの?」
「必要とされるならな。老兵は、それで十分じゃ」
盆栽が、そっと葉を震わせたような気がした。
――日本に帰ってきた。
ここから、次の戦が始まる。
ロンドンでの旅を終え、物語は日本へと舞台を戻します。
しかし、老兵が手にしたのは「終わり」ではなく「新たな招集」。
昔と違うのは、今は一人ではないということ。
仲間と共に帰ってきた老兵の背中は、まだまっすぐ前へ向いています。
さあ、第七章の始まりです。




