石部 その1
さて、明朝。
ミケタマの二人は水口城を立った。
ほぼ真っ直ぐのゲレンデを、西へ向かって滑っていく。
東海道51番目の宿場町、石部を目指す。
しばらく行くと、野洲川のほとりにたどり着いた。
しばし立ち止まり、大常夜灯を見上げる。
昨晩、ここで世にも恐ろしい戦いが繰り広げられていたということは、彼女たちはおろか、誰一人知るものはない。
「これが横田の大常夜灯。実物を見ると、本当に大きいわね」
「本当ね。どうせなら、夜に来れば、きれいだったかもしれないわね」
と、何とも呑気な二人である。
「よし、出発するわよ!」と、ミケコはスキー板のエンジンをかけて、行こうとした。「どうしたの、タマ?何か興味を惹かれるものでもあったの?」
「う、ううん、なんでもないわ。さあ、行きましょう」
タマコもエンジンをかけて、滑り出す。
「今夜が最後の宿泊地だわね」
「旅ももうおしまいね。今日は何を食べようかしら?」
「せっかく滋賀に来たんだから、もち、アレを食べたいわ」
「もち、もち。滋賀といえば、近江牛よね」
「近江牛のステーキ!」
「そうよ、そうよ。ワインと一緒にね」
朝から、夕飯の相談である。
食べて飲んでばかりいるようだが、食べて、飲み、そして、食べて、飲む。
これぞ旅の醍醐味だ。
少し下流に行ったところにかかる、横田橋を渡る。
「私たち、また川を渡ったのね」
「この旅、何本目の川かしら?」
「もう、数え切れないくらい」
「川を渡るたびに、ゴールに近づいていくのね」
JR草津線の三雲駅を過ぎて、三雲城跡の先にある、大沙川トンネルを越える。
小さなトンネルで、すぐに通過してしまう。
「ねえ、タマコちゃん。トンネルを過ぎると、そこには何があるの?」
「それはそれは夢の国でした」
「どんな?」
「おいしいお酒が流れる川があるのよ」
「もう、夢がないわね」
「じゃあ、ミケは何だと思うのよ」
「焼き鳥が放し飼いにされている牧場よ」
「それなら、やっぱり川が必要ね」
などと冗談を言って進んでいく。
実際には、トンネルの向こうが夢の国、などということはなく、今まで通りの東海道ゲレンデが続いていく。
しばらく行くと、再びトンネルがあった。
今度は、由良谷川トンネルであるが……。
「トンネルを過ぎると、そこには目の覚めるような素晴らしい……って、キャア!」
「うわ、眩しい!」
トンネルを抜けて、驚いた。
目に飛び込んできたのは、眩いばかりの、キンキラキン。
「何よ、これ!キンキラキンのキンキラキンだわ」
「本当、キラッキラの、キラッキラの、キラッキラキンじゃないの!」
と、さすがの二人もボキャブラリーを失う。
キンキラキンだけでは、読者に分からないので、作者が説明する。
由良谷川トンネルの向こう側は、一面、黄金色に輝くゲレンデが待っていた。
「人工雪が、金色に光ってるの?」
「下だけじゃないわ。あれを見て」
と、ゲレンデの両サイドを見ると、そこには黄金で作られた、人物像がずらりと並べられていた。
「これは、何?本物の金で出来ているの?」
「さすがにそれだと、防犯上心配だわ」
「それより、これは誰の像かしらね?」
「この辺りの有名人かしら?」
「この顔、見覚えがあるような、ないような」
「何だか、すごく真面目そうな顔じゃない?こんな人、私たちの知り合いにいたかしら?」
うーんと、頭を捻って思い出そうとしてみたが、それらしき人物は思い浮かばない。




