小田原 その2
「あ、いや、それは……」と、慌てる一茶だったが、とっさに適当な出まかせを思いついた。
「実はね、ただのバグではないんです。これは極秘事項なんですけど、僕のところに届いている情報によると、どうやらこれは我が弥次喜多グループのライバル企業・十返舎開発の仕業らしいのです」
「えー、十返舎開発!?」
「って、あの、東海道をゴルフカントリーにしようとしていた?」
と、思いもよらなかった名前が出て、ミケタマは驚いた。
ちなみに、隣の鱒之助にとっても寝耳に水であったが、優秀な秘書の彼はそんなことおくびにも出さない。
「その通りなのです。どうやらその十返舎開発が、いろんなバグを仕掛けて、我が社の評判を貶めようと画策しているらしのです」
「えー、そうだったんですか」と、タマコ。
「これを見てください」
と、一茶は懐から十字手裏剣を取り出して、二人に見せた。
「これは僕が川崎の現場で拾ったものです。どうやら十返舎開発は忍びの者を使って、我が社のシステムに打撃を与えようとしているらしいのです」
「そうだったのね。あ、忍びと言えば」
と、歴史マニアのミケコはあることに気づいた。
「忍びと言えば、小田原・風魔忍者!」
風魔忍者とは、戦国時代に小田原城を居城とした、北条氏に仕えた忍者の一族である。
あの戦国最強を誇った甲斐の武田の群勢も、ほとほと手を焼いたという、忍者の精鋭集団だ。
「その風魔忍者が、各地でいろいろとバグを仕掛けているようなのです」
「なんていうことなの!?」と、驚くミケコ。
「でも大丈夫です、ご安心ください。この僕が来たからには、決して悪いものをお二人に近づけるようなことはしません」
自分のことを棚に上げて、一茶は内心ほくそ笑んだ。
偶然であるが、これで二人を守るという名目で、堂々とミケタマに接近することができる。
あとはこの先の道中、部下のスタッフに命じて、適当にトラブルを起こせばいいだけだ。
だが、ミケコの反応は、一茶が期待したものとは違っていた。
「そんな、そんな……。風魔忍者が私たちの旅路を妨害して来るだなんて…」
ワナワナと震えるミケコ。
「大丈夫ですよ、ミケコ君。この僕がついていますから!」と、図々しくミケコの手を取ろうとした一茶であったが。
「なんて面白いのかしら!」
「え?」
「ねえ、タマ。聞いた?風魔忍者に会えるかもしれないのよ!?」
歴史マニアのミケコにとっては、願ってもないことであった。
「ゾクゾクしちゃう。この城にもいるのかしら?もしかして今も私たちを見張ってる?」
と、ミケコは天井を見回した。
「い、いや、この城は我が弥次喜多グループが完全に管理していますから、ネズミ一匹入ることはできません。だから、安心してください!」
一茶は思わぬ展開に当惑した。
「こうしちゃいられないわ。ねえ、タマ。今夜はもう早く寝ましょう。明日が楽しみだわ。こちらから風魔忍者を見つけてやりましょうよ」
と、ミケコは残ったシャンパンの瓶を全部抱えると、部屋に戻るべく席を立った。
「あ、一茶さん、今夜はご馳走様でした」
タマコも相方と一緒に、部屋に戻る。
「え、ええ、楽しい旅を」
後に寂しく取り残される、一茶と鱒之助なのであった。
部屋に戻って。
「あ〜、楽しみだわ。今夜は興奮して早く寝られそう」
ミケコはワクワクして布団に入った。
「どーゆう神経してるのよ」
一方、タマコは、あることが気にかかっていた。
(戸塚の宿で見られている感じがしたのは、なんだったのかしら?)
しかし、旅の疲れと、おいしい料理とお酒の力もあいまって、間もなく二人ともスヤスヤと眠りに落ちたのであった。




