85.開幕
数日後、とうとう守護国覇王戦が行われた。競技場が和風な設計になっている。大きさも倍の倍だ。当然、観客たちも多い。俺は観客席にいたが大歓声が嫌いだ。
「さあさあ始まりました!守護国覇王戦、今回の戦いで何の守護国が優勝するのだろうか!」
司会担当しているのは白石だ。服装は探偵のような格好をして登場していた。
「まず、登場するのはこのお方!」
すると、赤茶髪の色をした妖怪が登場した。
(あれは、学者の身分の漢服なのか)
俺は見覚えがあった。この妖怪の身分は学者なのだろうか。そう解釈した。
「月の国出身の〜弥兎選手!」
あの選手と関係はなかった。たしか学者の身分だろうか頭脳を使って戦いそうだ。
「続いて〜もう一人登場するのはこのお方!」
すると、冷気を感じた。寒くはないが、雰囲気が冷たい。あれは守護国・雪の国だ。雪の国といえばあの妖怪しかいない。
「雪の国の中でも最強・千暁さんの三男、青蘭選手!」
俺は背中が凍りつくような寒気を感じた。今まで十二式神の守護をしていた俺にとっては過去一だ。
「千暁さんの息子だと!?」
「絶対強いじゃん!」
「期待するわ」
すると再び死者の歓声が上がった。青蘭は期待されているにもかかわらず堂々としていた。観客たちの方に向いていない。
(俺はお前らに期待してきてるわけではない)
青蘭にはある事情があってこの戦に出た。青蘭を推薦した妖怪が病で余命が残りわずかしかないことを。名前は○○師匠。
―もし、この戦に出たくなければ出場しなくてもいい。けど君の妖術の実力は大人負けする。だから才能があるかもしれない。冷気の怪物よ―
○○師匠が病で寝込んでいるときにそう言われた。青蘭に自由な生き方を教えてくれた妖怪でもあった。
(これは○○師匠の願いを叶えるためにある)
青蘭は凪師匠のために堅く誓っている。勝つため、ではなく冷気の怪物がどのくらいの実力があるかを証明する。そのために出場を決意した。
白石が笛を一回吹いた。戦闘を始める合図だ。
「それでは、ようい。始め―」
先に襲いかかったのは弥兎選手。所持している長拳刀を試しに使うことにした。すると、青蘭は弥兎選手が持っている長拳刀の刃を氷の妖術で凍らせた。
(歴代選手の中でも最年少・青蘭は武器を持って
ない。一体何をするつもりだ)
弥兎選手は青蘭の思考が読めない。そのせいか戸惑っていた。天文学者という身分を持ちながら太極拳の経験がある。
(これだったら弥兎選手に対して強力な妖術は使わなくても大丈夫だな)
青蘭はすぐ弥兎選手が戸惑っていると判った。目が泳いでいる。
「こいつはもう使えねえな」
弥兎が吐き捨てるように言いながら長拳刀をその場で捨てた。氷の妖術で凍らせた青蘭に対してどうでもよくなった。すると、弥兎選手は太極拳の構えをとった。
(ああ〜。この選手、妖術が全く使えないんだな。あのメイド子猫ちゃんと一緒だ)
青蘭は屋敷でメイドとして働いている鈴のことを思い出した。弥兎選手の構えを見て妖術ではなく武道で勝負を決めるつもりだ。
「青蘭だったかな。それじゃあ、拳で勝負を決めつけよう」
当時、最年少だった青蘭は拳で戦うことが未経験。妖術を使わず、武器を使わずで戦うのは不可能。だが青蘭はびくりともしていない。
「いいですよ。そこまで言うなら仕方ないですね」
青蘭も弥兎選手と同じ構えをとった。
(これは俺の兄貴がやっていたのを見たことがあった。たしか、中華の武道だっけ)
青蘭はその兄でもあり千暁の次男がやっていたのを見たことがあった。
「おっと〜、ここで弥兎選手と青蘭選手が妖術ではなく武道で!このルールだとありにします!」
白石の決断に観客たちの賛否が分かれた。
「武道なの!?めっちゃいいじゃん!」
「マジか!これはいいな!」
「妖術の方がよかった」
「選手は妖怪たちなんだろ!だったら妖術を使わないと意味ねえだろ!」
俺は観客席の方から見ていたが、黙って見過ごすしかなかった。青蘭は賛否に対しても無視しながら弥兎選手の構えをしている。すると、白石が笛を吹き始めた。
「スト〜ップ!」
観客たちの騒ぎを止めた。
「皆さん聞いてください。妖術なしでの出場の件はあくまで私の判断です。弥兎選手が過去に行った罪がありませんでしたので」
観客たちは納得した死者もいればいかなかった死者もいる。俺は青蘭が会わせたようだからか納得した。
「それでは〜再開いたします!よ〜い、始め!」
笛がなった瞬間、先に動き出したのは弥兎選手。拳の経験のない青蘭を蹴りかかろうとしたときだった。青蘭は突然、土下座をした。
「参り…ました…」
それは負けを認めたということなのか。それとも、作戦。俺は言葉にすることができなかった。
「は?土下座されたってまだ始まったばかりだし」
「いや、負けです」
観客たちも驚愕している。だが、白石は何かに違和感を覚えた。青蘭は負けを認めたわけではない。"認めたふり"をしていることに。何か嫌な予感がする。
(いや、これは弥兎選手の冷笑を浮かべる瞬間を見ているかもしれない)
俺は何となく思った。青蘭はただ者ではない。これは作戦だと感じた。
(いや、これは行ける。こいつはただの子供だろう。俺がとどめを刺すときがきた)
にやりと表情を浮かべながら冷笑をした瞬間。青蘭が突然病気になったような状態で倒れた。当然観客たちは驚きと不安感。と、その時だ。
「俺が倒れたとでも思ったか」
青蘭は一瞬聞こえたかのような小声でいいながら氷の妖術で弥兎選手の目を当てた。そのせいか弥兎選手は出血と同時に両目を失明。
「あぁ〜〜〜〜〜!!青蘭、お前をここで、殺してやりてえわ!」
「ま、いいですよ。殺しても。俺、いや僕は頭で考えながらやっていますので」
青蘭は焦りを一つ見せない。それどころか飄々としている。弥兎選手の周りを走り回りながら、失明している弥兎選手の様子のタイミングで止めを刺そうとしているつもりのようだ。
「おっと〜!弥兎選手が失明!?青蘭選手はここで氷の妖術を使った!?これはずる賢いやり方でしょう!」
白石は大声で伝えた。観客たちは当然青蘭の方を期待した。
「これは期待するわ」
そのような声も上がっている。
(これで行けるか。弥兎選手は多分妖術は使えない。だからこれで行けるかもしれん)
青蘭は次の氷の妖術を準備した。この次で弥兎選手に止めを刺そうとしている。当時、俺はこの目で観客席の方から見た。
(氷棘凍土・乱氷)
すると、失明で動けない弥兎選手のところから氷の刺が出てきた。青蘭が手を握り、開いたあとに氷の刺はばらばらに崩れた。それが弥兎選手の体全体に当たり、血だらけになっていった。
(これは青蘭の勝ちだな)
俺はそのような予感をした。弥兎選手はもう体力が持たないだろう。すると、弥兎選手は負けを認めた。
「お前との実力で…負けた…」
青蘭はなにも言わずにただ沈黙をしている。すると、弥兎選手は吐血しながら倒れた。青蘭の寒気によってだ。
「これは、雪の国〜こと青蘭選手の勝ちだ!」
守護国・雪の国が勝利した。これで観客たちは一声に大喜び。俺はその声が嫌いだ。すると、向かい側には凛月がいた。
(弥兎選手か…この妖怪と戦わなくてよかった。この人ただ、金が欲しいだけの欲望が過ぎないだけなんだよな)
凛月は退屈そうに見ていた。その隣には凛月を推薦した者・篁夢もいる。
「これで〜!青蘭選手、弥兎選手の戦を終了する!」
終了すると同時に観客たちはもっと歓声を上げた。
(これはやかましいな…)
俺は観客たちの歓声を聞こえないふりをした。




