84.推薦
守護国覇王戦の協議会の会場へ来た時だった。そこにいたのは守護国・月の国から来た推薦者の凛月選手だ。もう一人、凛月を推薦した篁夢もいた。
「ねえ君、推薦した妖怪は?」
俺に聞いたのは兎妖怪である凛月だ。薄めの金髪で丸みのある短髪をし、赤紫色の漢服を着用していた。
「いない。そもそも俺は協議会の職員からの推薦で来た」
すると、凛月は見下したような笑みを浮かんだ。
「職員ってまさかあなたを推薦する人がいない人がいるんですね。森の国は仕切る妖怪がいないからか~」
凛月は俺のことを見下していると感じた。凛月が守護国・森の国をつまらなさそうと感じているのに気付いた。
「いや、そもそも俺が住んでる国に王はいない。住民たちはそもそも静かに平和に暮らしているだけだ」
「へえ〜」
凛月は素っ気ない感じで頷いていた。それを見ていた篁夢は見て見ぬふりをした。すると、会場からまた誰かが来た。
(…はっ!)
凛月と篁夢は驚愕した顔を浮かべる。俺はその妖怪が誰なのか知らなかった。来たのは鬼だ。頑丈な肉体をしていた。
「き、き、鬼童丸様だ…」
鬼童丸と聞いた瞬間、俺は思い出した。守護国・鬼の国で最も最強な酒呑童子の息子だと。鬼童丸は守護国覇王戦にも出れるくらいの実力を持っている。
「すみません、聞きたい事がありますが少しいいですか?」
俺は篁夢に鬼童丸について聞いてみることにした。
「鬼童丸は一体何者ですか?」
「鬼童丸様ですか。あの方はかなりの実力のある妖怪です。そのせいか凛月様は今、怯えています」
篁夢が簡単に話し終え、二人は凛月の顔色を見る。すると不安が募っているような顔をしていた時だ。再び会場の扉からまた誰かが来た。
「あの妖怪たちは呪いの国から来た狐妖怪の蘭丸様。水の国から来た水蓮様、瑞羽様。月の国からもう一人の弥兎様です」
「なるほど」と俺は頷いた。
「残りはあと一人ですか」
「はい。そうですけどまだ来てないようです。たしか、雪の国出身だと思います」
「雪の国…」
俺はその守護国の名前は聞いたことがあった。名前は千暁といった妖怪だと。
(まさか千暁さんが出場するわけが)
千暁にしても強すぎる。歳も大分俺たちと離れているだろう。
すると、「皆さん〜!お喋りはそこまでで〜す」という若々しい男の声が聞こえた。その男は人間の姿だ。低く結んでいる茶髪で白髪が一本もない。それだけでなく不老不死のような肉体をしていた。
「お待たせして大変申し訳ございません。今から守護国覇王戦の説明会をしますのでよくお聞きください」
その男はよく声が大きかった。芸をするときのような言い方をしている。凛月たちは気が緩んでいた。と、その時だ。再びその会場の扉が開く音がした。
(雪の国出身の妖怪か)
俺はそう確信した。凛月たちも扉の方を見ていた。すると、その妖怪は低く結んでいる白い長髪をした狐妖怪だ。生まれながらの美少年、空のような色をした瞳をしていた。服装は黒のスーツ。
「遅れてすみません。庶民で底辺の妖怪の皆様」
会場の扉から来たのは男子中学生くらいの身長をしていた妖怪・青蘭だ。当然、俺たちは呆気にとられた。凛月や鬼童丸は競争心が激しい。そのせいか内心、怒りを露にしている。
「お前、俺たちのことを見下してるのか」
「守護国覇王戦のことを甘く見てるのか」
凛月と鬼童丸は冷たい口調をしながら言った。だが青蘭は答えようともしない。それどころか二人は青蘭に対してさらに怒りを露にした。
(推薦者とか千暁さんはこの妖怪たちを止めようともしないのか)
俺は焦った。そのせいか汗をかいた。推薦者は止める気もない。だったら俺が止めないと…。と、そう思っていたときだ。篁夢に腕を捕まれた。
「止めなくていい」
「何でですか!」
俺は思わず声を荒れてしまった。
「この揉め事は守護国覇王のときでもよくあることだ。だから止めようとしても無駄だ。もしそうなればお前も巻き添えになる。下手なことはしない方がいい」
「このままだと、」
篁夢が首を振ると、俺はなにも言えなくなった。
「甘い?俺はただこの戦の説明会を聞きに来ただけだ」
青蘭は傲慢を取りながら言った。
「俺は庶民という言葉は大嫌いだ。もし、次にその言葉を使ったらお前を殺す」
鬼童丸は青蘭にそう脅した。
「ああ。どうぞどうぞ、俺を殺してください」
青蘭は無愛想に返した。すると千暁という男は再び静かにするよう言う。
「お静かに願います」
青蘭たちは黙り始めていた。
「今から私が説明いたしますので黙ってお聞きください」
千暁という男が言っていたとき、青蘭の目付きは鋭くなっていた。この男と関係あるのか。そう思っていた。
「それでは説明します」
千暁という男は守護国覇王戦の決まりについて説明をする。
「守護国覇王戦は一言で言うと勝ち抜き戦だ。才能のある妖怪が妖術での実力を発揮する戦。殴ってもいい。蹴ってももいい。だからこの戦は"実力の暴力世界"とも呼ばれる」
勝ち抜き戦か。実力の暴力世界か。俺はそんなことをどうでもいい。協議会の職員がスカウトされた理由。それは守護国・雪の国出身の青蘭という妖怪を倒すことだ。
「ただし、あなたたちが死なないように。死んだらお互い人殺しになってしまうからね」
千暁さんはそう教えてくれた。
「じゃあ、これで俺からの説明はおしまい!」
なんと千暁さんからの説明はこれで終わった。すると再び凛月と鬼童丸は、青蘭と揉め始めた。俺はすぐにその揉め事を止めることができない。
「じゃあ、俺を殺すことでいいか」
青蘭は素っ気ない感じな言い方で言いながら会場を去り始めた。
「そうですよ。あなたを、てかお前を推薦した妖怪は?」
「風邪引いた」
凛月に聞かれたが、青蘭はあっさりと答えた。
(青蘭、次来たときお前をこてんぱんにしてやろう)
鬼童丸は内心では頭に血が上り始めていた。この関係は最悪で終わってしまったのだ。
(何か嫌な予感がする)
俺は何となくそう感じた。このまま数日後に守護国覇王が行われる。それでも貫き、耐えるしかなかった。




