82.契約
東京駅に着いたあと、麗羅はあることを思い出す。それは、守護国・雪の国からの『守護国覇王戦』の審査員の招待状のことだ。
(あの招待状、何でうちが)
麗羅の本当の一人称はうち。人と話すときは私だ。
(あの格闘は妖怪たちだけだよね。なんで私まで巻き込まれなきゃ行けないんだ)
麗羅は訳が分からずにいた。なぜ審査員をやらないと行けないのか。
「ま、いっか」
気持ちを切り換えながらトイレへと向かった。黄泉の国へ帰るために誰もいない場所で黄泉の国へ瞬間移動をするつもりだ。
駅のトイレの個室の中へ入ると、鍵を書けずにいた。
(これで瞬間移動だ。うちを幽霊だと思って)
麗羅は自ら幽霊となり、黄泉の国へ瞬間移動をした。
ふと、気がつけば黄泉駅だ。麗羅はその駅のホームにある茶色のベンチに座って寝ていた。
(ここは…駅?)
麗羅が目を覚ますとまだ眠気が残っていた。
(初めて来たけど…)
全く知らなかった。そのせいか言葉が出てこない。黄泉駅に来たとき、自分は亡くなったと自覚していた。
駅にはたくさんの死者たちがいた。電車が来るのを待っているようだ。すると、ガタンゴトンという音がした。
(これは…電車?)
麗羅はまもなく電車が来るようだ。他の死者たちもいたのでそのような感じがする。
(来たようだね)
その後、電車は黄泉駅まで来た。麗羅は電車の座席に座ったあと疲れが溜まり、すぐに眠ってしまった。
数十分後に麗羅は目を覚ました。もうすぐ守護国・雪の国に着く予感がした。外は灰色の空に覆われている。駅が見え、でんしゃに
「雪の国~雪の国です。お降りのお客様は忘れ物のないようご注意ください」
アナウンスの声が聞こえたと同時に他の死者たちが一気に降り始めた。終点の守護国・月の国に向かう死者もいるためまだ残っている死者もいる。
(雪の国ってそんなに人気なところなの?)
麗羅は納得してない顔を浮かべながら電車から降りた。すると、雪がちらちらと降っている。地面は真っ白な雪で覆われていた。
(ここは寒いな。そういえば、赤いコートを駅のトイレで捨てちゃった…あっちゃ…)
吐息を吐きながら他の死者たちに着いて行った。
着いていくとそこは大正浪漫のような街並みだ。正面からは人力車。西洋風の街灯が付いている。店にはレトロな雑貨が売っていた。それを見ていると買いたくなりそうだ。だが、所持金はもう残ってない。
右を向くと、まだ誰もいない人力車が通るのを見た。
(まだ乗ってない。チャンスだ)
麗羅はすぐにその人力車のところまで追いかけた。
「すみません。この人力車に乗せてください。行きたいところがあるんです」
「あ~、いいですよ。乗ってください。ちなみにどこへ向かいますか?」
「千暁という妖怪のお宅へ行きたいです」
すると、車夫の一人は驚いた顔をしていた。
「千暁ってあの千暁?」
「そうです。でも顔はみたことありません。取りあえず急いでください」
麗羅は少しぶっきらぼうに言ってしまった。千暁という妖怪に守護国覇王戦の審査員の招待状を貰った。その事で急がなければならなかった。
「あ、はい」
車夫たちは急いで出発の準備をした。麗羅は人力車に乗る。
「少し遠いですが、それでも大丈夫ですか?」
「全然いいですよ。焦らないでください」
車夫たちは千暁という妖怪のお宅まで向かった。その間、麗羅はまたぐっすりと眠ってしまったのだ。
数時間、麗羅が眠っているうちに車夫たちに起こされた。
「着きましたよ~起きてください!」
麗羅はまた目が覚めた。そこは、白い和洋折衷の二階建ての屋敷だ。ちらちら降っている雪がサングラスにかかった。目の前で見えたのが雪の結晶だ。繊細で細かな形をしている。
「あ、すみません」
「お嬢ちゃん、寝不足なの?寝不足はあまり肌に悪いからさ、早く寝た方がいいよ」
その言葉に麗羅は親切だと感じた。
「ご親切にありがとうございます」
「いいよいいよ。じゃあ、俺たちはここで待ってるから。終わったら観光地をぱぁ~と見てこ!」
車夫たちは門の前で待つつもりだ。それに対し、麗羅は日本人の死者に対して好感が持てた。すると、洋館の門が開く音がした。千暁のお宅に使えるメイドのようだ。左に寄り、一礼していた。麗羅もメイドに向けて一礼をした。
「ようこそ、お忙しい中お越しいただきありがとうございます。では、千暁様のところまでご案内いたします」
メイドに案内されたのはアンティークなソファと机のある部屋だ。上にはモダンレトロな証明がある。ミルクガラスの色をしていた。そこには千暁が一人で座っていた。
「そこに座って」
妖狐である千暁の声は若々しかった。見た目だと二十代後半くらいだ。麗羅はソファに浅く座った。
「ねえ、君の名前は?」
「エリザベスです」
今更本名何て言えない。外国人という設定だ。
「ふ~ん、そっか。あ、今日はわざわざお越しいただきありがとうございます。守護国覇王戦は初めて知りましたか?」
「はい、そうです」
千暁は真面目な顔になった。この話は一応仕事の話ということにした。
「では、守護国覇王戦について説明をしよう。簡単にいうと六年に一度に行う妖怪たちのトーナメント戦だ。妖術を使って戦う。ちなみに妖術の一つでもある消去は使わない。すぐに消してしまうと面白くないから。この戦いは暴力をしてもいい。ただしお互いが死なないように。優勝した人はまた六年後までに次の選手を八人探すんだ」
麗羅は何となく理解した。
「では、招待状について説明をしよう。俺はたまに人間の世界にも行ってるけど最近は妖の力を持っている人間が存在する。誰かしらは知らんが。その人間の妖術の元素が不明だ。普通は火、水、草、雷、氷などはっきりとした元素が多い。だが、人間が妖の力を持つとなると別だ。だとすると反則を越えるかもしれん」
その事を聞いた麗羅も妖の力を持っていたことを思い出した。だが、いつからかはまだ分かっていない。
「だから、次の守護国覇王戦からは審査員を付くと決めたんだ。ちなみに協議会で決まったことだ」
「協議会でしたら分かりました。参加します」
麗羅は面倒だと思いながらも審査員に参加すると決めた。すると、麗羅はあることを聞き出す。
「では、以前の戦いで優勝した守護国とその妖怪の名前は誰ですか?」
それに対して千暁は「ここだ」と返した。
「ちなみに俺の息子、青蘭だ」
麗羅は目を丸くした。
「今は、どうしてるのですか?」
「今は…、今はベッドで寝たきり状態だ。人間の世界で大怪我を負ってまだ目を覚ましてない感じだ」
千暁はどこか悲しい顔をしていた。
「そっか…少しでも早く目を覚ますといいですね…」
すると、千暁は「あ、そうだ!」と焦りながら言った。
「エリザベスちゃん、喉乾かない?」
麗羅が戸惑っていた。だが、優柔不断になるわけにも行かずに「あ、乾いてません」と返した。すると、ドアを開ける音がした。
「失礼します。飲み物持ってきました。もしよかったら…」
そこにいたのはこの屋敷に使えるメイドの鈴だ。おぼんの上にラムネがある。
「鈴ちゃん、そこに置いといて」
鈴は机の上にラムネを二本置いた。
「せっかくなので飲みます」
「遠慮しなくていいよ。このラムネめっちゃ美味しいから」
麗羅はラムネを飲んだ。しゅわしゅわとした感覚が好きだ。
「とても美味しいです。初めて飲みました」
「気に入ってくれたならよかった。このラムネ、俺の国では有名だし、死者たちもこれは飲んでる。俺の家族は高級料理とかあまり食わないし」
意外なことを知った。豪華な和洋折衷の屋敷にすんでいる人は高そうな料理を食べそうなイメージがあった。
千暁と雑談をしているうちに時間があっという間に過ぎていった。
夕方くらいになると、麗羅は雪の国の旅館で泊まるため屋敷から帰ることにした。屋敷の外に出ると千暁は見送りをした。
「エリザベスちゃん、守護国覇王戦で会おう。約束だ」
「はい。審査員として、参加します」
麗羅は人力車に乗り、千暁の屋敷を去った。その後、千暁はどこか浮かない顔をしながら「ごめんな」と呟いた。




