78.脱出
もう一方、守護国・呪いの国の中で最強の妖怪の珠璃はまだ起きている。
(藍はどこへ行ったんだ)
藍のことが心配で眠れないでいる。すると、襖が開く音が聞こえた。
「失礼します、珠璃様。お茶を持って来ました」
「そこに置いといて」
『藤楽邸』という屋敷の召し使いは机の上に熱々のお茶の入った湯呑みを茶托ごと音を立てずに置いた。
「失礼しました」
その召使いが一言言った後、正座をしながら襖を閉めた。
(夕飯を食べていたとき、『風森屋』の方から火事が起きてそれを氷の妖術で火を消したという報告が来てたな)
珠璃は召使いの一人からの報告を思い出す。そのときは動こうとした。だが、数年前くらいに千暁からこう言われた。
―珠璃、お前は何も動くな。君の妖術はずっと前にあっちの世界で暴走してしまったことがあるからな―
また妖術の暴走が再発してしまう。珠璃はこの世で人間に化けて政治を乱しこの世の人々を奴隷にさせたことがある。
(このことはまだ誰も話してないが青蘭がなんとかしてくれるか)
珠璃は「千暁はむかつくけど」と口に出しながら過去を思い出している。
まだ真っ暗な夜の中で海斗たちは地下室へと入ったばかりだ。海斗たちが"カシャ"という猫の怪は気付いたときには既に消えていた。
(カシャが消えていっちゃったわ)
手入れされていない蔵屋敷の中にある地下室へ入った海斗たちは連れ去られた妖怪や死者を見つけた。
「よかった、悪い人たちじゃないんだ」
連れ去られた死者の一人が安堵していた。周りの死者や妖怪たちも安心した顔をしている。
「一体、何があってここに閉じ込められたのですか?」
「私たちはここに閉じ込められた訳ではなかったのです」
海斗がその死者の一人に聞くと、勇気を出して答えてくれた。
「それってどういうこと?」
そのことを聞いていた青蘭も詳しく知りたくなった。
「もともとは神楽坂から離れた場所にある牢屋敷へ連れてこられました。でも閉じ込められた3人の子供たちが牢屋敷から脱走してしまいました。それで男たちは私たちをここへ連れてこられました」
三人は頷いた。連れ去られた死者や妖怪たちが少し衰弱しているように見えた。食べ物も与えられなかったのだろう。
「よくここで頑張って耐えてた。すごく偉いね」
海斗は目を細めながら優しい口調で言った。
「あとは私たちに任せてください」
紅葉がその死者や妖怪たちに言うとその人たちは安心した。
「本当にありがとうございます。あなたたちには感謝しかありません」
その死者の一人が海斗たちにお辞儀をした。周りの死者や妖怪たちも涙を流しながら「ありがとうございます」と海斗たちに言っている。
「よし、ぐずぐずしている暇はない。ここを脱出すればいいかだ。今なら男たちもいない。だから安心していい」
青蘭は凛々としている。それでも、周りの死者や妖怪たちは怯えていた。いつ来るかもわからない。
「まず、全員で一気にいくのは駄目だ。男たちに見つかると危険な目に合うから」
それを聞いて、その死者や妖怪たちは頷いている。
「それで六つの班に分けてほしい。人間と妖怪を一緒にして分けて脱出をする」
「じゃあもし途中で見つかったらどうすればいいの?」
連れ去られた妖怪の一人が言った。
「妖怪って妖術が使えるから人間の男にはすぐに倒せると思うよ。だから人間と妖怪を一緒にして脱走するの」
そのことを聞いていた死者と妖怪たちは納得した。
「あの娘すごいね」
「この作戦なら行けるかもしれないね」
女子高生に化けている青蘭に言っているのが聞こえた。
(さすが青蘭なかなかやるな。美人だな~)
海斗は女の姿になっている青蘭を見つめた。なかなかの美人だ。すると、青蘭が海斗のことを見てきた。
「さっきから私を見てるけど何か言いたいことでもあるの?」
「あ…いや…全然ないよ」
それに対して、青蘭は「ふ~ん」と返した。青蘭は海斗たちがいるときだけの一人称は俺。周りの死者や妖怪たちがいるときは私と言っている。
「私、あの男たちがいないか見てくるね」
「いや、私が見てくる。紅葉は待っててほしい」
紅葉が「でも」と言おうとしたとき青蘭は「これ以上…」と口に出した。
「これ以上誰にも傷つきたくないから待っててほしい。ここは私に任せて」
そう言うと青蘭は階段に登り、地下室の扉をほんの少し開けた。
(音はなるんだな)
地下室の扉を開けた瞬間、きしむ音がなっていた。ずいぶんと古そうな地下室だと確信した。犯人(男)たちの足音はない。
「まずは君たちから出ていいよ」
その死者や妖怪たちは急いで地下室から出た。
「本当にいいのかしら」
「でも大丈夫ですよ」
その死者の一人が不安そうにしていた。だがもう一人の死者は優しい口調で慰めたのだ。
(やっぱり不安だな…僕人間だから絶対に犯人たちに気付かれたら殺されるかもな)
海斗は険しい犯人の顔の想像をしていた。そのせいか怯えている。
「このままだったらあなたたちも出ていっていいくらいだよ」
「私たちですか?」
青蘭は頷きをした。二つ目の班が地下室から脱出した。その後、海斗は青蘭に交代を求めようとした。
「そろそろ休んだ方がいいんじゃない?」
「いいや大丈夫だ」
すると、紅葉が「確かにそうだね」と言っていた。
「あ、火の調整はなんとかするから」
「わかった。ただし、犯人の足音には十分に注意してよく聞いて」
紅葉はそのことを意識しながら地下室の扉を少し開けた。
(喋り声もないし足音もないからそろそろ出ていってもいいね)
そう判断した紅葉は「そろそろ出ていっても大丈夫」と伝えた。すると、三つ目の班が脱出した。
(紅葉なかなかやるね)
青蘭は心の中で褒めている。まだ犯人の足音や喋り声もないため四つ目、五つ目の班と次々と脱出することができた。
(意外と時間があったわね)
紅葉は地下室の扉を少し開けながら犯人が来てるか様子を見ていた。すると、一瞬誰かの喋り声が聞こえたのだ。そのことで紅葉ははっとした。
(さっきのは何だったのだろう。男の喋り声のような…)
紅葉は正確に様子を見る。やはり複数人の男の喋り声が聞こえる。蔵屋敷へとやってきた。
「あいつら静かにしてるだろうな」
「それはそうですよ。女だらけだから俺たちには逆らえないですよね」
複数人の喋り声が聞こえるのだ。紅葉は扉を閉めた。そのことを海斗たちに伝えることにした。
「聞いて、犯人がここへ来る…」
「まずいな…」
青蘭は違う作戦を考え込んだ。すると、地下室のほうに近づく男たちの喋り声が聞こえた。そして地下室の扉を開く音がする。
「お前ら、静かにしてるかって…」
複数人の男たちはだんだんと激怒しそうな顔へとなっていく。
「脱出したな。まずお前らを殺すわ」
海斗たちは犯人らしき男たちを見た。海斗は恐怖感を感じるが青蘭は何も怯えてもすらしていない。
(七人の男か。俺なら怖くないかも)
青蘭はその男たちを見て楽勝にしか見えなかったのだ。人間で何も妖術も使えないからだ。




