77.犯人の居場所
その一方で藍はまだ目が覚めていなかった。志野は藍が目を覚ますまで待ち続けている。
(藍ちゃんがまだ目を覚ましてない)
炎でできている龍に乗っていたときに酔ってしまった。そのせいで今、気絶している。
(落ち着け。考えるんだ)
志野は瓦でできている屋根から落ち、尻もちをしまった。時間が経っているおかげで少し痛みは治まっている。
(だけど、私と藍ちゃん以外誰もいないな。周りの建物は氷ってる)
女子高生に化けている青蘭が氷の妖術で火を消した。
(私も『黄泉の国』に行く前は寒がりだったっけ。でもここで暮らすことになったときは寒くも暑くも感じなくなった)
志野も人間だ。死者になれば暑さ、寒さも感じなくなる。だけど、怪我や心の痛みは感じる。
(あ、そうだ)
すると、志野はあることを思い出した。
(もし、連れていかれた人たちがここへ帰ってきたら謝らなくては)
妖怪や人間を含めた失踪事件の黒幕だったこと。その罪を償わなければならない。謝っても無駄。けれど、明かさなければならない場面だ。
志野が考え事をしていると、藍が目を覚まそうとしていたのだ。
「ん…ここは…」
目を覚ましたときには視界がまだぼやけていた。
「藍ちゃん、本当に目が覚めてよかった」
すると、藍ははっとした。
海斗、青蘭、紅葉は"カシャ"と呼ばれた猫に着いていっている。
「"カシャ"、どこに向かってるんだよ。妖怪や死者たちの方へと向かってるけど向こうに連れていかれた死者や妖怪がいるの?」
海斗が"カシャ"に聞きながら走って着いていく。
「それは分からない。ワシは鼻が良いからな」
すると、それを聞いていた青蘭は「ふ~ん」と無愛想に返したのだ。
「じゃあ、あなたは本当に猫なの?」
「それがどうしたんだ。猫でも嗅覚は良いぞ」
「へえ」
「おい、もっと言い方あるんじゃねえの。もっと良い感想とかあるはずだ」
"カシャ"は、青蘭に対して口調を悪くした。しかし青蘭は何も返さないどころか沈黙になる。
(一人称がワシとかどういう生い立ちをもってるんだ、この猫は。おじいちゃんか!操られたんだよね、一体どんな匂いが漂ってるんだよ)
普通の猫を見た海斗は内心ではつっこんでいる。すると、"カシャ"が何か伝えようとしているのだ。
「お前ら、もう少し速く走れない?そろそろ急がないとまずい状況になる。連れ去られた人たちに被害が及ぶ。それを対処する方法は」
そのことに三人は走りながらゴクリと唾を飲み込む。
「連れていかれた妖怪や死者全員を一匹残らず助けるか、"妖"の力をもっている死者が犯人を倒す。それしかない」
三人で連れていかれた死者や妖怪全員を助けるのは無理がある。だが、"妖"の力を持っているのは海斗。
「だったら、海斗がその犯人を倒せばいいじゃないですか」
青蘭が堂々と言う。だけど、そのことに海斗は犯人を倒せる自信が全くない。それどころか目立つようなことを起こすと地獄に連れていかれる。悪事を行ったことと同じだ。
「無理しなくていいよ、鳥山くん」
「いや、大丈夫だ」
海斗には倒す自信がないが連れていかれた死者や妖怪たちに被害が及ばないよりはいい。
「僕が倒します、必ず。なぜなら僕、ここに来てから地獄の時間を味わっているからだ。それを終わらせるため」
それを聞いた三人はどういうことなのか全く分からない。
「それ、あとで聞かせて。地獄の時間のこと」
紅葉は優しい口調で言った。すると、"カシャ"が少しずつ速く走っていった。
「もう少し速く走って着いてきて」
"カシャ"が指示を出した。青蘭と紅葉は走って着いていける。海斗も着いていけるが、だんだんと追い付けなくなる。
(もう『黄鈴屋』近辺まで走っていっているじゃないか)
海斗は猛烈な汗をかいている。そのせいか体中が暑い。
「一体どういうことになってるの?」
「『風森屋』の方では火事になってたんだよね。でも、今は氷付けられてるし」
「もう珠璃さんに頼るしかないんじゃないの。あの妖怪なら妖術も最強だし」
『黄鈴屋』近辺まで走っていると、街の人々が混乱している。次々と連れ去られる失踪事件を珠璃にも頼ろうとしているだろう。
「ねえ"カシャ"、まだなの?一体…何の匂いが漂ってるの?」
「犯人の匂いだよ。連れ去った犯人の匂いが泥臭い魚のような匂いがするし」
なんの魚の匂いがするだろうか。神楽坂には海がない。海斗がまだ行ったことがない守護国・水の国から輸入してきたのだろう。
(こういうときってなんだか嫌な予感がするな…)
"カシャ"に走って着いていっている紅葉は嫌なことを想像した。連れ去られた妖怪や死者を犯人が完全に殺そうとしているだろう。まだ犯人の顔と名前が分からない。
「まだ泥臭い魚のような匂いがするんだね。俺、嗅覚には鈍感だから」
青蘭は今、女子高生に化けているからか嗅覚には鈍感だ。人混みに紛れながらも"カシャ"に着いていった。右、左、真っすぐと店の角を何度も曲がり続けているうちに神楽坂から出てしまった。
"カシャ"に着いていっているうちにとうとう止まった。その場所は手入れされていない蔵屋敷だ。真っ暗な森の中にあった。
「着いた。多分この中に連れ去られた人たちや犯人がいる」
「でも待って。普通蔵屋敷は川沿いとかに建てられてるんじゃないの?」
海斗は蔵屋敷について歴史の授業で習ったことがあった。江戸時代の頃の蔵屋敷は大阪の川沿いに建てられていた。現在も残っている。
「君、この蔵屋敷はね。食べ物を置く場所ではない」
"カシャ"はまだ言い続ける。
「犯人たちの本基地だ。この蔵屋敷を誰か壊せ」
「でも、壊したら犯人たちに気付かれますよね」
青蘭が"カシャ"に聞いても「壊せ!」と強い口調で返していた。
「わかった。壊せば良いんですね」
青蘭も仕方なく蔵屋敷を壊すことにした。
「まず、扉を思いっきり壊してみようか」
すると青蘭は足で蹴破り、扉を壊すことに成功。その瞬間、扉はばたんと倒れた。四人が蔵屋敷の中に入ると、泥臭い魚のような匂いが強くなる。
(臭い…臭い臭い臭い)
海斗はその匂いを耐えながら中へ進んでいく。
(青蘭と紅葉は妖怪だから耐えられるんだ。いいな)
妖怪は匂いを感じるが、臭いとは思っていないようだ。
「鳥山くん、青蘭くん、なんか地下室みたいになってない?」
蔵屋敷の中に入った瞬間、地下室へ行く扉はがあった。その扉を開けば連れ去られた妖怪や死者を助けることができる。地下室の方から泥臭い魚のような匂いが強い。
「入るよ。この中に」
無理、できないは通用しなかった。"カシャ"の命令に従うことにした。地下室の扉をそっと開けると、四人は階段を下る。
すると、そこにいたのは連れ去られた妖怪や死者たちだ。まるで収容所に閉じ込められるようだった。日光に当たる窓が一つもなかった。
「あの、助けに来てくれた人たちですか?」
「そうです。僕たちは君たちを助けに来ました」
連れ去られた妖怪の一人が海斗たちに聞いた。かいとがそう言うとその妖怪や死者たちは喜んだ。




