73.奮闘
(怖い…高いところは…苦手だ…)
志野は瓦でできている屋根の上で立っている。青蘭の氷の妖術のお陰で火は消えている。だが、着地したときに滑るかどうか。それが不安だった。
(雪乃ちゃんは平気で下へと飛び降りていったもんね…)
青蘭が海斗たちの方へいくため、瓦でできている屋根から飛び降りたのを見たときは女子とは思えないほどの体力を持っていた。
(まだ猫の唸り声はなってないから大丈夫。今なら飛び降りることができるはず)
志野は息を飲み込んだあと勇気を出し、「せ~の」と小声で言いながら屋根から飛び降りたのだ。
「痛っ!」
思わず声が出てしまった。着地したときには地面が尻に強く付き、痛めてしまったのだ。
(結構痛かったな…でも氷の妖術で火を消した雪乃ちゃんには感謝しないとね)
そう思いながら青蘭のところへ向かうため、立ち上がろうとしたときだ。尻が地面に強く付いてしまったせいか上手く立ち上がることかできない。着物姿のためでもあった。
「いてて…」
尻の痛みガマだ残っている。それでも猫の唸り声がならないうちに立ち上がることができた。
青蘭は海斗たちの方にいた。海斗たちと悲鳴がなっていたためだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫。尻を付いただけ」
海斗と紅葉、藍は地面に強く尻を付いただけだった。
「藍…気絶しているけど大丈夫なの?」
「酔って気絶しているみたい」
藍はばたりと倒れていた。紅葉がそういうと青蘭は小さくため息をついた。
「じゃあ紅葉、志野さんのところにいって。俺が案内する」
「わかった」
「じゃあ海斗も着いてきて。『風森屋』という店にいくから」
「了解」
海斗は承知のサインをしながら返した。紅葉が藍を背負おうとしたとき、青蘭が「代わりにやる」と言った。
「紅葉はまだ火炎の妖術の調整がまだできてないだろう。だからまずは自分のことを優先した方がいい」
青蘭の言う通りだ。でもと言い訳ををしようとしたが、その理由が見当たらなかった。なので「わかった…」と仕方なく言った。
まだ真っ暗な夜だ。その間に4人は志野のところへ行く。
「行くぞ。俺に着いてこい」
女子高生に化けている青蘭は海斗と紅葉に声をかけた。するとすぐに青蘭は素早く走っていこうとしたときだ。草履が滑ったため転んでしまった。
「いてて…」
「大丈夫…?」
青蘭に声をかけたのは紅葉だ。転んだ姿を見て海斗は思わず吹き出しそうになる。
(青蘭がこんなに転んだ姿は初めて見た。こんなにポンコツ感があるのは初めてだよ)
海斗は笑い出すのを堪えた。数秒間続くと、青蘭は再び立ち上がった。
「大丈夫だ。転ぶと危ないから早歩きで行こう」
「早歩き!?着物姿で早歩きなんか聞いたことないよ」
着物姿で早歩きをすると聞き、海斗は目を見開きながら驚いてしまった。
青蘭は藍を背負いながら早歩きで志野のところへ向かう。それに海斗と紅葉も着いていった。
「急げ急げ!時間がない」
急いで着いてくるよう海斗と紅葉に伝える。藍はまだ気絶し、まだ目が覚まさないままだ。
「おい青蘭!早歩きなんかしたら時間がかかるよ」
「いいんだよ。それで」
海斗が早歩きをしながら言った。だが、青蘭はやめることはない。店全体は氷の棘で覆われている。土の地面も氷っていたのだ。
「滑るから気を付けろ」
「青蘭、あなたに言われたくないよ。紅葉もそう思わない?」
青蘭が2人に伝えたあと海斗がはっきりとした声で言った。
(やっぱりここは言わない方がいいかも…いや…)
紅葉は戸惑っていた。すると、頭の中で吹き出しが出てきた。想像の中だ。
―青蘭、あなたに言われたくないよ。紅葉もそう思わない?―
―それは鳥山くんの言う通りだよ!自分のことを第一に優先しないとです―
海斗に同意をすると青蘭が後ろを振り向きながら恨んでいた。
―はいはいわかりました。これからは海斗たちに任せるわ―
青蘭はぶっきらぼうに2人に対して言う。
(でも否定をすると鳥山くんに怒られるか…?)
紅葉は海斗にどう返そうか分からなくなった。
「紅葉?」
「あ、ごめんね。ちょっと考え事をしてたの」
紅葉は海斗に聞かれたが誤魔化すような言い方で返した。
数分早歩きをしているうちに志野がいた場所へ着いた。
「いた。志野さん、大丈夫ですか!」
3人は志野のところへすぐにいく。志野は地面に尻を付いた状態でいた。そのせいか立ち上がることができない。
「あ、大丈夫だよ。少し痛みが治まったわ。藍、すごい酔って気絶している」
「あ…藍なら下を向くと結構酔いやすい体質なんです」
「それなら預かろうか?」
そのことに対し、青蘭は「お願いできますか?」と聞いた。すると、志野は「いいわよ」と返した。
青蘭は藍を凍っている地面の上にそっと置いた。
「それではよろしくお願いします」
そう言うと青蘭は『風森屋』という店へ向かった。早歩きでだ。
「海斗、紅葉。すぐに片付けよう」
「分かった」
海斗は真面目な表情をしながら返した。海斗と紅葉も青蘭に着いていった。後ろを振り向くことなく。
数分早歩きをして向かううちに『風森屋』へ着いた。その店の近辺では火事が起きている。青蘭が氷の妖術で火を消した。しかし『風森屋』までは消せなかった。
(何だか焦げ臭い匂いがする…)
海斗は鼻が突くようなツンとした匂いがした。火の煙だろう。
「紅葉はここにいて、危ないから。海斗もだ」
「ちょっと待って。私も使えるよ。妖術は」
紅葉は自分の持っている妖術が使えると主張した。だが、青蘭は聞く耳を持たない。
「青蘭、こういうときは紅葉も中に入った方がいいよ。手伝いをしたがっているから」
「だって紅葉は火炎の妖術だろ。火に触れるとまた火事が起きてしまうからよ」
たしかに青蘭の言う通りだった。紅葉は仕方なく、ここは諦めようとした。
「やっぱり…」
すると海斗は「ちょっと待った~!」と大声で紅葉の話を遮った。
「こんなのはどうだ?」
「何だ?こんなのって」
青蘭は淡々と海斗に聞く。
「まずは青蘭が店の中に入って火を消す。そして紅葉が原因となるものを火を使って消す。これでどう?」
それに対し、青蘭は「一応却下で」と淡々とすぐに言った。
「今の青蘭は一匹狼だよ。協力をしない。全部一人でやろうとしている」
海斗は思わず口にだした。
「一匹狼だと一人では生きていけない。僕が黄泉の国へ行く前にこの世の人に教えてもらった言葉だ」
「俺に説教とかしても意味ないよ。だって妖怪だもん」
すると海斗は「いい加減にしろ!妖怪だからって関係ない!」と怒る。
「あのときのこと忘れたのか。青蘭と蓮と僕で大嶽丸という鬼を倒したことを」
「だってあのときは仕方なく協力…」
「仕方なく…それは嘘だ」
青蘭は海斗が何を言っているのかは分からなかった。紅葉の依頼で大嶽丸を倒したときのことを思い出した。記憶を覚えることがまだ不十分のため、忘れることもしばしばある。
「ちなみにね、僕はこう思うんだ。妖怪と死者と協力をすれば一つくらいなにかを見つけたり気付けたりすることができるんだ」
すると、青蘭は何も言い返すことができなくなった。
「分かった。さっきは悪かった。入ろう」
3人は火に包まれている店の中に入った。




