66.告白
(志野さんって最初、俺が来たときは笑顔で対応していたよね…)
青蘭と藍が『風森屋』という店の中へ入ったとき、その店の営業成績が一位の従業員・志野にじっと見られていた。
(でも、藍と一緒に来たときだけは嫉妬しているような目で見られる…)
考え事をしていると、藍に肩を優しく叩かれた。
「青蘭、行こう」
すると、青蘭は静かな声で「ここで青蘭と呼ばないで」と言った。
「ごめんごめん…」
藍は口が軽いところもある。だが、間違いに気付いたらすぐに謝る。
「大丈夫だ。行こっか」
青蘭は店の仕事をし、藍は客と従業員が話す部屋へ向かった。
重い荷物を物置き部屋まで運ぶ仕事をしている青蘭は、その仕事をしている間に考え事をしてしまう。
(そういえば志野さん、藍が来たときにはどうして睨んだ…?)
そのことを疑問に思っていた。彼女は完璧で他の従業員からの信頼を得ている。
(志野さんと藍ってどちらも美人というか、話し上手だからな)
青蘭がそう考え事をしながら重い荷物を運んでいる途中、誰かとぶつかりそうになった。
「わっ!」
思わず声を上げるとそこにいたのは、志野だった。
「ごめんなさい、志野さん。あ、あとこの前の件ありがとうございます」
すると、志野は青蘭に怒るどころか無理して笑うような顔を取っていた。
「全然大丈夫だよ、雪乃ちゃん。あのとき、疲れちゃったでしょう。でも、無理しないで疲れたときは休んでいいからね」
それに対し、青蘭は「はい」と返した。
「あ、そうそう。荷物運びの仕事が終わったら話したいことがあるから二階に来てくれない?」
「はい、分かりました」
志野に頼まれたことを忘れないようにした。
青蘭が仕事を終えると、すぐに二階にある誰も使われていない部屋へ向かった。
(珍しいな。誰も使われてない部屋なんて。何か俺だけしか話せないことでもあるのかな)
ますます嫌な予感がした。その部屋の前へに着くと、全ては襖で閉められていた。青蘭は襖を静かにゆっくりと開ける。
(あ、いた。俺じゃなくて景色を見てる…)
気付いたときに志野は神楽坂の夜景を店の縁側から見ていたのだ。後ろを振り向くと、青蘭がいたことに気付く。
「今日は来てくれてありがとう。今、この部屋は誰も使われていないし私しか入ってない。なぜでしょうか?」
いきなりの質問だった。今、志野と青蘭は使われていない部屋で二人きりになっている。
「志野さんは何か隠し事があるような気がします。一人になりたいときに誰もいない場所で一人でいることを好むからでしょうか」
青蘭は淡々と答えた。
「そう?なんでそう思ったの?」
志野が質問をしたあと、そのことに対して青蘭は答えを準備していた。
「あなたはこの店の営業成績が一位だからです。完璧主義な人は失敗は許されない。そう思い込むと誰もいないところで休みたいと思う人がいるんですよ」
すると、志野は動揺してしまう。誰も使われていない部屋で休んでいたこと。控え室では化粧の直しや身だしなみを整えることしかしていない。
「あとはね、藍が来たときあなたは嫉妬していたよね。私は見ましたよ。やっぱり、洞察力がいいからかな」
「雪乃ちゃんはたまに探偵とかやってるから洞察力はいいんじゃないの?」
志野は引きつった笑いをしながら言った。青蘭が女子高生に化けていることには気付いていない。まだ余裕と感じている。
「確かにやっているよ。だって、私はね父さんが悪事を犯している人間の魂を奪う仕事をしているし」
「なかなかいいんじゃない?お義父さんの仕事」と志野は返した。
「あと、魅緑という客が最近起こっている失踪事件のことを知ってるらしい。魅緑が何度かこの店に来ているのを見て、私は犯人があなただと確信したんだよね」
「なんで私が…?」
志野がなぜ犯人なのかは正直分かっていない。
「だって志野さんは完璧主義なんですから。仕事と失踪事件の指示を出すことの両立ができる。つまり、この部屋で失踪事件の指示を共犯に伝えたりしていますよね?」
そのことに対して、志野は「でも、通信機器は持ってないよ」と返した。緊張しているせいか汗をかいていた。
「通信機器?だって、あなたは妖怪ではなく死者じゃないですか。妖怪でしたら通信機器なんて存在しません」
志野はまた動揺をした。通信機器と言ってしまったとたん、犯人。あるいは黒幕が志野であると決まった。すると、志野が拍手を4回した。
「…そうだよ。よく、分かったね。雪乃ちゃんはやっぱりすごいね」
褒められてことにもかかわらず青蘭は無視した。
「私ね、元々は"この世"で彼氏と平穏な日々を過ごした。でも、私の彼氏に毒を盛られて『黄泉の国』へ来たの。そこで、呪いの国にある神楽坂に行って『風森屋』で働いた」
志野は何事もなく正直に話した。だが、表情筋に力が入ってない。無理してでも接客の仕事をしていたせいか純粋な笑顔を失ってしまったのだ。
「私は一位にならないと行けないという強い思いがあった。でも、一緒に働いていた藍がいつも一位を取っていたから二位か三位しか取れてなかった。だから、私はどうしても藍の営業成績を落とすために杏子たちに頼んだ」
その話を聞いたとき、青蘭はため息をしながら呆れた顔を浮かんだ。
「藍が『風森屋』を辞めた後、私が一位になった。初めは嬉かった。けれど、次第に実績は他の従業員には褒められなくなり、信頼だけが残った。それで、私はこの街の山賊たちに誘拐するようにお願いをした」
すると、青蘭は「それだけなんですか?」と聞いた。
「それだけ…」
「いや、あなたはまだ隠し事があるような気がする。本当の動機は?藍に対しての嫌がらせなの?正直に話せば刑は軽くなるかもしれない」
青蘭は口調を悪くしながら言った。
「…じゃあ、言うね。動機は…自分の醜さから逃れるためだよ」
"醜さ"とはどういうことなのか。青蘭にとっては全く分からなかった。
「そのうち分かるよ。ちなみに私の下の名前は夕日」
本名が"志野夕日"という名前だった。青蘭は女子高生に化けていることを打ち明けないと行けないと思ってきた。嘘を付いてはいけない。そのことは分かっていても、無理だった。
(志野さんが打ち明けてくれた。本当は雪乃ではなく青蘭。性別は男。一人称も私ではなく俺。と伝えたいよ…)
すると、青蘭はなぜか涙がぽろんと溢れてきた。一滴、二滴、三滴。次々と溢れてくる。
「雪乃ちゃん…どうした?」
「夕日さん…」
志野が小声で青蘭に話しかけた。青蘭はいつも、「志野さん」と呼ぶはず。だが、「夕日さん」と下の名前と呼んだ。
「夕日さん…私…実は…」
青蘭も志野に涙を流しながら打ち明けようとしたときだった。突然、一階の厨房で爆発音がなっていた。
「今のは何!?」
志野は思わず普通の声より少し大きな声で口に出した。すぐに厨房へと向かった。
「私もすぐに行きます」
「雪乃ちゃんは他の従業員たちやお客さんをこの店から逃げさせて!」
既に冷静だった。青蘭は一階へ向かい、客や他の従業員を逃げさせることにした。現在、営業成績一位にふさわしいのは志野夕日。青蘭はそう思っている。




