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ガチャでUR種族を当てたら、異世界に飛ばされた  作者: 厠之 花子
序章:王国滅亡編
16/18

14.賭け試合です

「次のチャンピオンは、狂人ビクティム選手!!さあ、我こそはという挑戦者はいませんか!!?」


司会者が必死に声を張り上げるも虚しく、会場からは挑戦を意味する〝挙手〟を誰も行わない。

当然だ、チャンピオンの異常さは有名である。誰も挑みたくはないだろう。


さっきの盛り上がりが嘘のように、観戦者は身を寄せ合いヒソヒソと何かを話す。


「なあ、マジかよ⋯⋯あいつが狂人ビクティムか?」

「まさか本物?凄くいい人そうだけど」

「確か、噂だと相当狂ったやつだよね」

「あ⋯⋯ありゃあ⋯本物だ。間違いねぇ、あの赤髪だ」

「初戦から挑戦者を半殺しにしたっていう噂は本当なのかよ」

「笑顔で相手の爪を剥ぐとか⋯⋯誰も戦いたくねぇよ⋯そんな狂った奴」

「でもなあ、見てる分にはめっちゃ楽しいよな。あれ」


──その言葉に、誰もが思った。

「また⋯⋯このまま、試合が中止になるのか?」と。


ビクティムの試合は見たいが、自分が戦いたくない。誰か噂を知らないやつがいればいいのに──と。

そうして誰もが諦めた時。


「はいはーい!!」


やっと手が挙がった、と賞賛の歓声をあげようとした───その手を挙げた者が、僅か10歳程の少女だと知るまでは。


「誰もいないなら、私やってみたいです」


鈴を転がすような可愛らしい声は、静まった会場内に思いの外大きく響いた。

見ると、挙手をし立ち上がったのは幼い少女。とんがり帽子の下の顔は、この状況に相応しくないくらいの無邪気な笑みを作っている。


「⋯⋯えっ」


その姿を確認した誰かが驚きの声を漏らした。しかし、それにも頷ける。


儚げで華奢な身体。ビクティムにかかったら一瞬にして肉を削ぎ落とされるだろう。

もしかしたら、死んでしまうかもしれない。


奴の噂は知らないにしろ、少女にとって勝算は低い事は明らか。しかし、その細い腕はしっかりと伸びていた。


あまりにも常識外れな状況に、誰もが言葉を失った。それは司会者も例外ではない。


「はっ──⋯⋯!?」


司会者の間の抜けた声。


まるで会場内全ての時間が止まったかのように、かすかな衣擦れ音ですら聞こえない。

ガタン、と立ち上がる音がした、そんな時。


「あんた、本気か!?」


十分な間をおいて、一人の男が叫ぶように言った。それを皮切りに次々に観戦者が立ち上がる。


「止めとけ止めとけ!!死んじまうぞ!!」

「こんな事しなくたって、金は稼げるぞ!?」

「ああそうだそうだ!こんな事をしちまったらもう、稼げるものも稼げねえ!!」

「訳ありか何だか知らねーが、これは遊びじゃないんだぞ!!」


観戦者が見たいのは殺戮ではない。必死に観戦者たちは少女を引き止める。

だが、少女は引き下がらない。


「1000Gさえ払えぱ、誰でも・・・挑戦していいんですよね」


にっこり、と笑って取り出したのは硬貨。確かに少女の言うことは正しい。

少女の前を立ち塞がった者が渋々と散らばり、あれほどまで止めていた者もぐっ、と押し黙る。


堂々と司会者の前に出てきた少女は、遠くで見るよりもずっと儚げだった。


「こんにちは、赤髪のおにーさん」


とんがり帽子を深く被り、黒いロープを羽織った少女は、そう言って楽しそうに笑った。


────────────


「──これより、挑戦者ノア選手VSチャンピオンビクティム選手の試合を始めます!!」


司会者からのルール説明を終え、両者共にステージの中心部で相対する。

ノアの目の前に立つのは赤髪の青年、ビクティムだ。


これから戦うというのに、にこやかな笑みを絶やさずに浮かべている。それを見てノアは少し目を細めた。


(なんか⋯⋯さっきの奴といい、不気味な奴が多いな。⋯⋯まるで、これから楽しい事でも始めるみたいな、そんな笑顔だ)


その笑顔を保ちながら言うビクティム。ノアもにこやかに対応する。


「僕はね、赤色が好きなんだ」

「あー⋯⋯だから、半殺しにしちゃうの?」

「うん、新鮮な血はとても綺麗なんだよ」


だから僕に見せてよ、とビクティムは言う。ノアは困ったように息を吐いた。勿論、負けてやるつもりなどない。


「それは無理かなー⋯⋯私も100万Gは欲しいし。というか、もうお金ないし」

「そっか⋯⋯残念だなぁ。でも安心してよ、子供だからって手加減はしないからさ!」


何処が安心してなのか、その場にいる全員が思ったことだろう。ぜひ、その子犬のような笑顔を問いかけたい。


「あー⋯⋯うん。じゃあ、かかってきなよ」


ノアが呆れた表情で言った刹那、ビクティムが腕を掴もうと手を伸ばした。

が、ノアは軽く身を逸らしてそれを避ける。


「⋯⋯やるじゃん!!」

「そりゃどーも」


無表情にそう言いながら、ノアは内心戸惑っていた。


自身が手にする力の大きさに。


───やっぱり、身体・・が反応している。


異世界エトラルシアに来てから、戦闘という戦闘はさほどしていなかったからか、余り実感は無かったが、今この時はっきりと体感した。


何も考えずとも、自然と身体が動く──まるで息をするように・・・・・・・


かと言って、意思と反するわけではない。意思も何をすればいいか、何が最善かを理解した上で身体と共に反応している。


平和ボケをした日本人の姿は、ここになかった。


次々とくる突きや蹴りの嵐を捌きながら、ノアは言う。


「⋯⋯おにーさんも速いね。向かう所敵なしって感じじゃなかった?」

「あー⋯⋯敵なしって言うか、みんな僕と試合をしたがらなかったんだ。ルールは守っているのに」

「みんなが弱虫なんだよ、きっとね⋯⋯だって、人間・・だもの」


そっかそうだよね、と満面の笑みで答えたビクティムが突然身を低くし、ノアの軸足目掛けて蹴りを繰り出す。

観戦者の目にすら止まらない速さでの蹴り。薄々とノアが只者ではないと感じ始めていた観客も、この蹴りは避けられないと予想し目を瞑る。


「速いっていっても──所詮、人間・・なんだよね」


そんな言葉が静まった会場内に響いた時、目を開けた一人の観戦者は信じられないような光景を見た。


あの・・ビクティムが倒れている。


10歳程の少女が、無敗だった狂人ビクティムに勝った──誰もがその事実を理解するまでに時間がかかった。 一部始終を観ていた観戦者でさえ、何が起きたのかわからない。

倒れ込む音すら、聞こえなかったのだ。


気づいた時にはもう、ビクティムは床に伏していた。


「───しょ、勝者ノア選手──⋯⋯!!」


会場がざわめく。


「今、何が⋯⋯?」

「何も見えなかったぞ⋯⋯何をやったんだあの小娘は」

「嘘だろ⋯⋯俺も見えなかった」

「何が起きたんだ⋯⋯?」


何が起こったのか、誰もわからない。皆一様に顔を見合わせるばかりだ。

突然、誰かが言った。


「あの子供、そういや服は持参の服だよな⋯⋯」


「そういやそうだな⋯⋯まさか」


観戦者の驚愕はなんの引っかかりもなく、段々と疑問へと変わってゆく。この事実が信じられないからこそ、すんなりとその疑問は受け入れられた。

──あの少女の服は魔法服なんじゃないか。だから、ビクティムにも勝てたんじゃないか?──そんな疑問を。


普通ならば、魔法服などという高価な物をまだ幼い少女が持てるはずがないし、魔法服が買えるくらいの経済力ならばこの試合に出る必要はない。


なんせ一つの効果が付いた魔法服で、最低でも数十万はする世界なのだ。狂人に勝てる程の効果が付いた魔法服は、どれ程の価値があるのやら。


だが、事実を正当化させるためにはそう思い込むしかなかった。


「──おめでとうございます。賞金の100万Gです」


ありがとう、とノアが賞金を受け取ろうとした時だった。まるで怒鳴り声のような叫びが、観戦席から飛び出す。


「そのガキはインチキをしているっ──!!」


「⋯⋯は?」


何を言ってるんだ、と言う風に眉を顰めたノアを無視するように批判の声は続いた。


「そうだそうだ!!何か仕掛けがあるに違いない!」


「服を脱いで試合をしろ!!」


「てか、試合自体がヤラセなんじゃね!?」


前試合とは偉い違いだ。何故、歓声ならともかく罵声を浴びなければならないのか。

目の前の事実すら信じられないのだろうか。


ああ、イライラする。


(そりゃまあ、信じられないだろうけど⋯⋯いいじゃないか、幼女が勝っても)


ノアは100万Gを懐に仕舞い、ため息を吐く。そして、目一杯息を吸って言った。


「文句があるなら、挑戦者としてかかってこい!!正々堂々と、チャンピオンとして受けて立つ!!」


ただ、言ってから気づいた──翼と角はどうしようか。


「⋯⋯あっ⋯」


思わず帽子を見やるノア。


今はとんがり帽子とローブで隠れてはいるが、脱ぐと当然丸見えだ。幻属性の補助魔法は使えないし、かと言って攻撃魔法を使ったらルールに反する。


(あ⋯⋯詰んだ。え、どうしよう⋯)


いっその事逃げようか、と思うノア。今更ながら、勢いでとんでもない事を言ってしまった。


「じゃあ、僕が挑んでもいいかな」

「⋯⋯っ!?」


フワリ、と緑色の髪を揺らし、観戦席から降りてきたのは先程の青年。

藍色の瞳はしっかりとこちらを見つめている。


息を飲んだのはノアだった。何故、と言わんばかりに目を見開く。


「さっきの⋯⋯」

「うん、さっきぶり」


ニコニコ、と微笑む青年。ノアは唖然としたまま、頭に疑問符を浮かべた。


「なんで、ここにいるんですか?店前で別れたはずじゃ⋯⋯?」

「んー何となく?⋯⋯でも、本当はすぐ出るつもりだったんだよ───君があいつに勝つまでは、ね」


戦ったら楽しそうだな、って思ったんだ──そう青年は笑顔で話す。

さっきと変わらない筈のその笑顔に、ノアは何故か身を固くした。紅い瞳を警戒するように細める。


───ただ者じゃない、この青年。


そんなノアの様子も気にせずに、青年は「ああ、そうだ」と口を開いた。警戒するノアの耳に口を近づける。


「帽子とローブは脱がなくてもいいよ──脱げないもんね、魔族のお嬢さん?」


ドクン、と胸が跳ねた。


「⋯⋯なっ⋯んでそれを」


小声で囁かれたノアは驚き、思わず青年を凝視する。

そんなノアの呟きに対し、青年はニコニコと笑顔を浮かべ、なんて事のないようにそれに応えた。


「だって──僕も君と同族だからね」

ビクティム君はまた出現します(予定)

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