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第1章:十五階の窓と、震える自己紹介

今でもはっきりと覚えています。三ヶ月前、僕はノートパソコンの画面で長野県松本市の写真を見つめることしかできませんでした。でも今日、僕はその街の小雨の中に立ち、自由の香りがする冷たい空気を吸い込んでいます。父の新しい仕事が、僕の夢の中にしかなかった世界の扉を開けてくれました。もう退屈なんてありません。道の角を曲がるたびに、新しい冒険が待っています。


僕、母、父はマンションに住んでいます。母にとって、この部屋は居心地の良い「金のカゴ」のような場所です。父は駅に近いという理由でここを選びました。冷たい印象の建物ですが、廊下には家族の写真を飾っています。小さなバ ルコニーは僕たちのお気に入りの場所で、夕暮れ時に父と二人でお茶を飲みながら、ビルに沈む夕日を眺めるのが日課です。


この部屋は母を映し出しています。整理整頓され、清潔で、ラベンダーの香りがします。でも、父のコーナーには古新聞や本が山積みになっていて、母が愛着を持って見守る「小さな混沌」があります。15階のこの部屋が僕たちの世界です。壁は隣の喧嘩が聞こえるほど薄いけれど、母の料理の香りを包み込むには十分な温かさがあります。父はいつも言います。「一緒にいられることが一番大切だ」と。朝食の時、父の膝がいつもテーブルにぶつかるけれどね。


僕たちが松本に越してきたのは、僕が中学を卒業したばかりの頃でした。僕は松本県ヶ丘高校に入学しました。インドネシアにいた頃、日本語はカタカナの読み書きと、基本的な単語や日常会話を少し覚えただけでした。正直、日本語は得意ではなく、話す時はいつもたどたどしいままでした。


松本県ヶ丘高校での最初の日。僕はマンションを出て、一人で歩き出しました。心臓の鼓動が激しくなり、冷や汗が止まりません。制服のバッグを握る手は汗ばみ、指先が震えていました。

ついに1年A組の教室の前に着きました。引き戸の向こうから、何十人もの生徒たちの話し声が聞こえます。ドアを開ける時、手が激しく震えました。


ドアを開けると、チョークの香りと、突然訪れた静寂に息が詰まりそうになりました。僕はただの転校生ではなく、完璧に並んだ制服の列の中に現れた「異物」のようでした。


山田先生が静かにするよう合図を送り、話し始めました。先生の声はタイプライターのように速く、鋭く、僕の記憶には何も残りませんでした。

自己紹介を始めたものの、声は震え、名前を言った後は……頭が真っ白になりました。昨晩覚えたはずの言葉は一瞬で消え去りました。五十足の瞳が、続きの出ない僕をじっと見つのけています。

僕は混乱し、「えーと……あの……」と言いながら、痒くもない頭をかきました。後ろの席から小さな笑い声が聞こえ、最前列の眼鏡をかけた女子生徒が口を抑えて笑いをこらえているのが見えました。


隣に立つ山田先生が小さく咳払いをして、沈黙を破りました。先生は理解を示して微笑み、速い日本語で何かを言いました。「大丈夫」と「頑張れ」という言葉だけが聞き取れました。それは励ましでしたが、今の僕には少し苦い同情のように感じられました。

僕は残された勇気を振り絞り、深すぎるほどのお辞儀をしました。「すみません!」、その一言だけが僕の頭に残った謝罪の言葉でした。


顔が火照るのを感じながら、僕は一番後ろの空席に急いで向かいました。好奇の視線を無視し、机に座ると、中身を整理し終えているはずのバッグの中を忙しそうに確認するふりをして、深くうつむきました。

突然、隣の席から小さな声が聞こえました。

「こんにちは」

少し顔を上げると、そこには一枚の紙切れが置かれていました。そこには、ぎこちない大文字でこう書かれていました。

「WELCOME TO JAPAN」

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