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ーPlus+ticー  作者: BARUO
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7/9

番外編Ⅱ「約束」

文化祭まであと二ヶ月。

アカネは獅龍凰の折れた腕を前に頭を抱えていた。

西田から教わった通り、真鍮線を軸にして接続する。

言っている事は分かる。

だが、上手くいかない。

ピンバイスが滑る。

穴の位置がずれる。

気付けば同じ作業を何度も繰り返していた。

「うぅ……。」

思わず唸った時だった。

「アカネ、お前塗装はすげぇのに加工になると不器用だな〜。」

横からひょこっと康太が顔を出した。

「うるさい。」

アカネは即答する。

康太はケラケラ笑いながら隣へ座った。

「貸してみ。」

「いい。自分でやる。」

「そう言って十分くらい格闘してるじゃねーか。」

「見てたの?」

「そりゃ隣だし。」

悪びれる様子もない。

アカネは小さく舌打ちすると、再びピンバイスを握った。

だがやっぱり上手くいかない。

その時だった。

「だからこうやるんだって。」

康太が後ろから手を伸ばす。

そして。

ピンバイスを握るアカネの手を、そのまま包み込んだ。

「こうやって真っ直ぐ――。」

「………っ!」

アカネの肩が跳ねる。

だが康太は気付かない。

本当に気付かない。

こいつは昔からそうだ。

距離感というものがない。

普通ならためらうような事も平然とやる。

そして全部終わった後に。


「ほら。」

そう言って笑うのだ。


「な?できたろ。」

満足そうな笑顔。

その顔を見ていると、なんだか文句を言う気も失せてしまう。

「……ありがと。」

小さく礼を言う。

康太は得意げに胸を張った。

正直。

こういう所に狂わされる。


「そういやお前、獅龍凰どんな感じで作るんだ?」

「アタシ?」

アカネは箱絵を見ながら答えた。

「腕直したら、とにかくピッカピカにする。」

「ピッカピカ?」

「そう。このメッキパーツみたいに全身光らせるの。」

「おお!」

康太の目が輝く。

「いいじゃん!」

「でしょ?」

「それなら磨き工程の繰り返しだな。」

アカネは頷いた。

「全部一人でやるの大変だぞ?」

「まぁね。」

「よし、手伝ってやる。」

即答だった。

「いいよ。あんたも自分の作品あるでしょ。」

「MGは元から出来がいいから大丈夫だって。」

「いや、そういう問題じゃ――」

「気にすんなって!」

満面の笑み。

アカネは少しだけ考えて。

そして観念したように肩をすくめた。

「……じゃあ手伝って。」

「おう!」

嬉しそうに返事をする康太。


その顔を見ていると。

少しだけ。

本当に少しだけ。

文化祭が楽しみになった。



次の日も。

また次の日も。

康太はアタシの制作を手伝ってくれた。

獅龍凰は少しずつ完成へ近付いていく。

磨いて。

磨いて。

また磨く。

単調な作業の繰り返し。

それでも不思議と苦じゃなかった。

「やっぱお前、磨きに入るとすげぇよ。」

康太が完成しかけたパーツを持ち上げる。

蛍光灯の光を反射して、表面が綺麗に輝いた。

「艶の出し方が上手い。」

「はいはい。」

適当に返事をする。

でも。

褒められるのは少し嬉しかった。

「なぁ、このくらいでどうだ?」

「んー……。」

アカネはパーツを受け取る。

「もうちょい。」

「マジか。」

「マジ。」

そんなやり取りをしている時間が楽しかった。

だから。

気付かなかった。

「あんたのステイメンは?」

「ん?」

「アタシばっか手伝ってもらうのも悪いし。」

アカネはヤスリを置いた。

「アタシも手伝う。」

「お?」

「ほら。」

手を差し出す。

「ステイメン出しなさいよ。」

康太は少し固まった。

「あー……。」

珍しく視線を逸らす。

「今日は家に置いてきた。」

「は?」

「わりぃわりぃ。」

康太は笑う。

「気持ちだけ受け取っとく!」

「なにしてんのよ。」

アカネは呆れて肩を竦めた。

康太も笑っていた。

アタシも笑っていた。


――この時に気付けばよかった。

あいつが自分の作品を一度も見せようとしなかった理由に。

その笑顔の裏側に。



半月が過ぎた。

獅龍凰の制作は順調だった。

康太のおかげだ。

磨き方も。

合わせ目の消し方も。

塗装の順番も。

困ったら聞けば教えてくれる。

だから作業はどんどん進んでいった。

康太は相変わらずだった。

アタシの制作を手伝う。

美琴が困っていたらそっちへ行く。

文化祭の準備も進める。

初心者教室の資料も作る。

いつも忙しそうだった。

でも。

その頃のアタシはまだ、それを当たり前だと思っていた。

ある日の放課後。

珍しく康太がステイメンの箱を持ってきていた。

アタシは少し嬉しくなる。

やっと自分の作品を進める気になったんだ。

どんな風に作るんだろう。

気になった。

康太の作品を見るのは好きだった。

けれど。

康太は箱を開けなかった。

美琴の所へ行く。

戻ってくる。

今度は文化祭の資料をまとめる。

そのまま西田と何か話している。

気付けば放課後が終わろうとしていた。

「あいつ、何しに持ってきたのよ。」

アタシは小さく呟く。

そして。

康太が席を外した時だった。

少しだけ。

本当に少しだけ見るだけ。

そう思って箱を開ける。

中にはステイメンが入っていた。

いや。

正確には。

まだステイメンですらなかった。


ランナー。

説明書。

未開封のパーツ。


半月前と。

ほとんど変わっていなかった。

アタシは箱の中を見つめる。

何秒も。

何秒も。

言葉が出なかった。

その時初めて。

胸の奥に小さな違和感が生まれた。

これ、いつ作ってるの?



あれからまた半月。

今日も康太は誰かを手伝っていた。

アタシだったり。

美琴だったり。

初心者教室の資料作りだったり。

相変わらず忙しそうだった。

でも最近はステイメンも机に置いてある。

少しずつだが作業は進んでいるように見えた。

半月前、箱を開けた時みたいにランナーのままじゃない。

だから。

アタシは安心していた。


――あの日までは。



文化祭まで一ヶ月を切ったある日。

部活帰り、校門で皆と別れた後、アタシは家へ帰った。

風呂に入ろうとして気付く。

「あ。」

メイクセットを部室に忘れていた。

正直、もう一度学校へ行くのは面倒だった。

でも明日の朝困る。

仕方なく夜の学校へ戻った。

人気のない校舎。

静かなグラウンド。

その先にある模型部のプレハブ小屋だけに灯りがついていた。

「……え?」

思わず足が止まる。

窓から中を覗いた。

そこにいたのは――

「……康太?」

さっき校門で別れたばかりだった。

帰ったと思っていた。

なのに康太は部室に残っていた。

机に向かい、必死にステイメンを削っている。

机の上には栄養ドリンク。

一本や二本じゃない。

何本も並んでいた。

胸がざわつく。

考えてみれば。

部活中に康太がステイメンを触っている所を見ていない。

アタシや美琴を手伝って。

文化祭の準備をして。

初心者教室の資料を作って。

自分の作品を作っている所なんて見た覚えがなかった。

嫌な予感がした。

そして。

その予感はきっと当たっている。

気付けばアタシは勢いよく扉を開けていた。

ガラッ――。

突然の音に康太の肩が大きく跳ねる。

「……っ!アカネ!?」

驚いた顔。

その反応だけで十分だった。

「なんでこんな時間にここに来てんだよ!」

「……こっちのセリフよ。」

アタシは真っ直ぐ康太を見る。

机の上のステイメン。

紙ヤスリ。

栄養ドリンク。

全部そこにあった。

「あんた。」

声が震える。

「いつからこんな事してんの。」

康太は一瞬だけ目を逸らした。

だがすぐにいつもの笑顔を作る。

「ん? なんの事だ?」

「とぼけんなっ!!」

思わず声が大きくなる。

「あんた、まさか毎日帰ってないんじゃないでしょうね!」

「あー……。」

康太は頭を掻いた。

「ちょっと時間足りなくてな。」

その一言で分かった。

嫌な予感は当たっていた。


「アタシたちに構ってるからでしょ!!」

「……。」

「なんでよ!!」

声が震える。

怒りなのか。

悔しさなのか。

自分でも分からなかった。

「なんで大丈夫だなんて嘘ついたのよ!!」

康太は小さく息を吐く。

「俺はやんなきゃなんねー事が山程あんだよ。」

そして机に置かれたステイメンを見る。

「お前らのサポートも、その一つだ。」

「誰がそんな事頼んだ!!」

アタシは叫ぶ。

すると康太も声を強めた。

「俺の為だ。」

その言葉に息を呑む。

「俺自身の守らなきゃいけねぇ約束の為だ。」


約束。

こいつは何かを抱えている。

ずっと。

ずっと前から。

なのにアタシは。

康太と一緒にプラモを作るのが楽しくて。

浮かれて。

頼って。

何も気付かなかった。

アタシは。

本当にバカだ。

「……なんなのよ、その約束。」

康太は黙る。

「言ってよ。」

一歩近付く。

「……お願いだから。」

声が震える。

「じゃないと、何も分からない。」

しばらく沈黙が流れた。

そして。

康太は小さく呟く。

「……お前にはわかんねーよ。」

その一言だった。


アタシは机を叩く。

「わかんないわよ!!」

部室の空気が震える。

康太が顔を上げた。

「だってあんた何も言わないじゃん!!」

怒りなのか。

悔しさなのか。

アカネ自身にも分からなかった。

ただ。

目の前の男が一人で抱え込んでいる事だけが許せなかった。

すると。

康太が立ち上がる。

椅子が大きな音を立てた。

「約束したんだよっ!!」

初めてだった。

康太がこんな声を出したのは。

「俺は!」

拳を握る。

「西田が守ったこの部室を!」

「この模型部を!!」

「これからも続いていく部活にしなきゃなんねぇんだ!!」

アカネは息を呑む。

康太は止まらなかった。

「お前らも守んなきゃいけねぇし!!」

「来年も部員が入る部活にしなきゃいけねぇ!!」

「ずっとだ!!」

「俺達が卒業しても!!」

「ずっと続かせるんだ!!」

その顔を見て。

アカネはようやく気付いた。

怒っているんじゃない。

怯えている。

失う事を恐れている顔だった。

康太は俯く。

握った拳が震えていた。

「そのためなら……俺は……。」

言葉が途切れる。

そして。

絞り出すように言った。

「これは……俺の中の呪いなんだ……。」

アカネの胸が痛んだ。

「お前らに無理はさせられねぇ……。」


康太は目を合わせない。

「……早く帰れよ。」

部室が静かになる。

しばらく誰も何も言わなかった。


やがて。

アカネが口を開く。

「……バカじゃないの。」

康太は反応しない。

「バカじゃないの。バカじゃないの。」

「バカじゃないのっ!!」

アカネが叫んだ。

康太が顔を上げる。

目には涙が浮かんでいた。

「その約束を!!」

アカネも涙目だった。

「なんでアタシたちにも背負わせてくれないのよ!!」

康太は言葉を失う。

「一人で勝手に背負って!」

「勝手に苦しんで!」

「勝手に無理して!」

「そんなの部活じゃないでしょ!!」

康太は何も言えなかった。

アカネは荒い息を整える。

そして背を向けた。

「……もういい。」

「明日、西田に聞く。」

康太が顔を上げる。

「約束の事。」

アカネは振り返らない。

「あんたはもうアタシの事手伝わなくていい。」

鞄を掴む。

そして。

「じゃあね。」

部室の扉が閉まる。

残された康太は動かなかった。

ただ一人。

静かな部室で立ち尽くしていた。


康太と喧嘩した次の日。

アカネは制作を教えてもらうという名目で、西田を空き教室へ呼び出した。

「……西田。」

「ん?」

西田は資料から顔を上げる。

アカネは真っ直ぐ見つめた。

「康太との約束ってなに?」

一瞬。

西田の動きが止まった。

そして小さくため息を吐く。

「木戸に聞け。」

即答だった。

だがアカネは引かなかった。

「聞いたわよ。」

声が少し強くなる。

「でも教えてくれなかった。」

拳を握る。

「帰れって言われた。」

西田は黙る。

アカネは続けた。

「あいつ、最近ずっと無理してる。」

「文化祭の準備も。」

「初心者教室も。」

「自分の作品も。」

「全部一人でやろうとしてる。」

少し俯く。

「アタシたちには何も言わないで。」

「一人で。」

教室へ静寂が落ちた。

やがて西田が呟く。

「……重荷にさせちまったかな。」

その声は、どこか後悔しているように聞こえた。

それから西田は話してくれた。

康太たちとの出会い。

岩崎模型店。

取り壊されそうになった模型部。

夏祭りの夜。

そして。

今もプレハブ小屋が残り続けている理由。

話を聞き終えた時。

アカネはしばらく何も言えなかった。

「今まで……。」

小さく呟く。

「西田が模型部守ってたんだ。」

西田は苦笑する。

「守ったってほどでもねぇよ。」

そして窓の外を見る。

「木戸には悪いことをした。」

「あいつらは約束通り、この高校に来てくれた。」

「それで充分だったんだ。」

少し間を置く。

「約束なんて、ただのきっかけだ。」

「俺は。」

西田は笑った。

「俺達が好きだった場所を守りたかっただけなんだよ。」

そしてアカネへ視線を戻す。

「木戸に伝えといてくれ。」

「もうそんなに抱え込まなくていいってな。」

「後は俺の問題だ。」


アカネはしばらく黙っていた。

それから。

呆れたように笑う。

「……バッカみたい。」

西田が眉をひそめる。

「は?」

「カッコつけてさ。」

アカネは立ち上がった。

「好きだった場所が。」

「なんであんた達だけのものなのよ。」

西田の目が少しだけ見開かれる。

アカネは続けた。

「康太には、その約束ずっと背負わせる。」

「お、おい。」

「でも。」

アカネは笑った。

「アタシ達も背負う。」

その言葉に迷いは無かった。

「アタシ達も模型部なんだから。」

「部員ってそういうもんでしょ。」

しばらく。

誰も何も言わなかった。

西田は呆気に取られたままアカネを見る。


やがて。

小さく吹き出した。

「……フッ。」

そして肩を竦める。

「好きにしろ。」

アカネは満足そうに笑う。

「好きにするわよ。」

そう言い残し、教室を出て行った。


一人残された教室。

西田は閉まった扉を見つめていた。

そして小さく呟く。

「……京子。」

窓から夕日が差し込む。

「今の模型部。」

少しだけ笑う。

「俺達以上かもな。」



それから数日。

康太とアカネは、ほとんど口を利いていなかった。

部室には静かな空気が流れている。

誰もが自分の作業へ集中していた。

美琴はティーガーⅡ。

涼介は零戦。

アカネは獅龍凰。

そして康太は――

相変わらず自分のステイメンよりも、文化祭の準備ばかり進めていた。

展示用パネル。

初心者教室の資料。

配布用の説明書。

部室のレイアウト案。

誰よりも忙しく動いているのに、自分の作品だけはなかなか進まない。

それを見ていたアカネは、何も言わなかった。

いや。

言えなかった。

ある日の放課後。

「材料なくなっちゃったから、みんなで模型店行かない?」

美琴の一言で、四人は岩崎模型店へ向かうことになった。

康太は少しだけ安堵する。

ちょうどいい。

イワサキで解散した後、学校へ戻ろう。

説明パネルも終わってない。

初心者教室の準備もある。

やることはいくらでも残っている。

「よし! 行くか!」

いつものように明るい声を出す。

その瞬間。

アカネの視線を感じた。

だが康太は気付かないふりをした。

岩崎模型店。

それぞれが買い物を済ませ、レジへ並ぶ。

その時だった。

「康太。」

京子が不意に声を掛ける。

「ん?」

「……あんた。」

何か言いかけて、やめた。

そして小さく首を振る。

「いや、なんでもない。」

「?」

康太は首を傾げる。

だが京子はそれ以上何も言わなかった。

店を出る。

夕日が商店街を赤く染めていた。

「じゃあまた明日な!」

康太は手を振る。

「おつかれー。」

「またね。」

三人と別れたあと。

一人だけ反対方向へ歩き出した。

向かう先は学校だった。

まだ終わっていない。

少しでも進めなければならない。

薄暗くなった校庭。

人気のない校舎。

その奥。

模型部のプレハブ小屋だけに明かりが灯っていた。

「……消し忘れか?」

康太は眉をひそめる。

扉を開ける。

そして固まった。

「……っ!」

部室の中には。

涼介。

美琴。

アカネ。

そして西田先生までいた。

「……なんでいるんだよ。」

誰も答えない。

代わりにアカネが顔を上げた。

「部員だからでしょ。」

あまりにも当然のように言う。

「なんでいるんだよ!!」

康太は声を荒げた。

アカネは目を逸らさない。

真っ直ぐ見返しながら、もう一度言う。

「だから。」

「部員だから。」

「お前らは巻き込めねぇって言っただろ!!」

康太の叫びが部室へ響く。

誰も目を逸らさなかった。

「これは俺が西田と京子さんにした約束だ!!」

「俺も約束してるだろ。」

静かに涼介が言う。

「お前は零戦の約束だろ!!」

「……。」

涼介は小さく息を吐く。

そして康太を見た。

「あの場所にいて。」

「それだけな訳ないだろ。」

康太の言葉が止まる。

「……でもっ!!」

康太は美琴とアカネを見る。

「お前らは関係ないだろ!!」

「関係あるよ。」

美琴が言った。

その声は小さい。

だけど、はっきりしていた。

「私も。」

アカネが続く。

「ミコも。」

「西田と約束したから。」

「今日、イワちゃんにも言ってきた。」

康太は言葉を失う。

「まぁ、そういう事だ。」

西田先生が立ち上がる。

そして康太の肩へ手を置いた。

だが。

康太はその手を振り払った。

「そういう事じゃねぇよ!!」

声が震えていた。

「この約束は!!」

「俺の中の呪いなんだよ!!」

部室が静まり返る。

「ずっとだ!!」

「あの日からずっと!!」

「俺は模型部を残さなきゃいけない!!」

「部員を増やさなきゃいけない!!」

「卒業した後も続く部活にしなきゃいけない!!」

「だから――」

康太は俯く。

「お前らに無理はさせられねぇんだよ……。」

しばらく沈黙が続いた。

やがて。

西田先生が口を開く。

「……呪いか。」

少しだけ笑った。

「そうだな。」

「俺も五年間、同じ呪いにかかってた。」

康太が顔を上げる。

西田は続けた。

「この部室は俺が守らなきゃいけない。」

「俺しか守れない。」

「そんな事ばっか考えてた。」

苦笑する。

「悪かったな。」

「同じもん背負わせちまって。」

それでも。

西田は首を横に振った。

「だが。」

「あの約束は取り消さねぇ。」

「俺は一人でこの部室を守った。」

「それは事実だ。」

「男の約束だからな。」

「そこだけは譲れねぇ。」

「だったら!!」

康太が叫ぶ。

西田は静かに答えた。

「木戸。」

「周りを見ろ。」

部室を見渡す。

涼介。

美琴。

アカネ。

全員がそこにいた。

「お前についてきた部員だ。」

「湊も。」

「藍沢も。」

「萩尾も。」

「それに俺もいる。」

西田は康太の頭へ手を置く。

今度は振り払わなかった。


「辛い時は頼れ。」

「神社裏の約束はな。」

少し笑う。

「顧問の俺にも。」

「今いる部員にも。」

「これから入ってくる部員にも。」

「全員にかかった。」


「模型部の呪いだ。」


康太は何も言えなかった。

ただ。

ただ大粒の涙だけが零れ落ちていた。



その日の帰り。

外はすっかり暗くなっていた。

模型部の全員で、初心者教室の準備をしている。

説明書を折る者。

展示パネルを作る者。

キットを仕分ける者。

誰も帰ろうとしなかった。

康太は作業の手を止める。

そして小さく言った。

「……アカネ。」

「ん?」

「ありがとな。」

アカネは一瞬だけ目を丸くした。

そして。

少しだけ笑う。

「心配かけんな。」

「バカ。」



今の模型部は四人。

去年までは部員が一人もいなかったらしい。

それでも。

学校の外れにあるプレハブ小屋は残っていた。

棚に並ぶ完成品も。

古びた工具も。

机に刻まれた傷も。

何年も前の部員たちが残したままーーずっと。

そして、これからも模型部は続いていく。


古びたプレハブ小屋と共に。

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