009)足並み
夕食は紙パックに入ったお弁当が出た。
ラウンジの脇にあるダイニングテーブルで、一緒に食べる信者の中に、宙香の姿は無かった。宙香だけは自分の部屋へ持ち帰っている。
「本来なら。彼女が率先して、皆を牽引してくれなくちゃいけないのにな」
波江野さんはぶすっとしながら、おかずを口へ運んだ。現在のところ、波江野さんが皆をまとめている状況だった。
そうよねと、賛同した詩葉さんの隣りで舘谷さんも黙って頷いている。足並みを揃えようとしない宙香のことを、あまり良く思っていないようだ。
「どうしてですか?」
間の抜けた感じで聞いたのは明日美だった。
「代表の娘だから、当然じゃないか」
波江野さんの答えに、明日美は少し首を傾げて何か言おうとしたが、ま、いいかと言うように口を閉じた。
「ここまで来たら。代表の娘とか、関係無くないですか?」
そう言ったのは在斗だった。反論すると言うより、思い付いたことをそのまま口に出した感じに聞こえた。
「特別な役目を与えられた僕達の中に、リーダーとかまとめ役とか。必要無いですよ」
「しかし、在斗君。あんな風に、皆のやる気を無くすような発言をされたら、困るだろ」
「私もそう思ったわ」
波江野さんに続いて、詩葉さんが口を挟んだ。
「やる気なんて、自分次第でしょ」
在斗は苦笑した。
在斗と詩葉さんの父親は教団の幹部。現幹部の波江野さんを含めた三人は、昔からの知り合いだった。
この三人が集まって話している場面が多いと感じていたけど、そういう背景があるようだ。
「今だって。一人だけ部屋に籠ってるじゃない。勝手だわ」
詩葉さんが口を尖らせる。
「別に」
明日美が我慢できないといった感じで、会話へ割って入った。
「皆で仲良くする必要なんて無いし。それはイイじゃないですか。ねっ、紬生さん?」
明日美に突然話を振られて、私は口へ入れた煮豆を喉につまらせてしまった。軽く咳き込みながら、明日美に同意するというように頷いた。
私だって今後、一人になりたい時は部屋で食べるつもりだった。最初だから、皆に合わせただけ。
「そうですよ」
少しピリついていた空気を全くモノともしない口調で、在斗が続ける。
「皆。気を使わずに、できるだけ自由にやりましょうよ。僕はそうさせてもらいます。でないと、一ヶ月も、気持ちが持たないですよ」
「在斗、いいこと言う!」
茶化すように声を上げたのは明日美。
波江野さんと詩葉さんは、納得していない様子で、口を閉ざした。




