008)嫌われたくない
「春夏秋宙香さん」
改まった感じで、ソラは宙香の名前を呼んだ。
「上世光波教団の教祖も、この儀式を受けました。あなたにもできますよ」
宇咲代表も通った道だと分かり、他の信者達からは感動の声が漏れた。
「『牡牛跳び』は、この時代でも、神に認められるための神聖な儀式です。宙香さんも、神に認められる、そのために、ここへ来たのでしょう?」
ソラの顔は無愛想を通り越して、厳しい表情になっている。
ソラから目を逸らした宙香が、片腕で自分を庇うように抱き締めるのが見えた。
ソラは、宙香のその様子に冷たい視線を投げ、直後に、厳しさの抜けた表情で他の信者達へ向き直った。
その豹変振りは、違和感として私の中に引っ掛かりを覚えたほどだ。
「『牡牛跳び』は、七日毎に行われます。つまり、あなた方には、帰るまでの約一ヶ月の間に、四回チャンスがあります」
タイムトラベルは新月の日に未来から旅立ち、次の新月が昇る前までに、私達が過去を出発すると決められている。
「ただし。安全の保証はありません。毎回、怪我人が出ます」
さすがに不安げな様子で、波江野さんと詩葉さんが顔を見合わせている。
二人の様子を見たソラは、更に表情を和らげて続けた。
「性別や体形に関係無く、誰でも、コツを掴めば跳び越えられます。最初から諦めないでください。私が皆さんを、成功させます。訓練を頑張りましょう」
気が付くと、私もさっきの宙香と同じように、自分の身体を抱えていた。
不安を切り離せないでいる私に気付くと、ソラは大丈夫だと言うように穏やかな笑みを見せた。
明らかに宙香への態度だけ違う。宙香が訓練を否定したことが、そんなに許せないのだろうか。だとしたら、宙香には悪いけど、意義を唱えたのが私じゃなくて良かった。
笑うと別人のように幼く見えるソラの笑顔を見て、心底ほっとしている自分がいた。
だって、信者達は当てにならない。過去のこの世界で頼りになるのは、おそらくソラだけ。仕事だから、ちゃんと私を守ってくれるはず。
無事に未来へ帰るため、ソラに嫌われたくないという気持ちが、もう既に、私の中で芽生えていた。




