007)目的
「皆様は同じ団体の方々なのですね。皆様がここへ来られた目的は理解しました」
ソラは淡々と語った。
宙香は無愛想だと言っていたけれど、私はソラの表情より、顔色のほうが気になった。さっきより、青白く見えるのは気のせいだろうか。
「今日は早めに、お部屋で休んでください。明日は早朝から出掛けます。その後は、儀式に向けて訓練を始めます」
「訓練?」
同じ言葉が、困惑気味に、皆の口から発せられた。
「皆様が参加されるのは、こちらの言い方を直訳しますと『牡牛跳び』という儀式です。名前の通り、牡牛を跳び越えてもらいます」
私は言葉を失った。
クレタ島の遺跡に描かれていた壁画が脳裏に浮かび、自分の顔が青ざめていくのが分かった。
クレタ島で栄えた文明のことは、一通り、出発前に学習してきた。私が見たのは、男性が牛の背中で逆立ちするようにして、牛を跳び越えている場面を描いた絵だった。
あんなこと、できるわけがない。バック転が得意な人がいたとしても、牛を跳び越えながらなんて無理に決まってる。
誰かが抵抗するだろうと予想した。
「どうやって、跳ぶんだ?」
「訓練すれば、跳べるようになるの?」
「牡牛って、跳べるんだ~」
皆の口から出る前向きな言葉に、私は唖然となった。
そう言えば、この人達はタイムトラベル前の『時の扉』と呼ばれる出発ゲートへ入った時も、異様なテンションだった。
私はと言うと、時空を越えることへの不安な気持ちを、いよいよごまかせなくなり、自分でも分かるくらいに顔が痙攣っていた。
そんな私に対して、皆は口々に、大丈夫と言って肩を叩いてきた。神様に選ばれた自分達に、不運なことが起きるわけがないのだからと。
皆の高揚した笑顔は、お面が張り付いているみたいで、どの顔も同じに見えて怖かった。
自分達が神様に守られていて、無敵だと確信した状態。皆の精神は出発した時のまま、その延長線上にある。
冷静な判断のできる人がいないと知り、皆とは逆に、私の精神は追い詰められていった。
自分で異議を唱えるしかないのか。人前で意見を言うのは苦手だ。と言うか、無理。
しかし、そのまま話が進んでしまいそうな勢いに、私は一世一代の決心をして口を開いた。
「ちょっと待って!」
そう叫んだのは宙香だった。
「そんなこと。少し訓練したくらいで、できるわけないじゃない」
皆が一斉に、宙香を不思議そうに眺めた。
ほっとしながらも、私も意外だった。宙香が、私と同じことを考えるなんて。




