084)現世とは違う遠い場所
お互いに、ぎくしゃくした一日が過ぎ去った。
翌日はその空気を修復しようと、葡萄の収穫体験に行ってみたけど、私もソラも作業に集中してしまい、関係は変わらないまま。ソラと二人だけで過ごせる最終日が、そんな状態で終わってしまった。
そして、新月の日。
四十代くらいの男が時の扉から現れた。手には、小型のカメラを持っている。あれにはAIが搭載されているのだろう。
男性はショーノと名乗った。
この人、知ってる。代表が神託を授かった時、アテンダントをしていた人だ。
「何があったの? ソラ君」
緩い話し方だけど、どこかぴりっとした感じがする。
「すみません」
ソラは頭を下げ、宙香の容態を尋ねた。
「まだ意識は戻ってない。で、何があったの?」
「私が二人を……」
「私のせいなんです!」
私は急いでソラの言葉を遮った。
「時の扉が発動した時に、どうしても帰りたくなくなって、時の扉から出てしまったんです」
「ふ~ん」
関心がなさそうに返事をしながらも、嘘は許さないといった感じで、ショーノさんは私の顔から視線を外さなかった。
「ま、いいや。とにかく、大友さんは直ぐに帰国します。準備は出来ていますか」
一刻の猶予も与えない。そんな雰囲気が伝わってくる。
仕方なく、荷物をまとめて来ますと言って、私は部屋へ戻った。
私が出発ゲートの部屋へ戻った頃には、ソラは既にモニタールームへ移動して準備を進めていた。
「大友さんって、ひょっとして。ソラ君の幼なじみの紬生ちゃん?」
何で知ってるんだろう?
「そうです」
「なるほどね」
「ソラから、私のこと聞いてるんですか?」
「昔ね。ソラ君が高校生の時に、卒業後の進路について相談されたんだ。この仕事がしたいと言った彼に、私は、この仕事はある意味、現世とは違う遠い場所へ行かなきゃいけない大変な仕事だから、やめたほうがいいと、言ったんだけどね」
ソラがこの仕事を選んだのは、きっと、いつかクリティネに会いたかったからだろうな。
そんな想いが過り、心がちくりと痛んだ。
「遠くへ行くのは構わないと、全く迷いの無い様子が気になって、事情を聞き出してみたんだ」
ショーノさんによると、ソラは母親が亡くなって施設に入ることになった日、私を訪ねて来たらしい。
「いつも一緒に遊んでいた公園で、ソラ君が大友さんに別れを告げると……」
ショーノさんのその言葉を聞いた時、私の中で不思議なことが起こった。
よく分からない霧のようなもので覆われていた視界が、ぱぁっと開けていく感じがした。
そして突然、今まで思い出せなかったことが嘘のように、子供の頃のソラとの鮮明な記憶が蘇ってきた。




