080)何と伝えればいいか
二十日振りに『T・T・T』へ戻った私。
私の顔を見たソラは一瞬固まっていた。
「……。お帰りなさい」
何と声をかけるべきか、悩んだのかもしれない。
この間、迎えに来てくれたソラを冷たく追い返してしまったから、警戒されている。
私のほうにも、冷たくしてしまった後味の悪さと、クリティネにと渡された花束のわだかまりがあって、上手く笑顔が作れない。
ラウンジへと続く階段を、私はソラを後ろにして駆け下りた。
早く一人になりたかった。
ソラと顔を合わせていられない。きっと、嫉妬の感情が顔に出てしまう。
ラウンジの扉を開けて、私は息を呑んだ。
ラウンジが花で埋め尽くされていた。机という机、台と名の付きそうな物の上全てに、テラコッタ製の器が置かれ、色んな種類の花が活けてある。
「紬生さんと宙香さんに、申し訳ないことをしてしまったので、謝りたくて」
ぼそぼそと低い声で言いながら、ソラが階段を下りてきた。
「どうやって、こんなに……」
「紬生さんのいない間に、町中からかき集めたんです。枯れてしまう前に、帰って来てくれて良かったです」
照れたように少し笑い、ソラは俯いた。
私達を無理やり未来へ戻そうとしたこと、反省してくれてたんだ。
それに……。
だとすると、クリティネに渡した花束は、この演出の余りだった?
「ごめんなさい」
私は口元を両手で覆った。
「どうして、紬生さんが謝るのですか?」
「ソラが迎えに来てくれたのに。追い返してしまった」
私のこともちゃんと考えてくれてた。それなのに、ひねくれてしまっていた。
「私のほうこそ、大変な時だということに気が回らなくて。すみませんでした」
そして、ソラは首を傾げた。
「あの時、紬生さんは私を追い返したんですか? そんな風には受け取りませんでしたが、少なくとも、紬生さんはそのつもりだった……」
やばっ。
「今、やばっと思いましたね」
「いや、あの。違うの……」
「ひどいですね。せっかく迎えに行った私を追い返したなんて。あぁ、傷付きました」
言いながら両目を覆った片手を外し、私と目を合わせてニヤリと笑う。
私をからかうソラ。なんだか、懐かしい。前回ここへ来た時の二人に戻れた気がした。
「あちらはもう、落ち着いたんですか?」
ラウンジのカウンターに腰かけた私へ、ソラがドリンクを用意しながら言った。
伏し目がちなソラの表情には憂いが見えた。
ソラはまだ、クリティネが子供を生んだと思っている。例え子供を生んだ女性であっても、ソラにとってクリティネは忘れられない存在なんだ。
いずれ、真実は明かされる。アリネが民の前に現れるはずだから。
そうなったら、ソラはどうするだろう。巫女王ではなくなったクリティネになら、気持ちを抑える必要は無いって思うのかな。
それは辛い。だけど、ソラの気持ちを応援したいと思う私もいる。矛盾してるけど、ソラには幸せになって欲しい。
「クリティネも、子供も元気だよ」
私は穏やかに答えた。
「その……。心の傷のほうは……」
聞き辛いけど確かめたいといった感じで、ソラが私を見た。
クリティネが代表に、意に添わぬことをされたと、ソラは思っている。
何と伝えればいいのか。
誤解を解くには、クリティネの気持ちをソラに明かすことになる。ソラの気持ちに引導を渡す役目は負いたくない。
それに、アリネのことを触れずに話せる自信も無かった。
こめかみを押さえるようにして、私は考え込んだ。
カウンターの内側にいたソラが、いつの間にかこちら側へ出てきていた。
私の横へ座り、改まって何か言いたそうにしている様子のソラと、私は向き合った。




