077)妹
満月の日。
アリネは女の子の双子を産んだ。
クリティネ達も取り上げたという助産師の老婆によると、安産だったらしい。
私には、生まれたての赤ちゃんを抱く栄誉を与えられた。
びっくりするほど軽くて、ふにゃふにゃ。
何て、柔らかくて、小さくて、可愛いんだろう。
両手をゆっくり動かして、口を歪めたり尖らせたり。目をぎゅっと瞑ったと思ったら、ぼぉっと、空を見つめて、達観しているような表情をする。
親でなくても、この子達の幸せを願わずにいられない。
私とクリティネがそれぞれに、代わる代わる赤ちゃんを抱いて、じんわりとした幸せに包まれていた頃、アリネがすぅっと、眠りに就いた。
そのまま、今日で丸三日、眠ったまま目を覚まさない。
クリティネは案じる必要はないと言っている。クリティネの見立てだから大丈夫だと思うけど、やっぱり心配。
赤ちゃん達はどちらかが泣き出すと、もう一人も同じように泣き始める。
その泣き声のせいかどうかは定かではないけど、クリティネから母乳が出るようになった。そのお陰で、飢えて衰弱するという双子の危機は回避できている。
宮殿の中庭では若い侍女達が舞を踊り、新しい巫女王の誕生を祝っているらしい。さっき、ソラから聞いた。
ソラは大きな花束を抱えてここへやって来て、満月の日が過ぎたから私を迎えに来たと言った。
ソラの顔を見た途端に、抱き締められた時の感触が蘇ってきた。
会えない間、何度も夢想した結果、あれは、妹を心配する兄の行いだという結論に至っていた私。
クリティネと入れ替わっていた時。私を抱き締めてきたソラからは、苦しい想いの詰まった息遣いを感じた。
だけど先日、私を抱き締めたソラからは、私が見付かって、ほっとした感情しか伝わってこなかった。アテンダントという立場上の安堵もあったと思う。
少し期待した自分が恥ずかしい。
妹なんて、遠い。ソラにとっての私は、女性としてなんて遠い存在なんだろう。
クリティネが好きになった相手が、いっそソラだったら良かった。二人が相思相愛なら、きっと諦められたのに。
もしもあの時、クリティネが王子の側近に拐われていたらどうなっていたんだろう。
私はすぐさま心の中で首を振った。
今なら分かる。みぞおちを殴られて、気絶した私を目覚めさせたあの声。あれはアリネだった。あの二人に、もしもは無かったんだ。
嫌だ、嫌だ。振り向いてもらいたいからって、クリティネがいなかった時のことを考えてしまった。
クリティネがいなかったとしても、ソラの愛が私に向けられることなんて無い。
今日だって、どうせ本当は、クリティネの容態が気になって来たんでしょ。その証拠に花束はクリティネに渡してくれと言われた。
ひねくれた考えに支配されてしまった私から、会えて嬉しいという素直な気持ちは一瞬で消え去った。むしろ、ソラに対して腹立たしさのようなものを抱いて、一緒に帰るのを断っていた。
それでなくても、クリティネ達を放っておけないし、私はまだ重大な任務を終えていない。
クリティネの部屋へ戻ると、クリティネは授乳の最中だった。その姿は本当の母親のように見える。
「明日もアリネが目覚めなかったら、ツムギにアリネの意識を迎えに行ってもらう」
「そんなことできるの?」
「黄金のオリーブの実を宿している今のツムギで駄目なら、他の誰にもできない」
上手くいかなかった場合、アリネはこのままずっと眠り続けるのだろうか。そう考えると怖くなってしまうから、考えるのをやめた。
「分かった」
私は力強く答えた。




