表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
72/82

072)誤解

「こちらへ。付いて来なさい」


 寝台を挟んだ壁の向こう側へ消えたクリティネを、私は急いで追った。


 天井に星の描かれた部屋を二つ通り過ぎ、壁に蛇の描かれた階段を下りた。


 潮を含んだ風が波の音を運んでくる。


「ここは離宮の一つ。海の直ぐそばに建っている」


 光の入って来るほうへ、クリティネに誘われるようにして視線を向けた。


 深く澄みきった空の色をそのまま映したような瑠璃色の海原が、柱の向こう側にあった。


 クリティネの横に並び、私は目を細めた。


「ウザクに神託を授けた時、黄金のオリーブの実を持つためには、私を解き放つ必要があると伝えた」


 解き放つ? 巫女王の宿命から?


「クリティネ、それはどういう……」


 巫女王の宿命から解き放つという意味だというのであれば、巫女王であることからの離脱を、クリティネ自ら代表へ唆したことになる。


 巫女王から離脱する方法……。


 巫女王に結婚は許されない。そして、クリティネは子供を産む。


 ソラから聞いた話を繋ぎ合わせると、解き放つ方法は一つしか浮かばない。


「約束の十年後、やって来たウザクは、解き放つという言葉を、巫女王という境遇から、私を引き離すことだと解釈していた。巫女王の立場から物理的に距離を置いて、私を、宿命から解放しようと考えたようだ」


 海へ視線を投げているクリティネの瞳は、水平線よりも、もっとずっと遠くを見ているようだった。


「どうやってか、町の外れに屋敷を手に入れて、私をそこへ匿おうとした」


 事件の起きた屋敷だ。私は緊張した。


「屋敷に行った私は……」


「どうして、屋敷へ行ったの?」


 たまらず、話を遮ってしまった。クリティネには行かない選択肢もあったはず。


「私は……。ウザクになら、全てを委ねてもいい。委ねたいと思っていた」


 !


 予想通りの反応だったのか、私の驚く様を見て、クリティネは少し微笑んだ。


「理屈じゃない。ウザクに助けられた時、この人だと思った」


 代表が神託を待っていた御神体の前で、アテンダントの男が言っていた、巫女王を救ってしまったという言葉。


 そこから察するに、クリティネは何かのピンチで代表に助けられた。その時に代表を好きになった。


「屋敷に着いて、ウザクに真実を話した」


 代表は、クリティネのことを拒否しなかった。


 でもそれで良かったの? クリティネは代表と、心を通わせることができたの?


 瞳で訴えるように、私はクリティネの横顔を見つめた。


「ウザクは……。私の想いを、受け入れてはくれなかった」


「え?」


 クリティネの顔にゆっくりと陰が差した。


「他の何を犠牲にしても、ミチカとミチカの母親は裏切れないと、ウザクは言った」


 聞いていた話の展開と違ってきて、やっぱり私の知らない何かがあったと、妙に納得した。


 だけど、宙香みちかのお母さんのことを、代表がそれほど大切に想っていたというのは意外だった。


 宙香の母親は、私達が中学生の時に亡くなっている。あまり教団にも関わっていなかったから、よく思い出せない。儚げな印象だった。それは覚えがある。


 そして、別の疑問も浮かぶ。ソラとソラのお母さんのことは、代表の中で、裏切れない対象ではなかったの?


「他に想う人がいても構わないと、そう伝えた私に……」


 クリティネがそんな刹那的に考える人だとは思わず、私は更に動揺した。


「消せない後悔があるからと、ウザクは語った。ソラの母親と結婚するために、ミチカの母親のことを裏切ってしまった。もう二度と、あんな後悔をするようなことはしないと誓っている、と」


 宙香の母親と付き合っていたのに、代表はソラの母親と結婚したということ? それを後悔していると?


 何か事情があったのは分かる。だけど、ソラの苦しみを知っているだけに、代表の気持ちをすんなりと受け入れるのは難しかった。


「この国の将来と私自身のために、私の想いをウザクに受け入れてもらいたかった。それが叶わないと知った私は、絶望して泣き崩れた」


「クリティネ……」


「ウザクが私の肩を支えていた所へ、ソラが踏み込んで来た」


 その様子を見て、ソラは誤解したんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ