068)侵入者
「強引な手段でしたが、紬生さん達を未来へ送り返そうとしたこと、謝りません」
「ソラ……」
「結果的に、宙香さんには申し訳ないことにはなりましたが、ここに残っていたとしても、私が宙香さんをどうにかしていたと思います」
「どうにかって……」
「自分を抑えられるか分からない。そのくらい、あの男と関わる人間が許せないんです」
「……私のことも?」
見上げた私を見返すソラの顔には、はっきりと迷いが浮かんでいた。
だけど、私は別だとは言ってくれなかった。問いには答えず、ソラは私から視線を外した。
「あの男は、宗教を広めるという自分の欲望のために、クリティネを利用したんです」
言い切るソラの表情には憎しみが漲っていた。
「宗教を広めるため?」
「あなた方の教団は、神託を広めて大きくなった。クリティネの霊力を利用したのは明らかです」
そうなのだろうか。それが代表の望み?
「ソラは、代表が無理矢理、クリティネに狼藉を働いたと決め付けてるけど……」
私の言葉は、ソラの冷ややかな視線を受けて続けられなくなった。
「それ以外に、何があるんです?」
冷たく固まった瞳と表情。一緒に、いろんな可能性を考えてもらうのは無理みたい。
私の気持ちが沈んだその時、部屋全体が黄色の光で満たされ、同時に警報音が鳴った。
「何……?!」
私は腰を浮かせて警戒した。旅立ちの時は赤色の光だったから、これは違う意味のアラーム。
ソラは急いでガラス窓の所へ行くと、向こう側のモニタールームを覗いた。
旅立つ者達を確認しながら、タイムマシンを起動させる部屋がモニタールーム。
そこに設置されたモニターには、出発ゲートであるこの部屋だけでなく、このホテル全体に設置された、監視カメラの画像が写し出されている。
私もソラの横に並んで、モニターを眺めた。
ほとんどは静止画のように変化のない画像だった。だけど、一階エントランスの画角内で、誰かが踞って微妙に動いているのが見えた。
ちょうど柱の陰になっている。お尻の辺りしか見えなくて、女性か男性かの判断すら難しい。
あの黄色い光は、侵入者を知らせる警告だったのか。
「ちょっと、見て来ます。具合が悪くて、休んでいるのかもしれません」
そう言って、ソラが部屋を出て行った後も、私はモニターを見続けていた。
カメラの画角内へ入っては次の画角内へと、通路を移動して行くソラの姿を目で追った。
この出発ゲートは、ラウンジや個室のあるフロアよりも、更に地下深くにある。
ソラがラウンジを出て、地上への階段を上り始めた時、侵入者に動きがあった。
何かに反応したように、その者は上体を起こした。
その姿を捉えた私に戦慄が走った。その者の肩から上が牛に見える。
あれは、ソラの言っていたミノタウロス。そうとしか思えない。
ミノタウロスはふらりふらりと、おぼつかない足取りで、ソラがもうすぐ開けることになる、隠し扉のほうへと歩き出した。




