067)憤り
少しだけ気持ちの和らいだ私に、ソラへの憤りが芽生えた。元を正せばソラのせいじゃないかと。
だけど、それを口に出す勇気は、やっぱり出ない。
「ヒドイよ、ソラ……」
それだけを言うのがやっとだった。
私は、溜まってくる涙を必死に堪えながら、ソラの肩を拳で叩いた。
自分達を未来へ送り返そうとするからこんなことになったんだ。せっかくまた会えたのに、ソラは私との再会に何も感じなかったのか。
何度も叩いている内に、宙香のことから思考がずれていっていることに気付いても、ソラに恨みの気持ちをぶつける手が止まらなかった。
私はずっと、ずっと会いたかったのに……。
ぶわっと涙が溢れた。
制御の利かなくなった泣き顔を見られたくない。私はソラの首に抱き付くと、わあわあと声を上げて泣いた。
私の背中に、そっと添えられたソラの掌の温もりは、私の心も温めてくれるように思えた。それだけで何もかも許せてしまう。
ずっと会いたかったと、告白しそうになっていた私は、けれども、次のソラの言葉で冷静に戻された。
「紬生さん、また会えて良かった」
二人きりでも、紬生と呼んでくれないのは、私とソラとの間に距離ができた明かしに思えた。
前回の延長線のつもりでソラと接したり、特別な愛着を求めたりするのは、ソラにとっては迷惑。
ソラの態度から、そんなメッセージを受け取ってしまった私は、直ぐにソラから離れた。
「紬生さん自身のことですが……」
「私?」
涙を拭っていた私はぼんやりとソラを見返した。
「今の紬生さんは、過去に取り残されてしまった状態です」
そう言えばそうだ。
「私はどうなるの? 未来へ帰れるの?」
宙香を窮地に追いやっておいて、自分の心配をするのは気が引けるけど、ちゃんと聞いた上で対策を立てないと。
「結論から言うと、帰れます」
私は胸を撫で下ろした。
「紬生さんが旅立ってきた未来の視点で、順を追って説明します。まず、宙香さんが予定より早く帰ってきます。本来なら、次の新月前日頃の帰国予定だったのに、旅立った直後に戻ってきたことになります」
私は頷いた。
「そして、その宙香さんには意識が無い状態です。一緒に帰って来るはずの紬生さんがいないことで、『T・T・T』は事態を把握します」
実は、と言ってソラは立ち上がり、私の横へ腰かけた。
「少し前までなら、過去に取り残された人は、二度と未来へは戻れませんでした」
「そうなの?」
「現在は、AIの発達によって、その危惧は無くなっていますから、安心してください。来た時と同じ人数でなければならないのは、生命体の数が重要だと考えられていましたが、認知の問題だったんです」
ソラの説明が、よく分からなくなってきたけど、私は黙って聞くことにした。
「人間の認知能力をAIが代わりに担うことで、過去に取り残された人間も、未来へ戻ることが可能になりました」
「AIが、未来から来るということ?」
「そうです。『T・T・T』から派遣されたエージェントが、AIを連れてここへやって来ます。こちらからは、AIの代わりに、紬生さんが未来へ戻るんです」
なるほどと、私は頷いた。
「『T・T・T』にしてみれば、一刻も早く事態を収拾させたいはずです。ですから、次の新月には来てくれると思っていて大丈夫です」
約一ヶ月先なら、最初の予定通り。
「紬生さんは、どうしてまた、ここへ来たんですか?」
一瞬、答えに困った。
「えっと。儀式を受ける宙香の付き添いだったの」
「そうでしたか」
ソラは残念そうに俯いた。




