064)ごめんね。
「幽閉?!」
宙香が声を上げた横で、私は息を呑んだ。
「クリティネは巫女としての霊力を失くしたようです。それはこの国にとって、強力なセキュリティと外交手段を、同時に失ったようなものなのです」
「クリティネは無事なの? ひどい扱いを受けてるとか……」
力を宿さなくなった巫女がどんな待遇になるのか、悪いほうにしか考えられない。
私の言葉を聞いたソラの瞳に、ふっと淋しさが過ったのが見えた。
「私も会えていないので、分かりません」
「ソラも? いつから?」
テーブルへ両肘を乗せ、ソラは両手を合わせて口元を隠した。
まただ。気持ちを落ち着かせようとしている。
「九ヶ月ほど前からです」
そう言った後、ごくりと喉を鳴らしてハーブティを飲んだ。
「九ヶ月ほど前、あなた方の教祖がここへ来ました」
「代表が?!」
宙香の反応は、クリティネの幽閉を知った時より大きかった。
宙香は代表から何も聞かされていない。その事のほうが、私には驚きだった。
宙香は驚いた後で、不思議そうに私のほうを見た。
「紬生は知っていたの?」
ソラも、宙香と同じように私のほうへ顔を向けてきた。
「何か聞いているんですか?」
冷静な聞き方だったけど、尋問されているように聞こえた。
「代表がここを、二度訪れたことは聞いてる。だけど、いつ訪れたかまでは知らなかった」
私が知っているのは、二度目に訪れた時に、どうしてか、黄金のオリーブの実を巫女王から託されたということだけ。
でも、黄金のオリーブの実のことは、誰にも知られてはいけないと言われている。
九ヶ月も。クリティネは力を使えない状態が続いてるんだ。
ごめんね、ソラ。ソラがどれほどクリティネのことを心配しているか、分かってるつもり。
だけど、例えソラにだとしても、私は言わない。
意地悪じゃないよ。代表に言われたからでもない。私を助けてくれたクリティネに関わることだから。
「一度目か二度目かはともかく、代表がここへ来た九ヶ月前に、クリティネが幽閉されて、ミノタウロスが現れた。ソラは、代表が何か知ってると思ってるの?」
そう言う宙香から、苛立ちは消えていた。
「でも、私の知る限り、代表は旅行になんて行ってない。代表は何歳くらいだった?」
問われてソラは大きく息を吐いた。感情を圧し殺そうとしているように見える。
「三十代前半だったかと……。恐らくですが」
クリティネがまだ少女だった時代に神託を受けていた代表も、その位の年齢だった。
未来に戻った代表は、ほとんど間を開けずに、二度目のタイムトラベルをした。約束の十年後へ。
その時の代表は、ソラのお母さんと離婚した後だと思う。前回の旅行で、代表が二度ここを訪れたと、私が言った時、ソラは知らない様子だった。
「だったら、教団を立ち上げた頃ね。私が知らなくて当然か。その頃の私はまだ、一緒に暮らしていなかったから」
宙香の言葉を聞いたソラの瞳は重く沈んでいった。




