057)さよならじゃない
クリティネとソラに応急処置を施された舘谷さんの容態は、意識が無い状態で落ち着いていた。
私の時のように、一晩、クリティネが祈祷すれば、回復も叶ったかもしれない。だけど、今夜帰国しなければならない舘谷さんに、それは許されなかった。そうなると、少しでも早く、未来の医療で治療したほうがいい。
私達は予定していた夜を待たずに、舘谷さんの意識が戻り次第、未来へ帰ることになった。
タイムトラベルは、行きは新月のタイミングが一番望ましいが、帰りは次の新月の前までなら、いつでも良い。時空に亀裂を開けるため、行きのほうがシステム上繊細なのだと言う。
ソラとも、もうすぐお別れ。
ソラは私との別れに、一片の淋しさも感じていないという様子で、私達を未来へ帰す手筈をテキパキとこなしている。
そんなソラの、淀み無い姿を横目で見ては、自分勝手な気持ちだという認識はあっても、腹立たしさを募らせていた。
「ねえ、ソラ。ソラは私達と一緒に未来へ戻らないの?」
明日美がソラへ話しかけるのを見た私は、さりげなく二人へ近寄って行った。
「私はまだ従事期間が残っていますからね」
「従事期間って?」
そう言えば、いつまでここに居るのか聞いてない。
「二年間の勤めを言い渡されて、ここへ来ています。まだ半年ですから、一年半ほど残っています。それに、期間が明けたとしても、皆さんと同じ時代へは戻りません」
「そっか。ソラはソラで、やって来た時代へ戻るんだね」
「私は、皆さんのような旅人ではないので、私の期間明けの時代からやって来るアテンダントと、交代で未来へ戻るんです」
「それだったら。自分だけが、周りより歳を取る訳じゃないのか。だったら、いいか」
妙な所を納得して、明日美が去って行った。
ソラの視線を感じて顔を向けると、ソラが私へ笑いかけている。
どきりとした私は持っていた飲み物を落としそうになった。
「紬生さん。確認してもらいたい書類があります。ケガの補償の件なんですが、事務室へ来てもらえないですか?」
そうだった。訓練でケガをした私は保険の申請ができる。ソラと二人になれるチャンス到来。
嬉々とした気持ちを表に出さないように気を付けながら、私はソラについて行った。
「二〇四六年に帰ったら、二十七歳のソラに、会いに行ってもいい?」
部屋へ入った途端、押し込めていた気持ちが溢れ出ていた。
「勿論です。待ってますよ」
私の何もかもを受け入れてくれそうな、優しい笑みで答えてくれた。
愛おしい。
そんな言葉が自然に浮かんだ。
「あの、ソラ。私、私ね」
気持ちを告げる気は無かった。でも、何を話していいか分からない。もう時間が無いと思うと尚更、何も考えられなくなっていた。
結局、喉を締め付けられたみたいになってしまい、その先は言葉を紡ぐことができなかった。
そんな私を見兼ねたのか、ソラが私の顔を覗き込んできた。
「辛い時や、迷った時は……」
目が笑っている。
「ちちんぷいぷい〜」
と、ソラ。
「みゅげみゅげ〜!」
「みゅげみゅげ〜」
私達は声を合わせて言い、目を合わせて微笑み合った。
「紬生……」
ソラがそっと私の名前を呼んだ。
「会えて良かった。今度会う時まで、元気でね」
「うん。ソラも」
これは別れじゃないと思えた。




