052)帰国?
「紬生さん!」
ホテルへ帰り着いた私へ、明日美が抱き付いてきた。
「もう、大丈夫なの?!」
詩葉さん始め、他の皆が驚いた様子で近寄って来た。その後ろに、宙香の姿も見える。
皆の表情が、心配から一転、安心した表情になったのが、ちょっと、いや、かなり嬉しい。皆それぞれに私のことを案じてくれてたんだ。
何故か、宙香以外の皆は、ここへ来た時に着ていた洋服を着ている。
「あの怪我が一晩で治るなんて、やっぱり巫女王の力は、凄いんだな」
波江野さんが興奮している。
「そんなに大怪我だったの?」
ソラにも少し聞いたけど、私に対する皆の注目が大きくて、改めて尋ねた。
「脳ミソ、飛び出てた」
「在斗!」
明日美が怖い顔をして、発言した在斗を睨んだ。
「でも、紬生ちゃん。本当に良かった」
詩葉さんが、労りの視線を私の右側頭部へ当てている。
そんなに酷かったんだ。
改めて、クリティネに感謝した。クリティネの代わりに拐われそうになったくらいでは、この恩は返せないかもしれない。
「皆さん、今日の訓練はどうされますか? 行かれるなら、そろそろ出発したほうが良いですよ」
「明日の儀式に向けて、最終調整しないとな」
ソラの言葉に、波江野さんがいち早く反応した。
「紬生さんは、今日はホテルで休んでいてください」
私はソラに首を振って答えた。
「見学したいから、私も行く」
一人で部屋にいたら、ソラのことばかり考えてネガティブに向かっていきそう。
それに、今日訓練場に行かなかったら、この先、訓練場へ行くのが怖くなってしまうように思った。
身支度を整えるため、私も含め、皆、一旦部屋へ戻った。
後で聞いたところによると、私の怪我の具合次第では、緊急に、未来へ帰ることになるということだったらしい。
皆が現代の服を着ていたのは、帰国することになるだろうと思っていたからだった。
「昨日、訓練場にいた王子ね。紬生ちゃんの事故を見て、怖くなっちゃったみたいで、あの直ぐ後に、訓練場から出て行っちゃったのよ」
訓練場までの道のりで、詩葉さんが教えてくれた。
「今日はもう来ないと思うわ」
そう言えば、王子はどうなったんだろう。巫女王と言うか、私に狼藉を働いたことへのお咎めはあったんだろうか。
ソラを振り返ると、ソラは無言で頷いた。
「王子は昨夜の内に帰国したようです。側近の者も、一人残らず帰ったと聞いています」
側近の者も。
処罰されなかったみたい。現代の外交官特権のようなものが、ここにもあるんだろうか。
パロス島の王子が、再び善からぬことを考えないよう祈るしかない。そんなことしか、出来ることが無くて歯痒くなる。
「牡牛跳びに参加しないと、婚約は進まないんでしょ。良かった〜」
明日美が解放感に満たされた声を上げた。
そっか。だから、昨夜王子は強硬手段に出たのか。




