005) 異質なモノ 2
「特別な儀式とは何ですか?」
しゃしゃり出るようにして言ったママへ、代表はゆっくりと和らいだ顔を向けた。
「神託が降りました」
そして私へ向き直り、少し微笑んだ。
「タウラスに導かれるべき魂として、選ばれし者」
代表は信者達を、タウラスに導かれし者と呼ぶ。
タウラスとは牡牛座のことだと、物心ついた頃に聞いた。何で牡牛座に導かれるのかと、重ねてママに尋ねても、ママからは明確な答えは聞けなかった。
「あなたにお役目が与えられました」
代表の言葉を聞いて、私は息を呑んだ。
何か今、凄いことを言われた。
頭で理解する前に心が反応して、心臓が、代表にまで聞こえてしまいそうなほどの音を奏でていた。
この世の中の誰も彼もが、私のことを軽んじている。自分には何の価値も無い。そんな風に思って生きてきた。
私にお役目? 私は必要とされてるの?
「あなたには、御神体が存在する場所、紀元前のクレタ島へ行ってもらいます」
「え?」
私は紀元前という言葉を聞き逃さなかった。
「驚くのも無理はありません。人類は何十年も前にタイムマシンを発明しています。だけど、公にはあまり知られていないことですから」
跳ね上がっていた意識が、急速に冷静になっていった。
私はママや他の信者のように、代表の言葉を鵜呑みにしない。
代表に対して、信頼を寄せていない訳では無いと思う。ただ、代表の言葉や信仰心よりも、物事に対する恐怖のほうが勝ってしまうのだ。
「既に私も、二回タイムトラベルをして、御神体へ祈りを捧げています」
私の警戒が伝わったのか、代表ははっきりとしたにこやかな笑みを見せた。
「何を隠そう、この教団を立ち上げることになったのは、紀元前のクレタ島で、神託を授かったからなんですよ」
「そんなこと、初めてお聞きしました」
ママが膝を進めて、詰め寄るように言った。
教団開教当初からの、古参信者のプライドを刺激されたのが分かりやすくて、呆れるより悲しくなった。
そんなことより、少しは娘の心配をしてよ。
ママの態度に憤っている内に、気が付くと、代表が歩み寄って来ていた。そして、呆気に取られている私の前に片膝を立てて座り込んだ。
「私の人生には、必要な時に、必要なモノが与えられるようになっています。今回もそう。今回の儀式には、紬生さんが必要だから、あなたは私の前にいる」
代表は秘密を打ち明ける子供のように目尻を上げた。
こんな近くで代表を見たのは初めてだ。四十代の代表を異性として意識したことはないけれど、可愛いと思った。
私の瞳を覗き込んでいた代表が、ふと真顔になった。
「紬生さんは知るために、旅立たなければなりません」
「知る?」
「紬生さんが過去へ行く目的は、知るため。知ることで、あなたの未来は開かれます。旅立ちなさい」
掠れた声でやっと聞き返した私へ、代表は高らかに宣言した。




