004)異質なモノ 1
上世光波教団のエントランスホールで、丸い天窓を見上げていたあの日。
あの後、私はママに付き従い、階段を上った先の至聖所を訪れた。
至聖所はバスケットボールのコートが二面入るくらいの広さのホールで、正面の壁一面に御神体がある。
樹齢三千年と言われるオリーブの樹、そして、オリーブの幹に絡め付かれている大岩。その二つが一体化したもの。教団が御神体としているのは、大きな岩を擁するオリーブの樹とも言えるし、オリーブの樹を冠する大岩とも言える。
御神体自ら、岩と樹という異質なモノ同士が共存し、調和する姿を表しているのだと、説明を受けてきた。
と言っても、実物の御神体を実際には見たことが無い。
私達が御神体と呼んでいるのは、精密に描かれた絵なのだ。一見、写真かと見間違う。御神体が納められた額縁の大きさは縦七メートル、横幅は八メートルほど。オリーブの樹は額縁いっぱいに枝を張っている。
描かれたモノでも、オリーブの樹と大岩、どちらも等しく圧倒的な存在感を放っていて、その荘厳な御姿には畏怖の念を抱かずにいられない。
ママによると、信者の中にも実物を見た者は一人もいないらしい。御神体がどこにあるのかも知らされていなかった。
至聖所には私とママの他に誰もいない。こんなことは珍しい。
御神体に向かい、ママの横で膝を付いてお祈りを始めた。
教団で決められた感謝の言の葉の後に続く、私の祈りはいつも同じ。私をママから自由にしてください。
脇の扉が重々しい音を立てて開き、宇咲代表が姿を見せた。
「お待たせしました」
御神体の右下辺りに立った代表が言った。この部屋では、代表の立ち位置は常にあの場所だ。
「いえ。ついさっき着いたばかりです」
ママがすらすらと答えた。
そのやり取りで、今日訪れたのは代表に会うためだったと、初めて知った。
代表の周りには、常に品の良い雰囲気が漂っている。落ち着いた仕草と穏やかな眼差し。
それでも私は、代表が苦手だった。その瞳で、自分がいかに小さい人間だということを、見透かされているような気がするからかもしれない。
ママが言うこと一つ一つに納得していないのに、何一つ逆らうことが出来ないでいる。素直だからじゃない。従順でもない。私なんて、ただ臆病が皮を被って人を装っているだけ。
「大友紬生さん。あなたに来てもらったのは、お願いしたいことがあるからです」
え? ママじゃなくて私?
咄嗟に顔の筋肉が硬直した。
教団内では特に、私はママのオマケでしかないと思っていたから無防備だった。
「紬生に、ですか?」
口を開いたママが、疎ましそうに視線を投げてくる。
ママの声が聞こえていないかのように、宇咲代表は真っ直ぐに私を見続けていた。
「あなたには、特別な儀式へ参加してもらいます」
代表の言葉が至聖所内に反響した。




