049)治癒
紀元前一八二八年 クレタ島、十四日目。
眩しくて目が覚めた。
最初に視界に入ってきたのは、項垂れて座っているソラの姿だった。私の右脇で、目は開いているけど、どこも見ていないような瞳をしている。
私は黒目だけを動かして部屋の壁を確認した。
イルカに猿。猫? 虎かな? それに不思議な色の鳥……。
ここは最初に寝かされていた部屋だ。
「紬生さん!」
目覚めた私に気付いたソラが、ぱっと、頭を上げた。
自分の名前を呼ばれただけで、ほっとする。だけど、ソラの顔を見るのは苦しい。
「良かった!」
深いため息を吐いてから、ソラは両手を合わせるようにして鼻と口を覆い、目蓋を閉じた。
目の下に疲れが浮かんでいる。愛とか恋とかでなくても、私のこと、心配してくれてたんだ。
ソラはもう一度深い息を吐いて、両手を戻すと、口元に笑みを作ってから、私の顔を覗き込んできた。
「気分はいかがですか? どこか痛むところとか、気持ちが悪いところは無いですか?」
「だい……、大丈夫」
声が掠れる。優しくされると余計に辛い。
「起き上がれますか? 傷の具合を確認したいのですが」
私はすんなり上半身を起こした。もたもたしていたら、ソラが手を貸して抱き起こそうとするかもしれないと思った。
ソラに触れられるのが怖い。抱き締められた時のことを思い出してしまいそう。
ソラは慎重に私の頭の包帯をほどいていった。
「本当だ……」
ソラは私の側頭部を眺めて、呆然としている。
「ど、どうしたの?」
「いえ。紬生さんの怪我は、もう治ったと、巫女王がおっしゃっていたらしいんですが、私には信じられなくて。ですが、本当にすっかり治っています」
「私の怪我はひどかったの?」
ソラは神妙な顔で頷いた。
「あんなにぱっくりと開いていた傷が、もう綺麗に塞がっています」
私は恐る恐る右手を耳の上へ持っていった。頭頂部へ向かって、斜めにかさぶたが走っているけれど、湿った感じはしない。
入れ替わっている間に、クリティネが治療してくれたんだと、自然に考えが及ぶ。
ソラが咳払いをした。
「紬生さんが目を覚ましたら、来て欲しいと、巫女王がおっしゃっているようですが、行けそうですか」
ソラの視線が下を向いている。クリティネの話題をするのは、ソラにとっても辛いはず。
でも、会わなきゃ。代表とのこと、ちゃんと聞きたい。何で、私をあの場所へ連れて行ったのか。
でも……。
「ソラも一緒に?」
ソラの前では聞きにくい。
「部屋まではご案内します。ですが、巫女王とは、紬生さん一人で会ってもらえますか」
「うん。それでいい」
私はクリティネの待つ部屋へ向かった。




