048)余韻
ソラの胸の中に、すっぽりと私の頭が収まっている。
「何かあったら、いつでも呼んでください。あなたを誰にも触れさせない。あなたのことは、私が、命をかけて守りますから」
息が止まりそうになった。
ソラはクリティネのことが好き。
違う。これは好きなんて、生易しい感情じゃない。
思い返せば、私達が巫女王と最初に対面した時、ソラがクリティネに向ける眼差しには特別なものを感じた。
考えないようにしていただけで、私はちゃんと覚えている。
こんな情熱的なことを言える人だったんだ。私に向けられた言葉だったら、どれほど舞い上がったか知れない。
「私に助けを求めてくださり、嬉しかった」
私を抱き締める腕に、一層力が入る。
ソラの心臓の鼓動が、聞いてはいけない音にしか思えない。
私は涙を拭い、身をよじるようにしてソラから身体を離した。動揺を隠そうとしても、震えてしまう。
「もう、下がりなさい。無礼……、無礼ですよ」
威厳を持たせようとしても、声は小さくなった。
「無礼は承知です。こんなに震えているあなたを、一人にするなんてできません」
私は更にソラから距離を取った。
「侍女が来ます」
ソラは一つ息を吐いて、ゆっくりと床へ戻った。
「失礼しました。情けをかけてくださるなら、今のことは、どうか忘れてください」
言葉に強張りが窺える。必死に冷静さを保とうとしてるソラを見るのが辛い。
「ですが、あなたをお守りするという気持ちは、あなたが忘れようと、この先も変わりません」
早口で言って、ソラは部屋を出て行った。
その後は何も考えられなくなった。寝台に上半身を起こしたままで、呆然と渦巻き模様を眺める時間が、ただ過ぎて行く。
いつの間にか、侍女が入ってきていて、ソラと賊の格闘中に荒らされた部屋を片付けていた。
寝台の脇には水の入ったコップが置いてある。
「大事にならず、幸いでした。巫女王をお守りすることができず、申し訳ありません。私もあの男に襲われて、さっきまで、庭で気を失っていたんです」
身体を横たえた私の身動きに気付いて、侍女が声をかけてきた。
クリティネならこんな時、侍女へ労いの言葉をかけるんだろうか。
「ごめんなさい。一人にして」
侍女に背を向けて言った。
偽者に、巫女王の真似をするのは無理みたい。
ソラに抱き締められた感覚が残っている。私に向けられた気持ちじゃないのに、余韻だけが残っているのは残酷過ぎた。
ソラが賊を殴っていた時の横顔が、ふとよぎる。私のためだったら、ソラはあんな差し迫った表情はしない。きっと。絶対。
虚しくて、胸を掻きむしりたい気分だった。
私は声を上げずに泣き続けた。




