047)気付いて……
叫び声を上げた私の口は、直ぐに大きな手の平で塞がれてしまった。私は首を振り、なりふり構わず、男の指に噛みついた。
「あっ」
男がたじろいだ。
「ソラ! 助けて!」
さっきもそうだったけど、私にこんな大きな声が出せる肺活量は無い。
きっと、いつも祝詞を唱えているクリティネの身体だから成せる技なんだ。
しんと静まり返った建物の隅々まで、張り上げた声が駆け抜けて行くのが分かる。
私は縛られた両手足で、寝台の隅まで逃げた。
男も必死に、猿ぐつわを噛ませようと迫ってくる。
「いや! あっちへ行け! ソラ! ソラ! 助け……」
押し付けられた布が口の中へ入ってきた。
もう駄目だ、そう思った時、男が横飛びで吹っ飛んでいった。
そちらへ目を向けると、床に倒れた男にソラが馬乗りになっていた。
ソラ! 来てくれたんだ! 助かった!
入口付近には、ソラに伴って来たと思われる男もいる。その男がかざしている松明のようなもののお陰で、二人の格闘がよく見えた。
男に何度も殴りかかっているソラの横顔は、私の知ってるソラとは別人のように荒々しい。逃れようとする男の背中へ掴みかかり、引き戻しては、また殴る。
賊の男は、やっとのようにソラの下から抜け出すと、松明の男を突き飛ばすようにして、部屋を出て行った。
「君は、あいつを追ってください」
ソラは松明の男へ叫び、男が走り出て行くと、私のほうを振り返った。
「もう、大丈夫ですよ」
その声は私をほっとさせる、穏やかないつものソラのものだった。
ソラは私の手足の拘束を解いた後で、さっと片膝をついて腰を下ろした。
「お怪我はありませんでしたか?」
ソラが使った言葉は日本語じゃなかった。
ソラ! ソラ、私なの。気付いて。
顔を上げようとしないソラの姿を見ていたら泣けてきた。心配して欲しいのは紬生である私自身なのにと、淋しくなった。
「ソラ……」
はっとしたように、ソラが顔を上げた。私の涙声に気が付いたみたい。
「助けてくれて、ありがとう」
私の言葉も日本語になっていなかった。それだけを言うのがやっとで、涙が止まらない。
クリティネと入れ替わっていることも伝えたいのに。
「ソラ……」
私はソラに近付こうとした。ソラの体温を感じて安心したい。
私の気持ちが通じたのか、ソラがふらりと立ち上がった。そして、近付いて来るそのままの勢いで、私を抱き締めた。




