046)見え透いた嘘?
横になった状態で、はっとしたように目が覚めた。
私、どうなった?
クリティネに導かれて、若い代表が神託を授かった場面の時空へ飛んだ。
代表は十年後にまた来るとおっしゃっていて……。
代表から引き離された後、暗い場所で色々と考えて、その後、どこか別の場所で、誰かと話していたような気がする。
大切な事だったような……。
思い出そうとすると頭の奥が軋むように痛む。
頭に手をやり、包帯が巻かれていないことに気が付いた。
どういうこと? ここはどこ?
さっきまで寝かされていた部屋の壁に描かれていたイルカが、渦巻き模様に変わっている。模様が書き換えられたとは思えないから、私が移動したんだ。
部屋は薄暗いまま。時間の感覚が分からない。
私はゆっくりと、上半身を起こした。
枕元に何かある。数枚の木板と十個ほどの貝殻が結び付けられた物だった。拾い上げると、揺れた貝殻が木の板に触れて、思いのほかしっかりとした音が鳴った。
「ご用でしょうか?」
直ぐに、少し離れた場所から声が掛かった。それは女性の声で、部屋の入口に垂らされた布の向こう側から聞こえた。
日本語じゃない。多分、クレタ島の言語。それなのに、意味が分かる。
「あ……」
声を出そうとしたけど、上手く発音できなかった。咳払いしてみる。
「水をお持ちします」
同じ女性の声がそう言って、立ち去る気配がした。
何なの? なんだか、大事にされてる。私の容態は、そんなに悪いの?
私は寝台から下りて辺りを見回した。
部屋はすごく広い。さっきの部屋には家具の類いは何もなかった。この部屋にはたくさんの調度品が設えられている。
暗い部屋の中でも輝きを放っているのは、その調度品の一つ一つに施された、色とりどりの宝石や、金細工の装飾だった。
ここはクリティネの部屋なんじゃないかな。
そう思い至った時だった。
部屋の入口の布が動いて、大柄な男がのっそりと入って来た。
え? 誰? 何?
「巫女王だな」
男は私の顔を見てそう言い、つかつかと歩み寄って来る。
「違う、違います」
男の勢いに圧されるように、私の口から漏れた言葉はクレタ島の言語だった。
どうなってるの?
「寝てるかと、思ってたのに」
ちっという舌打ちが聞こえた。
「手荒な真似はしたくなかったが、仕方がない。王子の命令なんでね」
男がそう言い終えた時、私はみぞおちに衝撃を受けていた。
うっと、呻いて前屈みになった。あまりの痛さに、意識が遠退く。
王子? 王子の命令? 王子って、パロス島の王子?
私はクリティネじゃない。なのに、なんで……。
そんなことが一瞬の内に頭を駆け巡り、気を失った。
『クリティネ! 目覚めなさい!』
私はかっと、目を見開いた。意識を戻した私は寝台に寝かされていて、足首を束ねて縛り終えた男と目が合った。手は既に縛られている。
「私はクリティネじゃない! 人違いだわ!」
ふっと吹き出すように、男は笑った。
「助かりたいからって、そんな見え透いた嘘を。これでも俺は、王子の側近だ。あなたの顔は何度も見たことがある。間違えないよ」
男の言葉で、脳裏に戦慄が走った。
もしかして! 私とクリティネが入れ替わってる!?
そう考えると、色々なことがしっくりとくる。
「ソラ! ソラ、助けて!」
私は咄嗟に声を張り上げ、いるかどうかも分からないソラを呼んだ。




