044)眩しい
光に注目していると、辺りが真っ白な空間に変わった。真っ白になっただけで、周りに何もないのはさっきまでと同じ。
ふいに、囁き声がした。小さくてあまり聞き取れない。年齢も性別も様々な声が入り交じっているから、囁いているのは一人じゃないのは分かる。
『……なのね』
『私の代さえ……』
『……これはあなた達のため』
段々と耳が慣れてきた。
『このままでは、途絶えて……』
『…放たれるの』
『解き放たれるの』
最後の言葉ははっきりと聞こえた。
不思議だった。この時代の、クレタ島の言語と思われる音なのに理解できる。声と声が重なっているから、断片的ではあるけれど。
どこからかクリティネが現れた。私がタイムトラベルしてきた時代のクリティネだと思う。
儀式用に化粧の施されていない素顔は、涼やかで美しかった。さっきのあの少女が成長と共に、落ち着きと聡明さを宿していった姿が、目の前のクリティネなんだ。
「ツムギ。この間より、強くなった。私には分かる」
クリティネにそう言ってもらえると嬉しい。
どうして、クリティネは日本語が話せるの?
「ソラに教えてもらってる」
ソラに……。
ソラとクリティネには私の知らない時間がある。そう思ったら、胸がきゅっと痛んだ。
「ツムギ。ソラのこと」
違うよ。違うから。
ムキになった私を、クリティネが少しだけ笑った。でもすぐに笑みは消えた。
「ツムギには謝らなければならない」
謝る? 何を?
「ソラのこと。ツムギの記憶を封印したのは私」
叫びそうなくらいに、私は驚いた。
いくら思い出そうとしても、幼い頃のソラの顔が浮かばなかったのは、記憶が封じられていたからだったんだ!
「あの時は、ただソラを守りたかった」
どういうこと? あの時って?
問いかけた私から、クリティネは伏し目がちになって顔を逸らした。私の問いに、答える気がないサインに見える。
「私は、一生を神に捧げると決められて生まれてきた。使命を全うするのが、私にとっての幸せ」
幸せを語っているのに、全然幸せそうに見えない。
「ある日、私の代で巫女の血筋が途絶えると気付いた。私は自分の宿命に殉じることと、この国の将来との狭間で揺れた」
巫女家系のクリティネの兄弟姉妹が皆亡くなっていると、ソラが言っていたのを思い出す。
「誰に何を言われようと、それは、私自身が決めること。国王や、周りの思惑に左右されてはいけない」
周りの思惑?
「このまま途絶えるくらいなら、私に、次代の巫女王を産んでもらったほうがいいと考える派閥が、王族の中にも存在してる」
そんな! クリティネはどう思ってるの? 国王はクリティネの気持ちを聞いてくれないの?
「現国王は私の叔父。叔父は自分の代さえ、平安に過ぎ去ればいいと考えている」
クリティネの顔にほんの少しだけ、怒りのようなものが浮かんだ。
「私の結婚に反対するのは、浅ましさゆえ。そんな者に、私の行く末を任せたくない」
気高い。周りの思惑の渦に流されず、自分の意思で決断すると決めている。
そんなクリティネが、私には眩しく見えた。




