043)神託
十一、二歳くらいに見える幼い容姿。足元まで隠れるほどの白い布を纏い、緩やかに波打つ黒髪が膝の辺りまで達している。
女の子の口から重々しく声が発せられた。
「神託を降ろす」
アテンダントの通訳を聞き、代表は神妙な顔で俯いた。
強い風が中庭を通り過ぎて行く。その間、時が止まったように誰も動かなかった。
堂々とした立ち姿のまま、唄うように言葉を紡ぎ始めた少女。
誰かに似ている。
眼の形や口角の動きにクリティネの面影を見付けて、ここは、クリティネの子供時代の時間軸なのだと納得した。
『調和を広げる者よ。黄金のオリーブの実を持つ者よ。望みを叶えよ』
クリティネの瞳は、この世でないどこかを見ているよう。
「黄金のオリーブの実とは、何だ?」
代表の呟きに、アテンダントの男が耳打ちした。
「手に入れれば、何でも望みを叶えてくれる、そう言われている果実です。誰も見たことはありません。おとぎ話の類いです」
代表はしばらく考えていた。
「どうすれば私は、黄金のオリーブの実を持つことができるのでしょうか」
クリティネに向けられた問いは、アテンダントの口から伝えられた。
『時は満ちておらぬ』
「時が満ちるのは、いつでしょうか?」
『十年の後。もう一度、訪れよ』
「では。調和を広げる者とは、私のことですか?」
『目の前にある調和した姿を見よ』
「目の前? この大岩とオリーブの樹のことか?」
半信半疑の様子で、代表は御神体を眺めた。
これは、代表がおっしゃっていた、代表が神託を授かったという場面だと思う。代表はこの神託を受けて、後世で教団を立ち上げることを決めた。
「分かりました。十年後、必ず、ここへ参ります」
その声は、目の前の代表から遠ざかっていくように聞こえた。
代表の決意が秘められた横顔が、パソコン画面のバグのようにざらざらしたもので傷付いていく。直後、物凄い勢いで、私はその場から引き離されていった。
気が付くと、周りは暗く、何も無い場所へ戻されていた。自分の思考だけが、大きく響いてくる。
十年後とは、いつのことだろう。代表の時代の十年後か、クリティネの時代の十年後か。
現代での代表は、既に御神体の場所へ二回訪れたと言っていた。ではクリティネの時間軸ではいつなのだろう。
中庭で、最初にクリティネと対面した時を思い浮かべてみる。
『誰かを探してるみたいだった』
クリティネと目が合ったという明日美が、そんなことを言っていた。
もしかしたら、クリティネは代表を探していたのでは? もし、まだ代表が訪れていないとしたら、クリティネは代表が来るのを楽しみにしているってこと?
代表が神託を授かっている場面を、私に見せたのはクリティネだと思う。何か意味があるはず。
それにしても、ここはどこ? 私は自分の身体へ戻れるの?
ずっとこのままだったらと、段々、不安になってきた時、光が見えた。




