039)吐露 2
こうして、宙香の様子に気を配っているソラに胸が痛む。
私達がここへ到着した時、自分のことを兄と呼んでくれていた私が、父親の興した宗教団体の信者になっていることに驚き、更に、母親を苦しめた存在が来たことにも衝撃を受けたと、ソラは明かしてくれた。
私達の情報を確認した後、ソラの顔が青ざめているように見えたのは、気のせいじゃなかった。
宙香に優しくなんてできない。
ソラの気持ちは分かる。
だけど、ソラが私に対して見せる優しさは兄そのもの。何か一つでも順番が違っていたら、きっと、宙香に対しても、優しいソラが存在したんじゃないかと思う。
本当に仕事上、仕方なく気遣っているだけなのだろうか。
迷惑かもしれないけど、義妹を心配する気持ちが、心のどこかに潜んでいてくれることを願ってしまう。
私は立ち上がって笑顔を作った。
「いつも通り。毎日何キロも、海岸線を走ったり、散歩しているみたい。私が着く頃には、木の根元で瞑想してる」
明るい声を出しながら、自分が浮かない顔になっているのが分かる。
会いに行っても、私が一方的にしゃべるか、二人とも無言で海を眺めるだけで、時間が過ぎて行く。
「他の皆は、宙香さんと距離を置いているようですが、紬生さんは宙香さんに構うんですね」
声が暗い。だけど、不快に思って聞いているようには見えない。どうして皆のように、私が宙香を放っておかないのか、純粋に不思議なようだ。
「私と宙香は中学が一緒で、同じグループの仲間だったの」
意外だったようで、ソラは片方の眉毛を上げた。
「宙香は気が強いし、支配的だし。今思い返しても、大変な三年間だった。だけど、宙香がいたから楽しく過ごせたのも事実。皆と一緒に笑ったり、イタズラしたり」
背中の、太い木の幹にもたれて、私は空を眺めた。
「宙香はね。仲間を見棄てることは、絶対になかった。私達は、ずっと守られてた」
「感謝してるってことですか?」
「そんな美しい話だったら良かった」
私は下を向くようにして、地面へ視線を落とした。
「高校の時、私は宙香を裏切ってしまったから」
ソラはゆっくりと隣りに来て、私と同じように幹に身体を預けた。
「では、贖罪のつもりですか?」
力なく首を振った私。
「今さら何をしたって、罪滅ぼしにはならない。それに、贖罪の気持ちで接しても、宙香は嬉しくないと分かってるんだけど。宙香を一人にしておくのが苦しくて。また同じことをしてしまう自分が、許せないから」
ソラは黙ったまま、私から目を逸らしていた。
自分が楽になるためだという告白を聞いて、がっかりさせた。宙香に寄り添おうとする私に、共感もできないのかもしれない。
「宙香の気の強さは、淋しさの裏返しだと思う。宙香に、もう来ないでって言われるまで、会いに行くつもり」
そんな私を、ソラは肯定も否定もしなかったけど、去って行く後ろ姿が切なそうに見えて、いつまでも心に残った。




