038)吐露 1
紀元前一八二八年 クレタ島、十二日目。
「宙香さんの様子はどうですか?」
水呑場近くの木陰で座り込み、一人休んでいた私の所へ、ソラが近付いて来た。宙香の話題だからか、顔が少し緊張しているのが分かる。
儀式の日以来、宙香の所へ通うようになって、ソラと二人で話す機会が無くなった。ちゃんと会話するのは、三日振りになる。
迎えに来なくていいと言われ、訓練にも参加しない宙香の様子を、ソラが知るのは難しい。
ホテルでの宙香は信者達と顔を合わせないようにか、前にも増して、部屋に閉じ籠っているし。
在斗が儀式を成功させたあの日、宙香と別れ、ソラと二人でホテルまで歩いた。
「あの。ソラはどうして宙香に冷たいの?」
宙香からの伝言を聞いたソラが、冷めた表情で分かりましたと答えたのを見て、聞かずにいられなくなった。
「そんな風に見えますか?」
私が頷くと、ソラは全ての感情を無理に圧し殺したような表情をした。
「今日の質問は、それでいいですか?」
「じゃあ、答えてくれるの?」
「約束ですからね。それに……」
伏し目がちになったソラの顔に、疲れが浮かんだ。
「私もそろそろ、一人で抱えるのが辛くなってきました」
頼ってもいいですかと、問いかけられているように感じた。
もちろん、いいに決まってる。
「私の母は、彼女のせいで亡くなりました」
想像もしていなかった答えに、私は息を呑んだ。
「どういうことなの?」
「質問は一つと、言いたいところですが、繰り上げで答えましょう。ですが、他言無用でお願いします。宙香さんにもですよ」
宙香本人も知らないことらしい。
もし誰かに話したら、紬生さんのことを私は一生許しませんと、ソラは怖い顔でそこまで言った。
「私と宙香さんは母親違いの兄妹なんです」
「は?」
今思えば、なんて間抜けな反応だっただろう。
「え? てことは、代表はソラのお父さん?!」
「そうです」
「え……、え?」
「紬生さんの信仰する教団の教祖は、私と私の母を捨てて、宙香さんの母親と再婚したんです」
紬生さんの信仰する教団の教祖。父親のことなのに、何て、遠い言い方をするんだろう。
「離婚の前後から、母は心を病んでいきました。亡くなったのは、離婚してすぐ。私が中学生の時です」
「亡くなったのは……」
どうしてと聞けなかった私に、ソラは遠くを見つめたままぽつりと言った。
「手首を……」
その後の言葉を飲み込むと、私の顔へ焦点を当てた。
「母の死後、養護施設へ入ることになりました。紬生さんと、最後に会ったのもその頃です」
「待って。最後に会ったのは、私が小学校へ上がる前だったって、この間言っていなかった?」
「紬生さんと私は、旅立って来た時代が違います。ここでは同い年でも、紬生さんが来た未来の二○四六年には、二十八を迎えようとしている私がいるはずです」
「つまり、ソラと私は七歳違うってこと?」
「そうです」
あれ? 宙香は私と同い年。
と言うことは、代表はソラのお母さんと結婚していながら、宙香のお母さんとの間に、彼女を授かっていたことになる。
「宙香さんに罪はありません。それは分かっています。ですが、簡単に割り切れるものでもありません」
そう言ったソラの暗い瞳が、目の奥に焼き付いている。
できることなら、ソラを抱いて思いっきり泣かせてあげたいと思った。




