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036)在斗の挑戦

 今回の儀式へ参加するのは、在斗あると一人。舘谷たてやさんは昨日の訓練で腰を痛めてしまい、今日の儀式は見送ることになった。


 楽の音と共に、位の高そうな男性が次々と重々しく現れ、祭事場の広場を経由して上のほうへ着席していく。


 続いて巫女王クリティネが姿を見せ、男性達より上の場所に着座すると、会場が厳かな雰囲気に包まれていった。


 広場に控えていた巫女姿の少女達が、手にしていた盃を振って酒を撒いていき、広場の清めが終わると音楽が止んだ。


 クリティネが立ち上がり、祈りが始まった。クリティネが祝詞を唱える間、祭事場に完全な静寂が訪れた。


 祈りが終わり、クリティネが座ったのを合図のように、待ちきれないという感じで、人々がそわそわし始めた。


 一人目の男性が広場に降り立った。長身で、細身の身体はよく日に焼けている。


 やがて、牡牛が牛舎から出て来ると、観覧席の皆が、緊張するのが伝わってきた。


 始まる。


 牡牛が男性へ向かって行く。


 牡牛へ小走りで近付いて行く男性。牡牛とぶつかる直前に、男性は足を広げて跳び上がった。牡牛の身体の上を、背中を直立に保った綺麗な姿勢で通り越した。


 一瞬の出来事だった。


 見下ろす人々は喜びに湧いた。大きな歓声と口笛で称え、太鼓を打ち鳴らしている。


 次の男性も、その次の男性も難なく跳び越えていく。歓喜と拍手が止まない中、在斗の番になった。


 在斗は広場に出ると、観覧席のほうを眺めながら、両腕を伸ばして頭の上で両手を打ち鳴らした。皆の拍手を煽っている。


 良かった。緊張しているように見えたけど、わりと平気そう。


 在斗と観覧席の拍手が、同じタイミングになった頃、牡牛が放たれた。


 真顔になった在斗が、牡牛の正面へ走り寄って行く。


 いつの間にか、私は拍手を止めて、自分の顔の前で両手を強く握り締めていた。


 牡牛と衝突する寸前で、ジャンプした在斗。


 牡牛へ覆い被さるような格好で、手足と身体からだが、牡牛の背と水平になるように跳んだ。


 そして、牡牛が走り去った地面へ両手で着地して、勢いを殺さないように前転して立ち上がった。


 喜びを爆発させるように、在斗が雄叫びを上げた。


 やったぁと、私は何度も飛び跳ね、隣りにいた明日美あすみとハイタッチを交わして喜び合った。


 その時、視界の端に宙香みちかを見付けた。私達の数段上の席だ。浮かれた様子の人々に埋もれてしまい、すぐに顔は見えなくなってしまった。


 私は儀式が終わるまで、席を離れようとする宙香の姿を見逃さないように注意していた。


 今なら、宙香を説得できるかもしれない。在斗の成功を見た宙香は、確かに嬉しそうな表情をしていたから。


 牡牛の背に乗って、儀式を成功させた男へ、巫女王から褒賞品ような物が手渡され、『牡牛跳び』は終わった。


 人々が立ち上がる。


 祭事場を出て行く人波をかき分けるようにして、私は宙香の後を追った。

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