034)冷たい視線
訓練の後、ソラと二人になれるチャンスを窺っていた私。
だけど、それがいかに難しいことか気付かされていた。ホテルへ戻ってからも、質問できそうにない時間が、ただ過ぎている。
「私は宙香さんを迎えに行ってきます。皆さんも、日が暮れてからの外出は控えてください」
そう言って出て行ったソラの後を急いで追った。
「ソラ」
地上は民家を装った建物になっている。出口の辺りで呼び止め、ソラへ追い付いた。
「私も一緒に行く」
並んで歩き始めた私をソラは拒まなかった。
「今日の質問ですか?」
予期していたようにのんびりと言うソラへ、私はくい気味に頷いた。
「あのね。ソラって、あの。私のお兄ちゃんなの?」
躊躇い気味に言葉を並べた私へ、ソラは何を言い出すんだ、とでもいうような顔をした。
「ほら。お母さんが違うとか、幼い頃に生き別れたとか。世の中には、いろいろあるじゃない」
少し淋しそうな笑顔で俯き、顔を上げた直後、ソラは横顔を硬くして立ち止まった。
怒らせてしまったかもと思いながら、でもこの様子なら、兄ではなさそうだと安心もした。
「紬生さんには、生き別れた兄弟がいるんですか? そんな話を聞いたことが?」
私は首を振った。
だけどソラは私のほうを見ずに、前方の一点へ冷たい視線を送っている。
そちらへ遠く目を凝らすと、薄暗がりの中、宙香がこちらへ歩いて来る姿が見えた。
冷たい感情は宙香へ向けられていたのかと、納得してしまっている自分に複雑な気持ちになる。
どうして宙香に冷たいの?
この質問にも、いつか答えてくれるだろうか。
ソラが宙香へ放つ眼差しには、踏み込んではいけない何かを感じる。
「私は、紬生さんとは血の繋がりはありません。だけど。昔、私のことをお兄ちゃんと呼んでくれていた女の子はいます」
「それは、私。だよね?」
「質問は一日一つまでです。明日も訓練、頑張ってください」
私へ向き直り、にやりと笑ったソラは、もういつものソラだった。
宙香を待って三人でラウンジへ戻ると、波江野さんと詩葉さんが、宙香に詰め寄って来た。
「宙香さん。いったい、どういうつもりなんですか」
「二日も訓練に来ないなんて。このまま、儀式を受けないつもりなの?」
「ええ、そうですよ。私、牡牛を跳びに来た訳じゃないので」
咎め立てる二人へ平然と答え、宙香は部屋へ入って行った。
「何なんだ、あの人は!」
波江野さんが吐き捨てるように言った。
「代表の娘だっていう、自覚が無いのよ。もう、知らない! あんな人、放っておきましょ」
詩葉さんも抑えきれないといった感じで、怒りを露にした。
その様子を見た私は、胸が騒いで仕方がなかった。
一緒に訓練から抜ける命令には逆らい、宙香を非難する人達から宙香を庇うこともしない。
このまま、皆が宙香を無視することになったら、私はまた、高校の時と同じことを宙香にしてしまうことになる。
そんな自分は嫌い。もうこれ以上、自分を嫌いになりたくないと思った。
今の私に何ができるだろう。




