033)熱い視線
紀元前一八二八年 クレタ島、五日目。
ソラのことが知りたくて、訓練に参加する私。
鼻先に、人参でもぶら下げられている馬と同じかもしれない。だけど、昨日の自分よりは好き。
人生を選択すると考えると恐れが生まれるから、まずは衝動に、正直に生きることを覚えよう。
宙香には昨夜の内に、訓練を続けたいと伝えに行った。許してくれなかったら諦めるつもりで。
だけど、宙香は驚きもしなかったし、怒りもしなかった。
「いいよ、別に。紬生が訓練を休まなくても、元々、どっちでも良かったんだ」
本当にそうだったんだろうか。
宙香は今日も訓練を休んだ。訓練場へは来ずに、直接海へ行ってしまった。
訓練場では今、三人の男の熱い視線が牡牛に注がれている。
動きに安定感のある舘谷さん。抜群の運動神経を誇る在斗。そして、誰よりも牡牛跳びの経験に長けているソラ。
柵内を我が物顔で歩き回っている牡牛の動きに、三人が注目している。
次の儀式には、舘谷さんと在斗が参加することになった。
幼少の頃、体操を習っていたと言う舘谷さんは、先ほどあっさりと牡牛を跳んで見せた。その後で、自分の動きを冷静に分析して、ソラに助言を求めている。
在斗のほうは、まだ牡牛を跳ぶまでに至っていないけど、少しづつ動きを修正していっている段階。
二人ならきっと、儀式の本番でも成功できるだろうと期待が膨らむ。その反面、一日休んだだけなのに、引き離されて遅れてしまったという、焦りも生じている。
焦るなんて、私にもまだ、儀式を受ける気持ちが残っているみたい。
波江野さん、詩葉さんは黙って二人を見守っている。
私の横で、エールの掛け声を上げているのは明日美。カモガヤに似た植物の葉を集めてポンポンを作り、振りながら踊っている様子はチアガールそのもの。
私はと言うと、三人の内、一人にだけ熱い視線を送っていた。
訓練が終わったら、真っ先に何を聞こう。
ソラの年齢? 私との関係? それとも……。好きな人はいる?
なんてね。
昨日あれから、幼かったあの頃の記憶を懸命に辿った。あまり思い出せなかったけど、あの男の子のことを、お兄ちゃんと呼んでいたのは間違いないと思う。
これまでの、私に対するソラの眼差しが優しかったのは、私が妹だからなのかも。
ソラと私は血が繋がっている。そう考えると、どっと落ち込む。
でも、はっきりさせたほうがいい。もっと好きになってしまう前に。引き返せる今の内に、ちゃんと聞くんだ。
最初の質問は決まった。




