表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
30/41

030)泣くやん

 昼頃、部屋のチャイムが鳴った。


「紬生さん。身体からだの調子はいかがですか? 何か召し上がられましたか?」


 ソラの声が扉越しに聞こえてきた。訓練の合間に、わざわざ戻って来てくれたのか。


 アテンダントだから、旅行者の体調に気を配っている。ソラにとっては当たり前のこと。そこに、私に対する感情は何も無い。


 ソファに寝転がっていた半身を起こして、のそのそと扉へ近付いて行った。


「余り良く無いです。でも、寝ていれば大丈夫です」


 この先もずっと訓練を休むつもりだから、良くなったとは言えない。息苦しそうな小芝居もしてみた。


「辛いところ申し訳ないのですが、扉を開けてもらえないですか? 少しだけでいいです。お客様の容態を確認するのも、私の仕事ですので」


「大丈夫ですから」


 モニターに映るソラの顔を見ないようにして、短く答えた。


 直接会って話したら、仮病がバレてしまう。


 それに、朝から繰り返し号泣していたから、顔がぐちゃぐちゃになっている。鏡に映った自分の顔を見て、絶対に扉を開けてはいけないと、強く思った。


「紬生さん。アテンダントには規則があります。一日一回は必ず、直接お客様と顔を合わせなくてはなりません」


「ほんとに、大丈夫ですから。でも、こうやって話していると辛いです。横になっていたら大丈夫なので、心配しないでください」


「それはいけませんね。どうか、早く横になって休んでください」


 良かった。顔を合わせることを諦めてくれたみたい。


 ソラが去って行くのを確認しようと思い、モニターを見て驚いた。


 去っていくどころか、ソラはずっとカメラのほうを見ている。まるで、レンズ越しの私と、目を合わせようとしているみたい。


「アテンダント規則、第三十二条二項により、お客様の部屋へ入室します」


 高らかに宣言をしたソラ。


 と同時に、ピーッというドアの解錠音が聞こえた。


 えっ? えっ? えぇっ! 入って来るの!? 


 隠れなくちゃと、急いでソファに横になり、放り出してあった毛布で顔を覆った。


「失礼します」


 ソラが静かに入ってくる気配がした。しばらくしても黙ったまま、話しかけてもこない。


 どこでどうしているのか気になってしまう。


 少し毛布をずらして視界を確保してみると、ソラは私のすぐ脇にいた。


 御神体の中庭で、巫女王に対して礼儀を見せた時と同じように、ソファの横で片膝を付いて座っている。


 懐かしいモノを見ているような瞳で、私へ視線を落としていたソラと目が合ってしまった。


「アテンダント規則、第三十二条二項では、お客様の身の安全が不明な場合、マスターキーを使っての入室が許されているんです」


 こんな間近で、そんな風に真っ直ぐ見つめられたら、視線を逸らすなんて無理。


 何てふさふさした睫毛なんだろう。お肌もつやつや。


 こんな時でも頭の片隅では、ソラの微細な部分の情報を収集してる。


「普段、敬語を使わないお客様が、突然敬語を使う時は、背景に何かを抱いている場合が多いんです」


 強引とも言えるこの行いには、ソラなりのそういう理由があったのか。


「何か、あったんですか」


 穏やかな口調で問われて、瞳に涙が溜まっていくのを止められなかった。


「何もない。もう、何もない。私には、もう……」


 うわぁ~んと、子供のように声を上げて泣いてしまった。


 ソラの指先が私のほうへ伸びてきて、私が泣き止むまでの間、私の頭を何度も撫でていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ