028)蔓延る
中学の頃の私は、一方的に宙香と友達になりたいと思っていた。
幼い頃から慣れ親しんだ教団の、教祖の娘であったのも大きい。教祖の娘だからきっと、慈悲深く、私にも気付きや優しさを与えてくれるだろうという期待もあったから。
宙香は常に同級生達の話題の中心にいて、皆を惹き付けている存在だった。
身体は小柄で痩せているのに、誰よりもパワフル。そんな宙香の周りには、いつも七、八人の決まった仲間がいた。
宙香の仲間達は、自分の意見を言ったり、自己主張したりする前に、白旗を振って、進んで宙香の腰巾着になっているような輩ばかり。
そんな輩の一人が、私だった。
宙香が木星だとしたら、私のような存在はその周りを回る、命名もされていない小さな衛星の一つに過ぎない。
宙香という人間は、そんな小さなモノに、気を配ってくれるような魂の持ち主じゃ無かった。そう気付いた時は、もうグループから抜け出せなくなっていた。
中学時代を振り返ると、事ある毎に、宙香のご機嫌取りに奔走した三年間だったと、苦い想いが蘇ってくる。
高校生活は宙香と関係の無い時間を過ごすと決意していた。それなのに、第一希望の公立高校の試験に落ちた私は、宙香と同じ高校へ進学する羽目に。
事件が起こったのは、高校へ入学してしばらく経った頃。
教団がある動画配信者によって、誹謗中傷を受けるようになったのが始まり。
中傷内容は、全くの捏造動画だった。
既に解体された宗教団体や、上世光波教団とは全く関係の無い新興宗教が引き合いに出されていた。それらの信者が、過去に起こした事件などを、無理やりに結び付けただけの的外れな動画。
だけど、世間は飛び付いた。
信者数が爆発的に増えていた頃で、教団と、入信したばかりの信者家族との間にトラブルも起きていたから、不安視する気運もあったのかもしれない。いろんなメディアが教団の糾弾を始めた。
教祖の娘である宙香にも、その波は押し寄せていた。
あんなに共感や同調を示していた人達が、宙香の元を潮が引くより早く離れていった。
そんな中で、私だけでも宙香の味方をしていたら、格好良かったかもしれない。
私はそうしなかった。
皆に紛れるようにして、私もそっと宙香から距離を置いた。
宙香と一緒にいたら、自分も仲間外れにされる。それが怖かったから。
日に日に口数が減り、宙香は表情を暗くしていった。学校に来られなくなって、しばらくしてフリースクールへ転校したと、噂で聞いた。
学校というコミュニティを出た後では、つまらないことを気にしていたと分かる。だけど、あの時の私にはそうすることでしか、自分を守れなかったんだ。
だけど、自分に都合の良いように理由を挙げて正当化しても、心の奥のほうでは罪悪感となって広がっていた出来事。宙香に対してひどいことしたという気持ちが、根っこの部分で蔓延っていた。
まさか、それを宙香に指摘されるなんて。
私は宙香の一番の側近という訳じゃ無かった。グループでも端のほうにいただけだから、私が宙香から離れたことを、裏切りと捉えているなんて、今の今まで考えもしなかった。
「その様子だと、自覚があるみたいね」
宙香の口調には怒りは含まれていない。むしろ面白がっているように聞こえた。
それが余計に不気味で、抗うことの出来ない糸にからめ捕られていくような感じがして、胸が苦しくなった。




