026)嫉妬?
宙香かと、落胆した。だけども、ソラじゃなかったことに、ちゃんと安心もしている。
扉の向こう側にはモニターがないから、今の表情は見られていないはず。
宙香の訪れに戸惑いながら、ゆっくりとドアを開けた。
「入っていい?」
こちらが答える前に、扉と私を押し退けるようにして、宙香が入って来た。
「私の部屋と、全く同じ造りね。ソファの色が違うだけ」
言いながら、宙香は自分の部屋にでもいるかのように、ソファに座って足を組んだ。
一人用のこの部屋の幅は畳の長手ほど。寝台になっているロフトの下が、壁に固定されたベンチソファになっている。奥にはトイレとシャワーブース。
狭い空間に宙香と二人きり。正直緊張する。
人一人分ほど離れて座り、正面の壁に映る、鏡の中の宙香をそっと眺めた。
部屋を広く感じさせるためもあるのか、ベンチソファと向き合う壁は、全面鏡貼りになっている。
私も宙香も、自分達の時代では化粧もしているし、エクステしたり、カラコンを入れたりして、顔が変わるほど身だしなみを整えている。ここではエクステもカラコンも禁止されているから、自分と宙香の素の顔が鏡に並んでいた。二人共、幼く見える。
「紬生にお願いがあるの」
宙香も、鏡越しの私を見つめてきた。
心なしか、威嚇されているように感じる。私の意識が勝手に反応して、宙香の視線を避けるように俯いた。
「ソラって。私のことが嫌いみたい」
意外な言葉に顔を上げると、宙香の表情が憎しみで歪んでいるように見えた。
アテンダント、つまり奉仕する側のソラに嫌われるのを、宙香が気にするとは思えないけど。
そう言えば、昨夜は宙香もソラと二人の時間があったんだった。
「ソラと、何かあったの?」
知りたい気持ちを悟られないように、慎重に尋ねると、宙香は更にムッとした顔になった。
「訓練を受けないって、ソラに言ったら」
宙香の喉からごくりと音がした。
「訓練を受けないのは、別に構わない。訓練をしないで儀式に臨むのは危険だけど、仕方がないですねって」
宙香は、訓練も儀式も参加しない、そう告げたつもりだったのだと思う。それに対してソラは、あくまでも儀式を受ける前提で答えている。噛み合っていない。
「そもそも私達は、牡牛を跳び越えに来たんじゃない。御神体を拝みに来たんだから。儀式も受けないって伝えたら。急に、厳しい顔になって」
宙香の顔に陰りが見えた。私が実物の宙香のほうへ顔を向けるまで、宙香は言い淀んでいた。
「嫌だ、やりたくないと言えば、済まされてきた人生だった。そうなんでしょう? あなたは、自分の周りに、自分中心の世界を作り上げてるんだ。今後もそうやって、好き勝手に生きていけばいいって」
あのソラが、そんな突き放すような物言いをしたなんて信じられなかった。
ソラの言ったことは、私にはそれほど的外れでも無いように思える。でも、アテンダントのソラが言う内容にしては、流石に、踏み込み過ぎじゃないだろうか。
やっぱり、まだソラのことを何も知らない。そんなブラックなソラでも、私は知りたい。
私には見せたことのない顔を知っている宙香に、嫉妬めいた気持ちが持ち上がっていた。




