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025)恋、しちゃってない

 夕食を自分の部屋で食べた後は、訓練の疲れもあって、早めに寝台で横になっていた。


 寝台はロフトになっていて、天井が近い。さっきから、その天井を見上げてぼうっとしている。


 今朝目の当たりにした光景が、頭から離れない。牡牛を跳ぶソラの姿。もう何度も何度も思い返している。


 他のことを考えよう。


 そうやって無理に打ち消すと、今度は、別のソラの仕草や表情が、次から次へと記憶の底から湧き上がってくる。


 不思議そうに覗き込んできた丸い瞳。俯き加減になった時、特に存在感の増す鼻筋。明日美あすみ在斗あるとにいじられて笑う時の頬の皺。ガイドを始める前の、喉仏が上下する様子とすました声。扉を開ける時、親指だけくいっと反り返る指先。


 そして、私の身体からだを支えてくれた時の、弱い私も受け入れてくれそうな手の平の温もり。


 私の中にいつの間にか、ソラの立ち振舞いストックがこんなにも揃っている。


 これはマズい。好きになってる。


「ダメダメダメダメ」


 急いで叫んで、上半身を起こした。触れるか触れないかぐらいの所にある天井へ、勢いから頭をぶつけそうになって、再び寝転がった。


 恋なんてしちゃったら、ソラとはもう何も話せなくなるじゃない。


 今まで誰かを好きになった後はいつもそうだった。


 私にだって、異性と普通にいい関係を築けることもある。でも、相手を意識した途端に必ず駄目になってきた。自分の全てに自信が持てなくなって、顔を合わすのも会話も無理になる。


 ソラとはそんな風になりたくない。もっと話をしたいし、もっとソラのことを知りたい。


 そう言えば、ソラが何歳かも知らないし。私の二、三歳上だろうと、当たりは付けてるんだけど。


 誰もいないのに、両手で顔を隠した。


 だいたい、ソラは私になんて好かれたくないよ。気持ちを知られてしまったら、引かれるだけ。


 大丈夫。まだ本気で好きになってない。まだ戻れる。私はソラを好きにならない。


 心に刻み付けるんだ。


 好きじゃない。好きじゃない。……。


 好きじゃない呪文を繰り返していると、その意識に反発するように、脳内の別の場所から自分を責める気持ちが這い出してきた。


 昨日は二人だけの時間があったじゃない。チャンスだったのに。紬生つむぎ、あんた一体何してたのよ、と。


 はっとして、身体からだを起こす。今になって顔が熱くなった。


 私。ソラと二人だげで並んで歩いてた!


 もうあんなことは二度と起こらないかもしれない。


 ふいに悲しみが押し寄せてきた。ため息と共に、うつ伏せになって倒れ込む。


 チャンスって、何のチャンスよ。


 情緒がおかしくなってる。冷静にならないと。


 そこへ、部屋のチャイムが鳴った。


 ソラかも、と顔を上げた。


 あり得ないことじゃない。明日の予定か何かの業務連絡とか。


 あとは……。


 紬生さん、お茶飲みませんかとか。なんてね。


 そわそわしている自分へ言い聞かせる。例えソラだったとしてもいつも通り。平常心、平常心。


 寝台から降り、扉脇のカメラを確認した。モニターの中には宙香みちかの顔があった。

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